◇第二十七話◇好きになってもいい人ですか?
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ストヘス区から戻ったのは翌日の早朝だった。
ハンジさんにそのまま休みをもらい、さっきまで寝ていた私は、少し早い昼食をとってから馬小屋へ向かった。
自分の馬の調子を見るためだ。
餌やりは飼育係がしてくれているが、ブラッシングなんかの馬とのコミュニケーションは自分でした方がいいとナナバさん達から教えてもらった。
「テュラン、散歩は気持ちいい?」
手綱を持って、隣を歩く自分の馬、テュランを見た。
返事はなかったけれど、楽しそうに見えるから良しとしよう。
壁の中の世界に嫌気がさして外に出たがる調査兵達と同じ。
狭い馬小屋の中にいるより、広い芝生の上を自由に歩き回る方が気持ちがいいに決まっている。
旧調査兵団本部の周りは森かだだっ広い草原だった。
散歩にちょうどいいと思って、ナナバさんに許可をもらって連れてきたけれど、正解だった。
トロスト区の調査兵団兵舎ではこんなに自由な散歩は出来なかったから、彼にとっても気分転換になって良かったと思う。
「休憩しようか。」
大きな木とそのそばを流れる小川を見つけた私は、その木陰で休むことに決めて手綱を引っ張った。
まだ歩きたいらしいテュランに抵抗されたけれど、休憩が終わったらまたたくさん散歩をすると約束して、なんとか休ませてもらえることになった。
彼が納得したのかは分からないが、対人格闘術のアニの指導で筋肉痛になったせいで、長い時間歩き続けられない私の体力のなさは、誰よりも理解しているだろうから諦めたのかもしれない。
テュランの手綱は小川のそばにある木に結び付け、私は大きな木に背中を預けるようにして座り込む。
小川の水を飲みだしたテュランを眺めながら、ここ最近あったすべてのことを思い返していた。
5年を経て再来した悪夢から、親友の死、なりゆきでの巨人討伐に調査兵団への勧誘。
そして、調査兵団に入団して、私は、命について考えることが増えた。
人類に心臓を捧げる覚悟を持っているのかと聞かれたら、自信がないどころか、私にはそんなつもりはないと思う。
でも、自分の置かれている立場や状況は理解しているから、人類に心臓を捧げたくなくとも、いつかそのために死ぬのだろうということは漠然と理解している。
それまでに私にできることは、エルヴィン団長の前で宣言したように、私のなりたい兵士として生を全うすること。
そう信じている。
なんて、昔の私が聞いたら「さすが兵士ね」なんて言うような大それた決意だけれど、そうでも思わないと、人類に心臓を捧げる勇敢な兵士になり損ねた私は巨人の前に立てない。それだけなのだ。
(あぁ、それから…。)
それから、私は恋をした。
混沌とした世界で、巨人との戦いを目の前にして、私は初めて、苦しいくらいに誰かを想う恋をした。
胸を焦がすーとはどういうことなのか、私は今、世界中の誰よりも知っていると言っても嘘にはならないんじゃないかってくらい。
私の胸は、ジリジリと熱く燃えて、焦げたところから火傷になって、痕になって消えなくて、ジリリジリリと痛みが疼く度に、私はあの人を想うのだ。
会いたいー。
自分で避けるような生活をしていながら、夜寝る前には思い出して恋しくなる矛盾だらけな毎日。
今、何してるんだろう―。
ふと気づくとそんなことを考えている。
「あ、」
妄想が生んだ幻かと思った。
黒い馬に乗ってこちらにやってきている小柄な調査兵は、リヴァイ兵長だった。
旧調査兵団本部とは反対方向から向かってきているということは、どこかに出かけていたのかもしれない。
「こんなとこで何してる。」
木陰までやってきたリヴァイ兵長は馬に乗ったままで、立ち上がって敬礼で迎えた私を見下ろす。
ストヘス区の出向に同行して以来だから、そこまで経っていないのに、なんだかすごく久しぶりに会ったような気がした。
「早朝、ストヘス区から戻ってきて、ハンジさんにお休みを頂いたので、
