◇第三十七話◇親友を亡くす地獄
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留守番組だった新兵と数名の先輩兵士が見守る中、壁外調査に出かけた調査兵団が帰ってきた。
帰還日も予定通りで、先輩兵士達は少し安心しているように見えた。
エルヴィン団長に続き、リヴァイ兵長、分隊長達が門をくぐってやってくる。
戻ってきた調査兵達は、見たところ出かけたときの数から減っていないように感じたが、荷馬車に並べられている人間の大きさをした布が、犠牲は避けられなかったことを無言で語っていた。
そんな中、一緒に授業を受けるようになってから、姉のように慕っていたなまえの姿を見つけ、クリスタはホッとして駆け寄った。
「おかえりなー。」
声をかけようとして、顔を見た途端、言葉が喉の奥に引っ込んだ。
無事の帰還を喜び合う兵士、カラネス区の住人に自慢気に手を振る兵士、それとは対照的に、負傷して苦しそうな顔をしている兵士、巨人の恐怖に屈したのか絶望的な顔をしている兵士、いろいろいる。
でも、なまえの表情は、そのどれとも違っていた。
顔色が真っ青なわけでもない、どこか怪我をしている様子もない。
なまえは、暴れ馬だと有名なテュランの背中に背筋を伸ばして座っているのに、生きていなかった。
分かっている。彼女は生きている、彼女の心臓は動いているのだろう。
でも、確かに、クリスタには、生きていないように見えたのだ。
「目が死んでるな。ルル辺りが死んだか。」
隣に立つユミルがなまえを見上げながら言った言葉で、自分が感じた違和感の理由を理解した。
そうか、綺麗な澄んだ色が魅力的な彼女の瞳から、色がなくなっている。
そこには、光を映すどころか絶望すら宿っておらず、ユミルの言った通り、死んでいた。
「ルルさん…!」
「あっ!待て!クリスタ!!」
クリスタは、続々と門をくぐってくる兵士の中から必死にルルの姿を探した。
なまえとルル、2人は新兵の中でも有名だった。
いつも一緒にいる彼女達は、とても目立っていたから。
兵士とは思えない華奢でか弱そうな身体、それをしなやかに動かして立体起動装置を使いこなし空を飛ぶ姿は誰よりも美しくて目を引いた。
立体起動装置の邪魔になるからと髪を短く切ったり、普段からひとつにまとめている女兵士達が多い中で、訓練や任務中以外はほどいている髪が風に靡く度に甘いフルーツのような匂いが広がって、キラキラ光ってとても綺麗だった。
サシャが彼女達に懐いていたのも、甘い匂いに誘われて寄ってくる昆虫の性質と同じなんじゃないかと思うほど。
それに、何より、2人はいつもお互いを信頼し合っているように見えた。
先輩兵士達は、彼女達のことを異例の新兵コンビだと呼んでいた。
中途半端な時期に入団した同期として、仲間意識が彼女達の間に生まれたのだろうことはクリスタも感じ取っていた。
それはまるで、自分の身体の半分を埋めるみたいで、お互いにお互いが必要なのだと身体と心が理解しているようでー。
それがもし、そんな2人がもしー。
自分の身体の半分を失ったらどうなるのかー。
想像するだけで、胸が締め付けられる。
「キャーーーッ!!」
突然上がった悲鳴に驚いて、クリスタは後ろを振り向いた。
荷馬車が道に落ちていた石に乗り上げたようだった。
運悪く、その荷馬車は遺体を積んでいたようで、倒れた拍子に布が外れて隠れていた遺体が露になっている。
血だらけ、バラバラになった身体が地面に転がり落ちる。
カラネス区の住人達は、悲鳴を上げたり、目を反らしたり、顔色を真っ青にしたり、反応はそれぞれだが、そのすべては彼らの死に背を向けるという共通点を持っていた。
「早く隠せ!!運べ!!!」
慌てて遺体を荷馬車に戻す調査兵や駐屯兵達に混じって、クリスタもすぐに駆け寄り、道に転がる勇敢な兵士に手を伸ばした。
「うそ…。」
遺体の胸から上にかけてかかっていた布が、クリスタが抱え上げたことで滑り落ちた。
片腕と身体の下半分を失ったのに美しいままのその遺体は、死んでも尚、太陽を浴びて綺麗な長い髪をキラキラと光らせていた。
フルーツのような甘い香りが、鼻の奥に痛みとなって届く。
「…貸せっ!」
クリスタから力尽くでルルの亡骸を奪い取ったユミルは、荒々しい言動とは裏腹に、そっと荷馬車にその身体を置いた。
今回の被害について問い詰めるカラネス区の住人達に、エルヴィン団長が堂々と答えた。
想定よりも少ない犠牲で済んだ、作戦も成功したーと。
自分の身体を半分失った女兵士のことを想い、クリスタは天を仰ぐ。
