◇第四十二話◇優しい声の使者
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
調査兵団を辞めてストヘス区の家族の元へ戻って数日が経っていた。
トロスト区で暮らしていた実家よりもだいぶ大きな家は、分不相応で落ち着かない。
使ってもいいと用意してくれていたこの広い部屋もまだ慣れないけれど、それでも、家族は楽しそうにやっているようだった。
仕事に困ることもなく、エルヴィン団長が懇意にしている貴族の女性が時々顔を出しては、母の話し相手になってくれているらしい。
調査兵団を辞めてからもこうして、家族でストヘス区にいられるのだから、あのとき覚悟をして入団を決めて良かった。
良かったのだー。
「いつまでも部屋にこもってないで、たまには外の空気を吸って来なさい。」
部屋の扉を勝手に開けて、母がため息交じりに文句を言う。
小言を言われるのも久しぶりで、懐かしく感じる。
エルヴィン団長が、私がストヘス区に帰ってくる理由をなんと家族に伝えたのかは分からない。
父も母も娘が帰ってくるということは知っていたようだったが、その理由については何も言わない。
もしも、エルヴィン団長から調査兵団の兵士をしていたということを聞いてしまったのなら、きっと大騒ぎしていそうだから、そこは伏せて、うまく話しているのだろう。
変なことを言って蒸し返したくもないので、わざわざ私から話すこともしていない。
「は~い…。」
やる気なく答え、また母が繰り返す小言を聞き流しながら玄関へ向かう。
家を出ると、柔らかい風がスカートを揺らした。
母が強引にでも私を外に出した理由が分かった気がする。
今日は散歩日和だ。
エルヴィン団長が用意してくれた家族の家は、ストヘス区の壁際にあった。比較的、緑の多い自然豊かな場所だ。
元々は別荘だったと聞いているが、この場所を別荘地に選んだ理由がよくわかる。
散歩をするにはちょうどいい景色が広がっていて、気持ちがいい。
憲兵団施設のある中央広場に行くのは、まだ勇気が出ない私は、壁に沿って歩き出した。
もう少し、心が落ち着いたら、勇気を持てるようになったら、アニに会いに行きたいと思っている。
生きて帰ってくると約束をしたのに、連絡もなにも出来ずにいる。アニが私の生死を気にして心配しているとは思えないけれど。
「リヴァイ兵長…。」
壁に触れて、無意識に出た言葉に自分で驚く。
私はまだ、リヴァイ兵長のことを想っているようだ。
なんと愚かだろうか。
もう二度と会えないし、そもそも彼はー。
不意に蘇る、リヴァイ兵長の胸板の厚みや腕が腰に触れる感触、耳元にかかる息遣い。
調査兵団を辞めた日、リヴァイ兵長はどうして私を抱きしめたんだろう。
こんな惨めな私を、どうして。
調査兵団から逃げて、大切な仲間からも逃げて、人類の未来からも逃げて、こんなに弱い私を、どうして。
でも、リヴァイ兵長は、弱いと言った私に、そのままでいいと言ってくれた。
離さない、とばかりにギュッと、ギュッと抱きしめた力強い腕は、まるで「行くな。」と言っているみたいでー。
(そんなわけないか。)
自嘲気味な笑みが浮かぶ。
あの後、リヴァイ兵長は私を突き放すみたいに身体を離したじゃないか。
そして、部屋から出て行けとばかりに、エルヴィン団長への挨拶は済ませたのかと言い出してー。
最後は、部屋を出る私と目も合わせてくれなかった。
冷たい壁からそっと手を離し、私はまた歩き出す。
高い高い壁に沿って歩き続けたら、どこに辿り着くのだろう。
それはまた高い壁の続く世界だと知って、調査兵団は壁の外へ飛んでいくのだろうな。
そんなことを考えて、私は小さく首を横に振る。
もう、彼らのことを思い出したって意味がない。
私は、あの場所から逃げてきた身で、元々、眩しいくらいに強いあの人達の仲間になれるような特別な人間ではなかったのだ。
エルヴィン団長に挨拶を済ませて兵舎の門を出て行くとき、リヴァイ兵長だけではなくて、ハンジさんも見送りに来てはいなかった。
ペトラもいなかった。
当然見送りに来てくれると思っていたわけではないけれど、でも、やっぱり、慕っていた2人がいなかったのは寂しかった。
オルオ達は、忙しいのだと言っていたけれど、きっとこんな弱い私に呆れて、顔も見たくなかったのだと思う。
しばらくのんびり歩いていると、後ろから馬車が近づいてくるような音がした。
ストヘス区の辺鄙な場所であるこんなところに馬車でやってくるのは、暇を持て余している貴族くらいだと思う。
気持ちのいい天気だから彼らも散歩なのかもしれない。
馬車の音は、私の少し後ろの方で止まった。誰かが降りてきたような気配を感じて、なんとなく振り返って、私は驚愕した。
