◇第四話◇指輪
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あの悪夢から一週間が経とうとしている。
トロスト区内に残された死体の回収は数日前に全て終わり、住民も少しずつトロスト区内への立ち入りを許可されだした。
だが、巨人襲来によって受けた人類の打撃は大きかった。
運がいいことに、私の家族や友人は、ヒルラ以外は全員無事だったが、今回のことで家族や友人を失った人達は大勢いる。
今、私達家族は、内門の中で暮らす親戚の家に身を寄せている。
それも本当に運が良かったと思う。
ほとんどのトロスト区内の住人は、邪魔ものだとばかりに顔を歪める冷たい視線に耐えきれず、人の住めるような場所ではないそこで自分の居場所を探す方がマシだと、悪夢が残る場所へ戻ることを願っているのだから―。
(もう二度と…、あんなところになんて行きたくない…。)
トロスト区内への立ち入りが許可されだしたと言っても、それはほんの一部だ。
それに、事務所が巨人による落石で破壊され職を失ってしまったし、住む家ももうない。
トロスト区に戻る理由なんて、故郷だということしかない。
親戚の家で暮らすことになってから、私はリビングのソファに座って窓の外をただぼんやりと眺めて過ごしていた。
朝も昼も夜も、ずっと。飽きもしないで、行きかう人を眺めては、人間の生活をしている彼らの姿に安心して、胸をなでおろす。
あの日、トロスト区内の巨人掃討作戦が終わった後、あの勘違い兵士の目を盗んで制服を脱ぎ、晴れて民間人へと戻ることが出来た。
内門の中でようやく家族と再会できた時は、両親も兄弟も友人も、どこを探しても見つからない私の死を嘆き悲しみ、そして発狂して泣き喚いていた。
私が現れたときの両親の顔は、きっと一生忘れないと思う。
あのとき、私は初めて、父親の涙を見た。
幽霊でも見たかのような驚いた表情が、一気に破壊され、瞳からどっと溢れる涙を拭うこともせずに頬に流し、駆け寄ってきてくれた。
母親と父親にキツく、キツく…抱きしめられたとき、彼らの温もりにどれだけ安心したか。
『よかった…っ。生きてた…っ。』
『この…っ、バカ娘!どこ行ってたんだ…!』
泣きながら、娘が生きていたことを喜び、そして心配をかけたことを叱る両親の言葉に、それだけ恐ろしい状況にいたのだということを改めて実感し、恐怖感が一気に湧きあがった。
それさえも、巨人とは比べ物にならないくらいに小さな彼らの手が、私をキツく抱きしめる度に消してくれた。
もう二度と、私は両親の涙を見たくない。
大切な家族を泣かせたくない。
だからというだけではないが、駐屯兵に勘違いされて兵士として作戦に駆り出されたことは誰にも言っていない。
民間人が勝手に立体起動装置や超硬質スチールを使用することや巨人を討伐すること、勘違いによる強制だとしても兵士のフリをしたことが罪に問われるのかどうかは知らない。
でも、その可能性だってないわけじゃない。
それに、わざわざその話をする必要性も感じられない。
あのときはいた兵士が1人いなくなっていたくらいで、駐屯兵団が騒ぐとは到底思えなかった。
だって、1人どころか100人以上の兵士が、あの日、一度に、いなくなったのだから―。
「結婚、か…。」
あのとき、命を懸けてまで探しに行った指輪は、左手の薬指で、こんな混とんとした世界には不釣り合いなくらいにキラキラ輝いている。
そっと撫でれば、ひんやりとした冷たい感触が指先から心臓まで走り抜けて、思わず身震いをした。
「本当にするの?」
キッチンで紅茶を作っていた母が、トレイを持ってやってきた。
礼を言って受け取ってから、さっきの質問に答えた。
「するよ。こんなチャンスないもん。」
「それは、あんな素敵な人と結婚出来るチャンス?
