◇第四十七話◇自由な兵士
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分隊の所属兵士達から預かった書類を提出するために団長の執務室にやってきていたはずのハンジだったが、その大事な書類はいつまでもエルヴィンの手元にはやってこなかった。
本来の目的である書類の提出も忘れて、ハンジが、捕獲した巨人の実験の進捗状況を嬉々として語っているからだ。
しかもそれは、過去に他の巨人で行った実験の反復であるため、エルヴィンはその結果を聞かずとも知っている。
だが、そこはハンジの頭から抜けているのか、それとも、自分がそうであるようにエルヴィンも知っていても聞きたいと思っているのか。おそらく、後者の方だ。
「なまえの様子はどうだ。」
しびれを切らしたエルヴィンは強引に話題を変えて、ハンジの話の腰を折った。
単純な上に、頭の回転の速いハンジは、すぐにその話題に乗っかった。
「せっかく休暇があるなら無駄にしたくないって、
部屋に籠って書類仕事に明け暮れてるよ。
早く仕事を終わらせて、ストヘス区の憲兵施設に会いたい子がいるらしい。」
「そうか。それならよかった。
良かったら、私にもその書類を見せてくれないか。」
「あぁ…!そうか、そうだったね!忘れてたよ。」
ハンジの手から、ようやくエルヴィンのもとに書類が渡った。
エルヴィンは、デスクの引き出しから取り出した眼鏡をかけて、書類の確認をしながら、口を開く。
「リヴァイの様子はどうだ?」
「リヴァイかい?うーん、いつも通りだと思うけどね。
どうして?」
「いや、いつも通りなら問題ない。」
「そう?」
不思議に思いつつも、ハンジはそれで納得してしまう。
巨人のことになるととことん突き詰めようとするのに、そのほかのことには無頓着なのがハンジのいいところでもある。
「ずっと聞きたかったんだけどさ。」
書類の確認に時間がかかると思ったのか、ハンジはソファに腰を下ろした。
「何だ?」
視線は書類に落としたまま、エルヴィンは訊ねる。
「なまえって兵士は死んだ、そう言ったよね?」
「あぁ、言ったな。」
「じゃあ、どうしてなまえが調査兵団に戻ってこれるように
エルヴィンが手を回してたのか、いろいろ考えてみたけど、全く分からなかったんだ。
なまえは帰ってくるって確信でもあったの?」
どうやら、巨人のこと以外でも気になることがハンジにもあったらしい。
書類の上に並ぶ文字を追いかけるエルヴィンの脳裏に、壁外調査目前に突然執務室にやってきた意外な来訪者の姿が蘇る。
『エルヴィン団長にお願いがあります。』
自分が所属する兵団のトップを前にして、臆することもなく、堂々とした敬礼。
意志の強い眼差し。
ハンジはなまえの実力をかっているようだったが、そのときのエルヴィンには、ルルの方に希望の光を見た。
少なくとも、どこか不安定で危なっかしい印象のなまえよりも、ずっと兵士らしかった。
彼女の実力は、ミケも認めていたくらいだ。
「いや、言っただろう。
私は、なまえという兵士は死んだとそう信じていたよ。」
「それならどうして?!」
ソファに座ったまま、ハンジは身体を前のめりにした。
気になって仕方のない性格にプラスして、可愛がっているなまえのことだから余計気になるのだろう。
エルヴィンは書類から顔を上げて、話し出す。
「君達と同じさ。」
「私と?」
「私は、ルルに言われたようにしただけだ。」
「ルルに?」
「壁外調査前に私のところに来たルルが言ったんだよ。
もし、自分が死んで、なまえが調査兵団を辞めたいと言い出したら、
絶対に引き留めないで辞めさせてやってくれと。」
あのとき、ルルは真剣な顔でそんな話をするから驚いた。
ハンジから、ルルがどういう経緯で調査兵団に入団したのかについては聞いていた。
次の壁外調査では、何かあればなまえのために死ぬ覚悟なのだということは分かったが、自分が死んだ後の心配までしているとは思っていなかった。
「そんなことを…。でも、じゃあ、どうして?