「え。」
馬車から降りて、私をまっすぐに見据えていたのはー。
トロスト区で暮らしていた実家よりもだいぶ大きな家は、分不相応で落ち着かない。
使ってもいいと用意してくれていたこの広い部屋もまだ慣れないけれど、それでも、家族は楽しそうにやっているようだった。
仕事に困ることもなく、エルヴィン団長が懇意にしている貴族の女性が時々顔を出しては、母の話し相手になってくれているらしい。
調査兵団を辞めてからもこうして、家族でストヘス区にいられるのだから、あのとき覚悟をして入団を決めて良かった。
良かったのだー。
「いつまでも部屋にこもってないで、たまには外の空気を吸って来なさい。」
部屋の扉を勝手に開けて、母がため息交じりに文句を言う。
小言を言われるのも久しぶりで、懐かしく感じる。
エルヴィン団長が、私がストヘス区に帰ってくる理由をなんと家族に伝えたのかは分からない。
父も母も娘が帰ってくるということは知っていたようだったが、その理由については何も言わない。
もしも、エルヴィン団長から調査兵団の兵士をしていたということを聞いてしまったのなら、きっと大騒ぎしていそうだから、そこは伏せて、うまく話しているのだろう。
変なことを言って蒸し返したくもないので、わざわざ私から話すこともしていない。
「は~い…。」
やる気なく答え、また母が繰り返す小言を聞き流しながら玄関へ向かう。
家を出ると、柔らかい風がスカートを揺らした。
母が強引にでも私を外に出した理由が分かった気がする。
今日は散歩日和だ。
エルヴィン団長が用意してくれた家族の家は、ストヘス区の壁際にあった。比較的、緑の多い自然豊かな場所だ。
元々は別荘だったと聞いているが、この場所を別荘地に選んだ理由がよくわかる。
散歩をするにはちょうどいい景色が広がっていて、気持ちがいい。
憲兵団施設のある中央広場に行くのは、まだ勇気が出ない私は、壁に沿って歩き出した。
もう少し、心が落ち着いたら、勇気を持てるようになったら、アニに会いに行きたいと思っている。
生きて帰ってくると約束をしたのに、連絡もなにも出来ずにいる。アニが私の生死を気にして心配しているとは思えないけれど。
「リヴァイ兵長…。」
壁に触れて、無意識に出た言葉に自分で驚く。
私はまだ、リヴァイ兵長のことを想っているようだ。
なんと愚かだろうか。
もう二度と会えないし、そもそも彼はー。
不意に蘇る、リヴァイ兵長の胸板の厚みや腕が腰に触れる感触、耳元にかかる息遣い。
調査兵団を辞めた日、リヴァイ兵長はどうして私を抱きしめたんだろう。
こんな惨めな私を、どうして。
調査兵団から逃げて、大切な仲間からも逃げて、人類の未来からも逃げて、こんなに弱い私を、どうして。
でも、リヴァイ兵長は、弱いと言った私に、そのままでいいと言ってくれた。
離さない、とばかりにギュッと、ギュッと抱きしめた力強い腕は、まるで「行くな。」と言っているみたいでー。
(そんなわけないか。)
自嘲気味な笑みが浮かぶ。
あの後、リヴァイ兵長は私を突き放すみたいに身体を離したじゃないか。
そして、部屋から出て行けとばかりに、エルヴィン団長への挨拶は済ませたのかと言い出してー。
最後は、部屋を出る私と目も合わせてくれなかった。
冷たい壁からそっと手を離し、私はまた歩き出す。
高い高い壁に沿って歩き続けたら、どこに辿り着くのだろう。
それはまた高い壁の続く世界だと知って、調査兵団は壁の外へ飛んでいくのだろうな。
そんなことを考えて、私は小さく首を横に振る。
もう、彼らのことを思い出したって意味がない。
私は、あの場所から逃げてきた身で、元々、眩しいくらいに強いあの人達の仲間になれるような特別な人間ではなかったのだ。
エルヴィン団長に挨拶を済ませて兵舎の門を出て行くとき、リヴァイ兵長だけではなくて、ハンジさんも見送りに来てはいなかった。
ペトラもいなかった。
当然見送りに来てくれると思っていたわけではないけれど、でも、やっぱり、慕っていた2人がいなかったのは寂しかった。
オルオ達は、忙しいのだと言っていたけれど、きっとこんな弱い私に呆れて、顔も見たくなかったのだと思う。
しばらくのんびり歩いていると、後ろから馬車が近づいてくるような音がした。
ストヘス区の辺鄙な場所であるこんなところに馬車でやってくるのは、暇を持て余している貴族くらいだと思う。
気持ちのいい天気だから彼らも散歩なのかもしれない。
馬車の音は、私の少し後ろの方で止まった。誰かが降りてきたような気配を感じて、なんとなく振り返って、私は驚愕した。
「え。」
馬車から降りて、私をまっすぐに見据えていたのはー。