◇第二話◇不本意な兵士達の戦い
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足の骨が折れて走れない母親と幼い少女を運ぶのに、立体起動装置はとても役に立った。
離れてしまわないように、自分の身体と母親の身体を落ちていた長い布で巻きつけて、なんとか抱きかかえて内門へと向かえば、既に住人の避難は完了した後だった。
まさかまだ残っている住人がいるとは思っていなかったようで、驚いた駐屯兵団の兵士達に促されて、内門の中へと入る。
「よろしくお願いします。」
怪我をしている母親と少女を救護班の兵士に引き渡し、頭を下げる。
まだ内門の外では兵士達が巨人と戦っているとはいえ、これでようやく一息つける。
ウォール・マリアのときのようにこの内門さえ突破されなければ、人類はまた、首の皮一枚繋がることが出来る。
(みんなはどこだろう。)
きっと助かっている―。
内門までの道のりで地獄を見てきてもなお、自分の家族や友人だけは大丈夫だと信じている。
まだ実感がないのか、現実を受け入れたくないのか。
おそらく、そのどちらもだろう。
「さぁ、お前はこっちだ。」
「え?」
家族の姿を探していると、駐屯兵団の兵士に乱暴に腕を引かれた。
みんなが、家族や友人の無事に安心して抱き合っていたり、反対に絶望して立ち竦む人達の横をすり抜け、なぜか兵士達が集まる場所まで連れてこられた。
そして、待っていろとだけ言って兵舎の中に入っていった兵士は、手に何かを持って戻ってきた。
「ほら、これに着替えろ。」
そう言って兵士から差し出されたのは、兵士の制服だった。駐屯兵団のもののようだ。
着替えを差し出されて初めて、自分の姿を客観的に見れば、砂埃で汚れているどころか、服のあちこちが破れている。
ロングだったはずのスカートも、かろうじてスカートとしての形を残しているだけで、驚くほどのミニになっている。
乱暴に腕を引っ張るから、すごく嫌なヤツかと思ったが、ボロボロの服を着た女を見て、着替えを用意してくれた優しい男だったらしい。
着替えを受け取り、兵舎内の空いている部屋で着替えを済ませると、気の利く兵士を探す。
兵舎の外で待っててくれたようで、すぐに見つかった。
「有難うございました。助かりました。」
「あぁ、そりゃ、どうも。」
素っ気無く答えた兵士は、舐めまわすように私を見た後に、怪我はないかを尋ねてきた。
ないと答えれば、安堵の息を吐いた。
「それにしても、あんな恰好でよく民間人を助けられたな。よくやった。」
「そんなっ、必死だっただけですよ。」
民間人―という言い方が少し引っかかったが、こんな悪夢のような状況の中でも褒められたことが嬉しくて、自慢気になりそうな頭を掻きながらも、緩む頬は止められない。
「で、立体起動装置と超硬質スチールはどうした?」
「部屋に置いてきましたよ。」
「はぁ?なんでだよ。今すぐつけてこい。」
「え?なんでですか?」
「なんでってお前―。」
呆れたように何かを言いかけた兵士だったが、スキンヘッドに髭を生やした男が現れると、口を閉ざし、右手で左胸を叩いた。
彼の視線の先で、ベテランの駐屯兵と話しているスキンヘッドの男。彼の名前ならば、民間人でも知っている。
駐屯兵団司令官であり、現人類領土南部最高責任者のピクシス。兵士達には、ピクシス司令と呼ばれている。
この兵士は、上官が現れて、慌てて敬礼をしたということらしい。
そんなことを考えながらピクシス司令を見ていると、兵士の肘が肩をつついた。
何かと兵士の顔を見ると、敬礼のポーズのままで何かを訴えてくる。
どうやら、私にも敬礼をしろ、と言っているようだ。
兵士ならば理解できるが、私も必要だろうか―とも思ったが、この非常事態を救ってくれるのは駐屯兵団のトップであるピクシス司令しかいない。
その彼に敬意を示すのは、当然かもしれない。
そう思い直し、見よう見まねで敬礼のポーズを取っていると、ピクシス司令がこちらに気づいて近づいてきた。
「君の心臓は右にあるのかな?」
目の前までやってきたピクシス司令に訊ねられた。
「いえ…、左だと思います。」
意味が分からないまま答える私の隣で、兵士が大きなため息を吐いた。
「お許しください。こいつは今日、非番で、頭が休みから抜けていないんです。」
「非番?制服を着ているようじゃが?」
「今、着替えが終わったところです。これからは任務に入ります。」
「そうか。
こんな状況だ。混乱するのは当然じゃよ。心臓が右にあるのなら、よかったわい。」
非番?非番というのは兵士の休日のことだったか―?