テュランとの親睦を深めるいい機会かと思って、お散歩に来て休んでたところです。」
答えを聞いたリヴァイ兵長は、小川で水を飲むテュランに視線を向けた。
「アレをもらったのか。」
アレ呼ばわりされたテュランは、鼻先を小川につけて遊びだしている。子魚でも見つけたのだろうか。
「逃げたい私を無理やり巨人の前に運んでいくような
薄情で怖いもの知らずの馬がいいって、ハンジさんにお願いしたんです。」
そんな私のお願いも、ハンジさんは困った顔をしつつも受け入れてくれた。
そういう経緯で、私に与えられたテュランは、白というよりも黄金色の毛並みが綺麗な上官が与えられる種類の馬だった。
足の速さも体力もトップクラスのテュランに今まで誰も持ち主が現れなかったのは、彼の気性の荒さが原因だ。
誰の言うことも聞かず、自分の思うままに走り続け、時には上に乗っている人間を振り落としてしまう。
しかも、それだけにとどまらず、逃げるべきところで巨人に突っ込んでいくという無謀なことをやらかすため、ずっと小屋の門番をしていたらしい。
名前の由来も、暴君から来ているくらいの筋金入りの暴れ馬。
ハンジさんからそんな紹介をされて、他の馬に変えてもいいと言われたけれど、私はテュランの手綱をとった。
望んだ以上の馬がやってきたとは思ったが、それくらいあった方が私には合っている。
誰も死なせない兵士になるためには、他の兵士達が諦めた命のもとへも飛び込んでいかないといけないのだ。
そこで尻込みしていたり、上官の制止を受け入れるようなお利巧さんではダメだ。
「またハンジを困らせてんのか。」
「可哀想だなって思います。」
小さくため息をついて、リヴァイ兵長は馬を降りた。
そして、テュランの手綱を結んだと同じ木に馬を繋ぐと、私の足元に腰を下ろして、木に背中を預けた。
「休憩だ。」
「そうですか。」
そう言って、私も腰を下ろした。
すぐ隣にいるリヴァイ兵長を見たくて、見れなくて。
リヴァイ兵長を視界の端に残したまま、私はよそ見をして小川を見る。
テュランがリヴァイ兵長の馬にちょっかいを出して、迷惑がられていた。
ハンジさんにそのまま休みをもらい、さっきまで寝ていた私は、少し早い昼食をとってから馬小屋へ向かった。
自分の馬の調子を見るためだ。
餌やりは飼育係がしてくれているが、ブラッシングなんかの馬とのコミュニケーションは自分でした方がいいとナナバさん達から教えてもらった。
「テュラン、散歩は気持ちいい?」
手綱を持って、隣を歩く自分の馬、テュランを見た。
返事はなかったけれど、楽しそうに見えるから良しとしよう。
壁の中の世界に嫌気がさして外に出たがる調査兵達と同じ。
狭い馬小屋の中にいるより、広い芝生の上を自由に歩き回る方が気持ちがいいに決まっている。
旧調査兵団本部の周りは森かだだっ広い草原だった。
散歩にちょうどいいと思って、ナナバさんに許可をもらって連れてきたけれど、正解だった。
トロスト区の調査兵団兵舎ではこんなに自由な散歩は出来なかったから、彼にとっても気分転換になって良かったと思う。
「休憩しようか。」
大きな木とそのそばを流れる小川を見つけた私は、その木陰で休むことに決めて手綱を引っ張った。
まだ歩きたいらしいテュランに抵抗されたけれど、休憩が終わったらまたたくさん散歩をすると約束して、なんとか休ませてもらえることになった。
彼が納得したのかは分からないが、対人格闘術のアニの指導で筋肉痛になったせいで、長い時間歩き続けられない私の体力のなさは、誰よりも理解しているだろうから諦めたのかもしれない。
テュランの手綱は小川のそばにある木に結び付け、私は大きな木に背中を預けるようにして座り込む。
小川の水を飲みだしたテュランを眺めながら、ここ最近あったすべてのことを思い返していた。
5年を経て再来した悪夢から、親友の死、なりゆきでの巨人討伐に調査兵団への勧誘。
そして、調査兵団に入団して、私は、命について考えることが増えた。