わざわざ、調査兵団を残れるようにしてやったんだい?」
ハンジが首を傾げる。
死んでいった若い兵士の願いを聞くために、自分が書類の書き換えまでしてしまったなんて呆れてしまう。
でも、あのまっすぐな眼差しを見て、断れる人間がいるのなら教えてほしいくらいだ。
「なまえが自分の意思で辞めたいと言ったときは、引き留めないであげてほしい。
だから、自分の意思で考えられるようになるまで、待ってあげて欲しい。
それまでは、帰れる場所を守っていてあげてほしい。」
「ルルが、そう言ったのかい…?」
「私に託されたルルからの最後の願いを、私は叶えてやる義務があった。
約束をしてしまったからね。」
エルヴィンはそこまで話すと、また書類に視線を戻した。
なまえが兵舎を出て行く日、最後の挨拶に来た彼女に、エルヴィンは、本当に調査兵団を辞めたいのかと問うた。
ここで、「辞めたい。」と答えれば、本当に退団届として受理するつもりだった。
だが、なまえはそうは言わなかった。
『苦しいんです…。私はこの場所に、大切な人が出来すぎました…。』
顔を伏せ、なまえが苦しそうに絞り出した声は、辞めたいとは言っていなかった。
だから、一縷の望みをかけて、エルヴィンは退団届を休暇届に書きかえて、ストヘス区に住むなまえの家族にも手を回した。
そして、なまえは調査兵団へ戻ることを願い、帰ってきた。
すべては、ルルの思惑通りだったのか、エルヴィンがただ期待の新人を失いたくなかったのか、他に心配事や打算があったのか。
今となっては、自分でも分からない。
ただー。
「そっか~。そんなことがあったのか。
さすが、ルルだな。
そのおかげで、なまえは戻ってきて、他のみんなもなんだか明るくなったんだよねっ。」
ハンジが嬉しそうに言った。
本当に、その通りだ。
本来の目的である書類の提出も忘れて、ハンジが、捕獲した巨人の実験の進捗状況を嬉々として語っているからだ。
しかもそれは、過去に他の巨人で行った実験の反復であるため、エルヴィンはその結果を聞かずとも知っている。
だが、そこはハンジの頭から抜けているのか、それとも、自分がそうであるようにエルヴィンも知っていても聞きたいと思っているのか。おそらく、後者の方だ。
「なまえの様子はどうだ。」
しびれを切らしたエルヴィンは強引に話題を変えて、ハンジの話の腰を折った。
単純な上に、頭の回転の速いハンジは、すぐにその話題に乗っかった。
「せっかく休暇があるなら無駄にしたくないって、
部屋に籠って書類仕事に明け暮れてるよ。
早く仕事を終わらせて、ストヘス区の憲兵施設に会いたい子がいるらしい。」
「そうか。それならよかった。
良かったら、私にもその書類を見せてくれないか。」
「あぁ…!そうか、そうだったね!忘れてたよ。」
ハンジの手から、ようやくエルヴィンのもとに書類が渡った。
エルヴィンは、デスクの引き出しから取り出した眼鏡をかけて、書類の確認をしながら、口を開く。
「リヴァイの様子はどうだ?」
「リヴァイかい?うーん、いつも通りだと思うけどね。
どうして?」
「いや、いつも通りなら問題ない。」
「そう?」
不思議に思いつつも、ハンジはそれで納得してしまう。
巨人のことになるととことん突き詰めようとするのに、そのほかのことには無頓着なのがハンジのいいところでもある。
「ずっと聞きたかったんだけどさ。」
書類の確認に時間がかかると思ったのか、ハンジはソファに腰を下ろした。
「何だ?」
視線は書類に落としたまま、エルヴィンは訊ねる。
「なまえって兵士は死んだ、そう言ったよね?」
「あぁ、言ったな。」
「じゃあ、どうしてなまえが調査兵団に戻ってこれるように