それとも、内地に行けるチャンス?」
「…貴族でカッコよくて優しくて素敵で、そんな完璧な人と結婚するチャンスよ。」
間違ったことを言ったつもりはない。
でも、母は小さく息を吐くと、私の顔を真っ直ぐに見据えた。
真面目な話が始まる前だ。あまり良いことを言われる気がしない。
「なまえは本当にルーカスくんのことが好きなの?」
「好きよ。」
「愛してる?」
「…愛してる。」
「それはどんな苦労をしてもいいから、一緒にいたいと思うほど?」
「貴族で優しいルーカスと結婚して、苦労なんてしないわよ。」
「結婚すれば内地での生活になるのよ。今までと全く違う暮らしの中で
ルーカスくんのご両親とうまくやれるの?」
「ルーカスがいるならきっと大丈夫よ。」
「ルーカスくんだっていつもなまえのそばにいられるわけじゃないのよ。
育ってきた環境だって違うのにー」
「何が言いたいの?私の結婚が嬉しくないの?」
ルーカスと恋人になった時から、母はずっと私の気持ちを削ぐようなことばかりを言う。
確かに身分の違いはある。
娘が苦労をするんじゃないかと心配してくれているのも分かる。
でも、ルーカスは身分の違いを乗り越えて、結婚をしたいと言ってくれたのだ。
しかもー。
「家族で内地に移住出来るんだよ。もう巨人に襲われることもない。
そんな幸せなことないじゃない!」
思わず声を荒げてしまう。
そうじゃなくても結婚に対してナーバスになっているのだ。
マリッジブルーの娘に、これ以上、不安を煽るようなことを言わないでほしい。
「私もお父さんもなまえが本当に愛してる人と結婚してくれるなら
それでいいのよ。なまえが幸せになるのなら、私達にとってそれ以上の幸せはないの。」
それだけ言うと、母はまだ少し残ったコーヒーカップを持ってキッチンへと下がった。
幸せになることが、私をこの世に誕生させ無償の愛を送り続けてくれる両親への恩返しになるのなら、私は絶対に誰よりも幸せになる。
それがルーカスとの結婚だと、そう、信じてる。
トロスト区内に残された死体の回収は数日前に全て終わり、住民も少しずつトロスト区内への立ち入りを許可されだした。
だが、巨人襲来によって受けた人類の打撃は大きかった。
運がいいことに、私の家族や友人は、ヒルラ以外は全員無事だったが、今回のことで家族や友人を失った人達は大勢いる。
今、私達家族は、内門の中で暮らす親戚の家に身を寄せている。
それも本当に運が良かったと思う。
ほとんどのトロスト区内の住人は、邪魔ものだとばかりに顔を歪める冷たい視線に耐えきれず、人の住めるような場所ではないそこで自分の居場所を探す方がマシだと、悪夢が残る場所へ戻ることを願っているのだから―。
(もう二度と…、あんなところになんて行きたくない…。)
トロスト区内への立ち入りが許可されだしたと言っても、それはほんの一部だ。
それに、事務所が巨人による落石で破壊され職を失ってしまったし、住む家ももうない。
トロスト区に戻る理由なんて、故郷だということしかない。
親戚の家で暮らすことになってから、私はリビングのソファに座って窓の外をただぼんやりと眺めて過ごしていた。
朝も昼も夜も、ずっと。飽きもしないで、行きかう人を眺めては、人間の生活をしている彼らの姿に安心して、胸をなでおろす。
あの日、トロスト区内の巨人掃討作戦が終わった後、あの勘違い兵士の目を盗んで制服を脱ぎ、晴れて民間人へと戻ることが出来た。
内門の中でようやく家族と再会できた時は、両親も兄弟も友人も、どこを探しても見つからない私の死を嘆き悲しみ、そして発狂して泣き喚いていた。
私が現れたときの両親の顔は、きっと一生忘れないと思う。
あのとき、私は初めて、父親の涙を見た。
幽霊でも見たかのような驚いた表情が、一気に破壊され、瞳からどっと溢れる涙を拭うこともせずに頬に流し、駆け寄ってきてくれた。
