◇第三十九話◇会いたい…
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シンと静まり返った医務室で、包帯を巻く音だけが静かに響く。
医療班の兵士は、リヴァイの血だらけの右手のひらと右腕を見て絶句していた。
慌てて処置の準備をしながら、どうしてこんなことになったのかと訊ねた彼は、ハンジから理由を聞いたっきり不要なことは口にしないようになった。
亡くなった兵士の遺族が、調査兵団に怒りや悲しみをぶつけてくることは少なくない。
悲しいけれど、こういう流血沙汰も珍しくはないのだ。
「睡眠薬を処方しました。」
「え?」
ただ黙って丁寧に右手に包帯を巻いていた医療班の兵士が、急に喋り出すから聞き逃しそうになった。
ハンジが再度、訊ねると、彼は包帯を巻く手を止めた。
ちょうど、包帯を巻き終えたようだ。
「壁外調査から戻った翌日でした。
ペトラに連れられて、なまえが来たんです。」
「そうか。」
「怖い夢を…、ルルが死ぬときの夢を見て眠れないみたいで
このままじゃ睡眠不足で倒れてしまうってペトラが心配していて。」
「それで睡眠薬を処方したのか。」
ハンジの確認のための問いに、医療班の兵士はツラそうに頷いた。
彼も、喜んで睡眠薬を渡したわけではないのだろう。
眠れないほどに苦しんでいる仲間を前にして、どうしようもなかったのだ。
ここにもまた、仲間のために苦しんでいる兵士がいるのに。
どうしてー。
「どうして、こんなことになってしまうんでしょうね…。」
医療班の兵士は座ったままで後ろを向き、処置で使った道具を医療ワゴンに片付けていく。
彼が呟いたそれは、まるで、ハンジの心の声が漏れたみたいだった。
「私達はただ…、自由な世界で生きてみたいだけなのに…。
生きたいだけなのに…。誰も、苦しめたいわけじゃない…。」
消毒液を握りしめたまま動かなくなった医療班の兵士の背中は、震えていた。
医務室のベッドは、先の壁外調査で傷ついた兵士達で埋め尽くされている。さらに重症の兵士達は、兵舎内にある医療施設に送られた。そこで余生を過ごすことを余儀なくされる兵士も少なくないだろう。
なにも彼らは、自分の命を犠牲にしたくて壁外に出たわけではない。
そう、ただ生きたかっただけなのだ。
こんな狭い壁の中の世界ではなくて、壁のない自由な世界を、自由に飛び回りたかっただけだ。
誰も、家族を、友人を、悲しませたかったわけじゃないのにー。
「うまいな。」
不意に、リヴァイが口を開いた。
包帯を巻かれた自分の右手を開いたり、閉じたりしている。
あまり動かすなと慌てる医療班の兵士に、リヴァイは優しく言った。
「これからも、傷だらけのおれ達をよろしく頼む。
お前らがいるから、おれ達は自由に飛べる。頼りにしている。」
「…っ!はい、もちろんです…っ。
任せてください。」
医療班の兵士は、涙を流すまいと唇を噛み、頭を下げた。
(動かしたら痛いくせに。)
リヴァイを見下ろし、そう思ったけれど、苦笑をにじませたハンジがそれを指摘することはなかった。
医療班の兵士は、リヴァイの血だらけの右手のひらと右腕を見て絶句していた。
慌てて処置の準備をしながら、どうしてこんなことになったのかと訊ねた彼は、ハンジから理由を聞いたっきり不要なことは口にしないようになった。
亡くなった兵士の遺族が、調査兵団に怒りや悲しみをぶつけてくることは少なくない。
悲しいけれど、こういう流血沙汰も珍しくはないのだ。
「睡眠薬を処方しました。」
「え?」
ただ黙って丁寧に右手に包帯を巻いていた医療班の兵士が、急に喋り出すから聞き逃しそうになった。
ハンジが再度、訊ねると、彼は包帯を巻く手を止めた。
ちょうど、包帯を巻き終えたようだ。
「壁外調査から戻った翌日でした。
ペトラに連れられて、なまえが来たんです。」
「そうか。」
「怖い夢を…、ルルが死ぬときの夢を見て眠れないみたいで
このままじゃ睡眠不足で倒れてしまうってペトラが心配していて。」
「それで睡眠薬を処方したのか。」
ハンジの確認のための問いに、医療班の兵士はツラそうに頷いた。
彼も、喜んで睡眠薬を渡したわけではないのだろう。
眠れないほどに苦しんでいる仲間を前にして、どうしようもなかったのだ。
ここにもまた、仲間のために苦しんでいる兵士がいるのに。
どうしてー。
「どうして、こんなことになってしまうんでしょうね…。」
医療班の兵士は座ったままで後ろを向き、処置で使った道具を医療ワゴンに片付けていく。
彼が呟いたそれは、まるで、ハンジの心の声が漏れたみたいだった。
「私達はただ…、自由な世界で生きてみたいだけなのに…。
生きたいだけなのに…。誰も、苦しめたいわけじゃない…。」
消毒液を握りしめたまま動かなくなった医療班の兵士の背中は、震えていた。
医務室のベッドは、先の壁外調査で傷ついた兵士達で埋め尽くされている。さらに重症の兵士達は、兵舎内にある医療施設に送られた。そこで余生を過ごすことを余儀なくされる兵士も少なくないだろう。
なにも彼らは、自分の命を犠牲にしたくて壁外に出たわけではない。
そう、ただ生きたかっただけなのだ。
こんな狭い壁の中の世界ではなくて、壁のない自由な世界を、自由に飛び回りたかっただけだ。
誰も、家族を、友人を、悲しませたかったわけじゃないのにー。
「うまいな。」
不意に、リヴァイが口を開いた。
包帯を巻かれた自分の右手を開いたり、閉じたりしている。
あまり動かすなと慌てる医療班の兵士に、リヴァイは優しく言った。
「これからも、傷だらけのおれ達をよろしく頼む。
お前らがいるから、おれ達は自由に飛べる。頼りにしている。」
「…っ!はい、もちろんです…っ。
任せてください。」
医療班の兵士は、涙を流すまいと唇を噛み、頭を下げた。
(動かしたら痛いくせに。)
リヴァイを見下ろし、そう思ったけれど、苦笑をにじませたハンジがそれを指摘することはなかった。