そんなことを考えている私の頭上で、兵士とピクシスが言葉を交わす。
「敬礼は出来なかったこいつですが、つい先ほど、巨人を倒し母親と娘を救ったところです。
心臓を捧げる覚悟に嘘はございませんので、ご安心ください。」
「ほぉ、それは素晴らしい。
・・・それにしても、駐屯兵にこんな美人がおったかな?
わしが美人の顔を忘れるわけはないと思うのじゃが。」
ギョロッとした大きな目が、目の前に現れて一瞬たじろいだが、すぐにピクシス司令の言葉の違和感に気づいた。
そして、着替えとして制服を持ってきた兵士の勘違いにも―。
立体起動装置と超硬質スチールを用いて、巨人を倒し、母親と少女を助けたことで、非番の駐屯兵団の兵士だと思われているようだ。
恐ろしい勘違いだ。すぐに、誤解を解かなければ―。
「違います!私は駐屯兵団の兵士じゃありません!」
「はて?」
「お前、ピクシス司令を前にして何言ってんだ!」
「だって、違うんです!私はただの民間人なんです。」
「そんなわけないだろう!民間人がどうやって、立体起動装置と超硬質スチールを使いこなせるっていうんだ!」
「それは、仕事場で使い方を聞いたことがあったからです。」
「巨人が怖かったのは分かるが、敵前逃亡は死罪に当たるんだぞ!
しかも、嘘までついて、逃げようとするなんて!!
-すみません、ピクシス司令。こいつにはおれから言って聞かせるので、ご勘弁ください。」
巨人を目の前にしてしまって混乱しているのだ―、と主張し、馬耳東風の兵士は、私の話を全く聞いてくれないどころか、無理やり頭を下げさせられた。
「アンタは本当に兵士かい?」
無理やり頭を下げさせられている私に、ピクシス司令が訊ねる。
私の主張を聞き入れ、本当に兵士かどうかを確かめようとしているのだろうか。
それとも、この回答次第では、敵前逃亡の兵士とみなして死罪とさせられてしまうのだろうか。
何と答えるのが正しいのか考えあぐねていると、ドォォォンと轟音が響いた。
驚いて音がした方を見れば、巨人が倒されたときに出てきたような蒸気が上がっていた。
それも、壁内で―。
離れてしまわないように、自分の身体と母親の身体を落ちていた長い布で巻きつけて、なんとか抱きかかえて内門へと向かえば、既に住人の避難は完了した後だった。
まさかまだ残っている住人がいるとは思っていなかったようで、驚いた駐屯兵団の兵士達に促されて、内門の中へと入る。
「よろしくお願いします。」
怪我をしている母親と少女を救護班の兵士に引き渡し、頭を下げる。
まだ内門の外では兵士達が巨人と戦っているとはいえ、これでようやく一息つける。
ウォール・マリアのときのようにこの内門さえ突破されなければ、人類はまた、首の皮一枚繋がることが出来る。
(みんなはどこだろう。)
きっと助かっている―。
内門までの道のりで地獄を見てきてもなお、自分の家族や友人だけは大丈夫だと信じている。
まだ実感がないのか、現実を受け入れたくないのか。
おそらく、そのどちらもだろう。
「さぁ、お前はこっちだ。」
「え?」
家族の姿を探していると、駐屯兵団の兵士に乱暴に腕を引かれた。
みんなが、家族や友人の無事に安心して抱き合っていたり、反対に絶望して立ち竦む人達の横をすり抜け、なぜか兵士達が集まる場所まで連れてこられた。
そして、待っていろとだけ言って兵舎の中に入っていった兵士は、手に何かを持って戻ってきた。
「ほら、これに着替えろ。」
そう言って兵士から差し出されたのは、兵士の制服だった。駐屯兵団のもののようだ。
着替えを差し出されて初めて、自分の姿を客観的に見れば、砂埃で汚れているどころか、服のあちこちが破れている。
ロングだったはずのスカートも、かろうじてスカートとしての形を残しているだけで、驚くほどのミニになっている。
乱暴に腕を引っ張るから、すごく嫌なヤツかと思ったが、ボロボロの服を着た女を見て、着替えを用意してくれた優しい男だったらしい。
着替えを受け取り、兵舎内の空いている部屋で着替えを済ませると、気の利く兵士を探す。
兵舎の外で待っててくれたようで、すぐに見つかった。
「有難うございました。助かりました。」
「あぁ、そりゃ、どうも。」
素っ気無く答えた兵士は、舐めまわすように私を見た後に、怪我はないかを尋ねてきた。