降り出した雨は、泣いてる人も笑っている人も、平等に濡らしていく。
まるで、彼女達の涙のような悲しい雨は、その日ずっと降り続けた。
帰還日も予定通りで、先輩兵士達は少し安心しているように見えた。
エルヴィン団長に続き、リヴァイ兵長、分隊長達が門をくぐってやってくる。
戻ってきた調査兵達は、見たところ出かけたときの数から減っていないように感じたが、荷馬車に並べられている人間の大きさをした布が、犠牲は避けられなかったことを無言で語っていた。
そんな中、一緒に授業を受けるようになってから、姉のように慕っていたなまえの姿を見つけ、クリスタはホッとして駆け寄った。
「おかえりなー。」
声をかけようとして、顔を見た途端、言葉が喉の奥に引っ込んだ。
無事の帰還を喜び合う兵士、カラネス区の住人に自慢気に手を振る兵士、それとは対照的に、負傷して苦しそうな顔をしている兵士、巨人の恐怖に屈したのか絶望的な顔をしている兵士、いろいろいる。
でも、なまえの表情は、そのどれとも違っていた。
顔色が真っ青なわけでもない、どこか怪我をしている様子もない。
なまえは、暴れ馬だと有名なテュランの背中に背筋を伸ばして座っているのに、生きていなかった。
分かっている。彼女は生きている、彼女の心臓は動いているのだろう。
でも、確かに、クリスタには、生きていないように見えたのだ。
「目が死んでるな。ルル辺りが死んだか。」
隣に立つユミルがなまえを見上げながら言った言葉で、自分が感じた違和感の理由を理解した。
そうか、綺麗な澄んだ色が魅力的な彼女の瞳から、色がなくなっている。
そこには、光を映すどころか絶望すら宿っておらず、ユミルの言った通り、死んでいた。
「ルルさん…!」
「あっ!待て!クリスタ!!」
クリスタは、続々と門をくぐってくる兵士の中から必死にルルの姿を探した。
なまえとルル、2人は新兵の中でも有名だった。
いつも一緒にいる彼女達は、とても目立っていたから。
兵士とは思えない華奢でか弱そうな身体、それをしなやかに動かして立体起動装置を使いこなし空を飛ぶ姿は誰よりも美しくて目を引いた。
立体起動装置の邪魔になるからと髪を短く切ったり、普段からひとつにまとめている女兵士達が多い中で、訓練や任務中以外はほどいている髪が風に靡く度に甘いフルーツのような匂いが広がって、キラキラ光ってとても綺麗だった。
サシャが彼女達に懐いていたのも、甘い匂いに誘われて寄ってくる昆虫の性質と同じなんじゃないかと思うほど。
それに、何より、2人はいつもお互いを信頼し合っているように見えた。
先輩兵士達は、彼女達のことを異例の新兵コンビだと呼んでいた。
中途半端な時期に入団した同期として、仲間意識が彼女達の間に生まれたのだろうことはクリスタも感じ取っていた。
それはまるで、自分の身体の半分を埋めるみたいで、お互いにお互いが必要なのだと身体と心が理解しているようでー。
それがもし、そんな2人がもしー。
自分の身体の半分を失ったらどうなるのかー。
想像するだけで、胸が締め付けられる。
「キャーーーッ!!」
突然上がった悲鳴に驚いて、クリスタは後ろを振り向いた。
荷馬車が道に落ちていた石に乗り上げたようだった。
運悪く、その荷馬車は遺体を積んでいたようで、倒れた拍子に布が外れて隠れていた遺体が露になっている。
血だらけ、バラバラになった身体が地面に転がり落ちる。
カラネス区の住人達は、悲鳴を上げたり、目を反らしたり、顔色を真っ青にしたり、反応はそれぞれだが、そのすべては彼らの死に背を向けるという共通点を持っていた。
「早く隠せ!!運べ!!!」
慌てて遺体を荷馬車に戻す調査兵や駐屯兵達に混じって、クリスタもすぐに駆け寄り、道に転がる勇敢な兵士に手を伸ばした。
「うそ…。」
遺体の胸から上にかけてかかっていた布が、クリスタが抱え上げたことで滑り落ちた。
片腕と身体の下半分を失ったのに美しいままのその遺体は、死んでも尚、太陽を浴びて綺麗な長い髪をキラキラと光らせていた。
フルーツのような甘い香りが、鼻の奥に痛みとなって届く。
「…貸せっ!」
クリスタから力尽くでルルの亡骸を奪い取ったユミルは、荒々しい言動とは裏腹に、そっと荷馬車にその身体を置いた。
今回の被害について問い詰めるカラネス区の住人達に、エルヴィン団長が堂々と答えた。
想定よりも少ない犠牲で済んだ、作戦も成功したーと。
自分の身体を半分失った女兵士のことを想い、クリスタは天を仰ぐ。
降り出した雨は、泣いてる人も笑っている人も、平等に濡らしていく。
まるで、彼女達の涙のような悲しい雨は、その日ずっと降り続けた。