人類に心臓を捧げる覚悟を持っているのかと聞かれたら、自信がないどころか、私にはそんなつもりはないと思う。
でも、自分の置かれている立場や状況は理解しているから、人類に心臓を捧げたくなくとも、いつかそのために死ぬのだろうということは漠然と理解している。
それまでに私にできることは、エルヴィン団長の前で宣言したように、私のなりたい兵士として生を全うすること。
そう信じている。
なんて、昔の私が聞いたら「さすが兵士ね」なんて言うような大それた決意だけれど、そうでも思わないと、人類に心臓を捧げる勇敢な兵士になり損ねた私は巨人の前に立てない。それだけなのだ。
(あぁ、それから…。)
それから、私は恋をした。
混沌とした世界で、巨人との戦いを目の前にして、私は初めて、苦しいくらいに誰かを想う恋をした。
胸を焦がすーとはどういうことなのか、私は今、世界中の誰よりも知っていると言っても嘘にはならないんじゃないかってくらい。
私の胸は、ジリジリと熱く燃えて、焦げたところから火傷になって、痕になって消えなくて、ジリリジリリと痛みが疼く度に、私はあの人を想うのだ。
会いたいー。
自分で避けるような生活をしていながら、夜寝る前には思い出して恋しくなる矛盾だらけな毎日。
今、何してるんだろう―。
ふと気づくとそんなことを考えている。
「あ、」
妄想が生んだ幻かと思った。
黒い馬に乗ってこちらにやってきている小柄な調査兵は、リヴァイ兵長だった。
旧調査兵団本部とは反対方向から向かってきているということは、どこかに出かけていたのかもしれない。
「こんなとこで何してる。」
木陰までやってきたリヴァイ兵長は馬に乗ったままで、立ち上がって敬礼で迎えた私を見下ろす。
ストヘス区の出向に同行して以来だから、そこまで経っていないのに、なんだかすごく久しぶりに会ったような気がした。
「早朝、ストヘス区から戻ってきて、ハンジさんにお休みを頂いたので、
テュランとの親睦を深めるいい機会かと思って、お散歩に来て休んでたところです。」
答えを聞いたリヴァイ兵長は、小川で水を飲むテュランに視線を向けた。
「アレをもらったのか。」
アレ呼ばわりされたテュランは、鼻先を小川につけて遊びだしている。子魚でも見つけたのだろうか。
「逃げたい私を無理やり巨人の前に運んでいくような
薄情で怖いもの知らずの馬がいいって、ハンジさんにお願いしたんです。」
そんな私のお願いも、ハンジさんは困った顔をしつつも受け入れてくれた。
そういう経緯で、私に与えられたテュランは、白というよりも黄金色の毛並みが綺麗な上官が与えられる種類の馬だった。
足の速さも体力もトップクラスのテュランに今まで誰も持ち主が現れなかったのは、彼の気性の荒さが原因だ。
誰の言うことも聞かず、自分の思うままに走り続け、時には上に乗っている人間を振り落としてしまう。
しかも、それだけにとどまらず、逃げるべきところで巨人に突っ込んでいくという無謀なことをやらかすため、ずっと小屋の門番をしていたらしい。
名前の由来も、暴君から来ているくらいの筋金入りの暴れ馬。
ハンジさんからそんな紹介をされて、他の馬に変えてもいいと言われたけれど、私はテュランの手綱をとった。
望んだ以上の馬がやってきたとは思ったが、それくらいあった方が私には合っている。
誰も死なせない兵士になるためには、他の兵士達が諦めた命のもとへも飛び込んでいかないといけないのだ。
そこで尻込みしていたり、上官の制止を受け入れるようなお利巧さんではダメだ。
「またハンジを困らせてんのか。」
「可哀想だなって思います。」
小さくため息をついて、リヴァイ兵長は馬を降りた。
そして、テュランの手綱を結んだと同じ木に馬を繋ぐと、私の足元に腰を下ろして、木に背中を預けた。
「休憩だ。」
「そうですか。」
そう言って、私も腰を下ろした。
すぐ隣にいるリヴァイ兵長を見たくて、見れなくて。
リヴァイ兵長を視界の端に残したまま、私はよそ見をして小川を見る。
テュランがリヴァイ兵長の馬にちょっかいを出して、迷惑がられていた。