母親と父親にキツく、キツく…抱きしめられたとき、彼らの温もりにどれだけ安心したか。
『よかった…っ。生きてた…っ。』
『この…っ、バカ娘!どこ行ってたんだ…!』
泣きながら、娘が生きていたことを喜び、そして心配をかけたことを叱る両親の言葉に、それだけ恐ろしい状況にいたのだということを改めて実感し、恐怖感が一気に湧きあがった。
それさえも、巨人とは比べ物にならないくらいに小さな彼らの手が、私をキツく抱きしめる度に消してくれた。
もう二度と、私は両親の涙を見たくない。
大切な家族を泣かせたくない。
だからというだけではないが、駐屯兵に勘違いされて兵士として作戦に駆り出されたことは誰にも言っていない。
民間人が勝手に立体起動装置や超硬質スチールを使用することや巨人を討伐すること、勘違いによる強制だとしても兵士のフリをしたことが罪に問われるのかどうかは知らない。
でも、その可能性だってないわけじゃない。
それに、わざわざその話をする必要性も感じられない。
あのときはいた兵士が1人いなくなっていたくらいで、駐屯兵団が騒ぐとは到底思えなかった。
だって、1人どころか100人以上の兵士が、あの日、一度に、いなくなったのだから―。
「結婚、か…。」
あのとき、命を懸けてまで探しに行った指輪は、左手の薬指で、こんな混とんとした世界には不釣り合いなくらいにキラキラ輝いている。
そっと撫でれば、ひんやりとした冷たい感触が指先から心臓まで走り抜けて、思わず身震いをした。
「本当にするの?」
キッチンで紅茶を作っていた母が、トレイを持ってやってきた。
礼を言って受け取ってから、さっきの質問に答えた。
「するよ。こんなチャンスないもん。」
「それは、あんな素敵な人と結婚出来るチャンス?
それとも、内地に行けるチャンス?」
「…貴族でカッコよくて優しくて素敵で、そんな完璧な人と結婚するチャンスよ。」
間違ったことを言ったつもりはない。
でも、母は小さく息を吐くと、私の顔を真っ直ぐに見据えた。
真面目な話が始まる前だ。あまり良いことを言われる気がしない。
「なまえは本当にルーカスくんのことが好きなの?」
「好きよ。」
「愛してる?」
「…愛してる。」
「それはどんな苦労をしてもいいから、一緒にいたいと思うほど?」
「貴族で優しいルーカスと結婚して、苦労なんてしないわよ。」
「結婚すれば内地での生活になるのよ。今までと全く違う暮らしの中で
ルーカスくんのご両親とうまくやれるの?」
「ルーカスがいるならきっと大丈夫よ。」
「ルーカスくんだっていつもなまえのそばにいられるわけじゃないのよ。
育ってきた環境だって違うのにー」
「何が言いたいの?私の結婚が嬉しくないの?」
ルーカスと恋人になった時から、母はずっと私の気持ちを削ぐようなことばかりを言う。
確かに身分の違いはある。
娘が苦労をするんじゃないかと心配してくれているのも分かる。
でも、ルーカスは身分の違いを乗り越えて、結婚をしたいと言ってくれたのだ。
しかもー。
「家族で内地に移住出来るんだよ。もう巨人に襲われることもない。
そんな幸せなことないじゃない!」
思わず声を荒げてしまう。
そうじゃなくても結婚に対してナーバスになっているのだ。
マリッジブルーの娘に、これ以上、不安を煽るようなことを言わないでほしい。
「私もお父さんもなまえが本当に愛してる人と結婚してくれるなら
それでいいのよ。なまえが幸せになるのなら、私達にとってそれ以上の幸せはないの。」
それだけ言うと、母はまだ少し残ったコーヒーカップを持ってキッチンへと下がった。
幸せになることが、私をこの世に誕生させ無償の愛を送り続けてくれる両親への恩返しになるのなら、私は絶対に誰よりも幸せになる。
それがルーカスとの結婚だと、そう、信じてる。