エルヴィンが手を回してたのか、いろいろ考えてみたけど、全く分からなかったんだ。
なまえは帰ってくるって確信でもあったの?」
どうやら、巨人のこと以外でも気になることがハンジにもあったらしい。
書類の上に並ぶ文字を追いかけるエルヴィンの脳裏に、壁外調査目前に突然執務室にやってきた意外な来訪者の姿が蘇る。
『エルヴィン団長にお願いがあります。』
自分が所属する兵団のトップを前にして、臆することもなく、堂々とした敬礼。
意志の強い眼差し。
ハンジはなまえの実力をかっているようだったが、そのときのエルヴィンには、ルルの方に希望の光を見た。
少なくとも、どこか不安定で危なっかしい印象のなまえよりも、ずっと兵士らしかった。
彼女の実力は、ミケも認めていたくらいだ。
「いや、言っただろう。
私は、なまえという兵士は死んだとそう信じていたよ。」
「それならどうして?!」
ソファに座ったまま、ハンジは身体を前のめりにした。
気になって仕方のない性格にプラスして、可愛がっているなまえのことだから余計気になるのだろう。
エルヴィンは書類から顔を上げて、話し出す。
「君達と同じさ。」
「私と?」
「私は、ルルに言われたようにしただけだ。」
「ルルに?」
「壁外調査前に私のところに来たルルが言ったんだよ。
もし、自分が死んで、なまえが調査兵団を辞めたいと言い出したら、
絶対に引き留めないで辞めさせてやってくれと。」
あのとき、ルルは真剣な顔でそんな話をするから驚いた。
ハンジから、ルルがどういう経緯で調査兵団に入団したのかについては聞いていた。
次の壁外調査では、何かあればなまえのために死ぬ覚悟なのだということは分かったが、自分が死んだ後の心配までしているとは思っていなかった。
「そんなことを…。でも、じゃあ、どうして?
わざわざ、調査兵団を残れるようにしてやったんだい?」
ハンジが首を傾げる。
死んでいった若い兵士の願いを聞くために、自分が書類の書き換えまでしてしまったなんて呆れてしまう。
でも、あのまっすぐな眼差しを見て、断れる人間がいるのなら教えてほしいくらいだ。
「なまえが自分の意思で辞めたいと言ったときは、引き留めないであげてほしい。
だから、自分の意思で考えられるようになるまで、待ってあげて欲しい。
それまでは、帰れる場所を守っていてあげてほしい。」
「ルルが、そう言ったのかい…?」
「私に託されたルルからの最後の願いを、私は叶えてやる義務があった。
約束をしてしまったからね。」
エルヴィンはそこまで話すと、また書類に視線を戻した。
なまえが兵舎を出て行く日、最後の挨拶に来た彼女に、エルヴィンは、本当に調査兵団を辞めたいのかと問うた。
ここで、「辞めたい。」と答えれば、本当に退団届として受理するつもりだった。
だが、なまえはそうは言わなかった。
『苦しいんです…。私はこの場所に、大切な人が出来すぎました…。』
顔を伏せ、なまえが苦しそうに絞り出した声は、辞めたいとは言っていなかった。
だから、一縷の望みをかけて、エルヴィンは退団届を休暇届に書きかえて、ストヘス区に住むなまえの家族にも手を回した。
そして、なまえは調査兵団へ戻ることを願い、帰ってきた。
すべては、ルルの思惑通りだったのか、エルヴィンがただ期待の新人を失いたくなかったのか、他に心配事や打算があったのか。
今となっては、自分でも分からない。
ただー。
「そっか~。そんなことがあったのか。
さすが、ルルだな。
そのおかげで、なまえは戻ってきて、他のみんなもなんだか明るくなったんだよねっ。」
ハンジが嬉しそうに言った。
本当に、その通りだ。