ないと答えれば、安堵の息を吐いた。
「それにしても、あんな恰好でよく民間人を助けられたな。よくやった。」
「そんなっ、必死だっただけですよ。」
民間人―という言い方が少し引っかかったが、こんな悪夢のような状況の中でも褒められたことが嬉しくて、自慢気になりそうな頭を掻きながらも、緩む頬は止められない。
「で、立体起動装置と超硬質スチールはどうした?」
「部屋に置いてきましたよ。」
「はぁ?なんでだよ。今すぐつけてこい。」
「え?なんでですか?」
「なんでってお前―。」
呆れたように何かを言いかけた兵士だったが、スキンヘッドに髭を生やした男が現れると、口を閉ざし、右手で左胸を叩いた。
彼の視線の先で、ベテランの駐屯兵と話しているスキンヘッドの男。彼の名前ならば、民間人でも知っている。
駐屯兵団司令官であり、現人類領土南部最高責任者のピクシス。兵士達には、ピクシス司令と呼ばれている。
この兵士は、上官が現れて、慌てて敬礼をしたということらしい。
そんなことを考えながらピクシス司令を見ていると、兵士の肘が肩をつついた。
何かと兵士の顔を見ると、敬礼のポーズのままで何かを訴えてくる。
どうやら、私にも敬礼をしろ、と言っているようだ。
兵士ならば理解できるが、私も必要だろうか―とも思ったが、この非常事態を救ってくれるのは駐屯兵団のトップであるピクシス司令しかいない。
その彼に敬意を示すのは、当然かもしれない。
そう思い直し、見よう見まねで敬礼のポーズを取っていると、ピクシス司令がこちらに気づいて近づいてきた。
「君の心臓は右にあるのかな?」
目の前までやってきたピクシス司令に訊ねられた。
「いえ…、左だと思います。」
意味が分からないまま答える私の隣で、兵士が大きなため息を吐いた。
「お許しください。こいつは今日、非番で、頭が休みから抜けていないんです。」
「非番?制服を着ているようじゃが?」
「今、着替えが終わったところです。これからは任務に入ります。」
「そうか。
こんな状況だ。混乱するのは当然じゃよ。心臓が右にあるのなら、よかったわい。」
非番?非番というのは兵士の休日のことだったか―?
そんなことを考えている私の頭上で、兵士とピクシスが言葉を交わす。
「敬礼は出来なかったこいつですが、つい先ほど、巨人を倒し母親と娘を救ったところです。
心臓を捧げる覚悟に嘘はございませんので、ご安心ください。」
「ほぉ、それは素晴らしい。
・・・それにしても、駐屯兵にこんな美人がおったかな?
わしが美人の顔を忘れるわけはないと思うのじゃが。」
ギョロッとした大きな目が、目の前に現れて一瞬たじろいだが、すぐにピクシス司令の言葉の違和感に気づいた。
そして、着替えとして制服を持ってきた兵士の勘違いにも―。
立体起動装置と超硬質スチールを用いて、巨人を倒し、母親と少女を助けたことで、非番の駐屯兵団の兵士だと思われているようだ。
恐ろしい勘違いだ。すぐに、誤解を解かなければ―。
「違います!私は駐屯兵団の兵士じゃありません!」
「はて?」
「お前、ピクシス司令を前にして何言ってんだ!」
「だって、違うんです!私はただの民間人なんです。」
「そんなわけないだろう!民間人がどうやって、立体起動装置と超硬質スチールを使いこなせるっていうんだ!」
「それは、仕事場で使い方を聞いたことがあったからです。」
「巨人が怖かったのは分かるが、敵前逃亡は死罪に当たるんだぞ!
しかも、嘘までついて、逃げようとするなんて!!
-すみません、ピクシス司令。こいつにはおれから言って聞かせるので、ご勘弁ください。」
巨人を目の前にしてしまって混乱しているのだ―、と主張し、馬耳東風の兵士は、私の話を全く聞いてくれないどころか、無理やり頭を下げさせられた。
「アンタは本当に兵士かい?」
無理やり頭を下げさせられている私に、ピクシス司令が訊ねる。
私の主張を聞き入れ、本当に兵士かどうかを確かめようとしているのだろうか。
それとも、この回答次第では、敵前逃亡の兵士とみなして死罪とさせられてしまうのだろうか。
何と答えるのが正しいのか考えあぐねていると、ドォォォンと轟音が響いた。
驚いて音がした方を見れば、巨人が倒されたときに出てきたような蒸気が上がっていた。
それも、壁内で―。