◇第二十四話◇好きになった人
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「そろそろ行くよ~。準備できた?」
ちょうど兵団服のジャケットを羽織ったときに、ハンジさんが部屋に入ってきた。
最近のハンジさんは、扉をノックする、ということをしなくなった。
面倒くさいのか、ど忘れしているのか。
少し気になるけれど、突然部屋に入られて困ることもないので、特に何も言っていない。
「はい。すぐ行きますっ!」
名簿を手に取って、急いで部屋を出た。
廊下に出ると、調査兵達が忙しそうに右へ左へと通り過ぎていく
今日の午後には、新兵も含めたすべての調査兵達がこの旧調査兵団本部に到着することになっている。
壁外調査の日程も近づいてきたことで、カラネス区に少しでも近い場所で最終訓練を行うことに決まったのだ。
そうは言っても、新兵らは今、訓練などを差し置いて、エルヴィン団長発案の長距離索敵陣形についてを頭に叩き込まれているそうだ。
壁外調査で生きて帰ってくるためには、その陣形を熟知し、そして行動に移す力が何よりも大切だからだ。
それは、私も当然同じで、調査兵団本部で、リヴァイ班と一緒に訓練を受ける傍ら、エレンの巨人化実験の合間を縫って、ハンジさんに教えてもらっている。
今日のエルヴィン団長との同行任務が終了すれば、私も新兵と一緒に授業を受ける予定になっている。
「兵団関係者の顔と名前は憶えられたかな?」
名簿を覗き込んでくるハンジさんに、私は自信なく首を横に振った。
暗記は得意な方だ。そして、それは昨夜が追い込みだったとは思うのだが、残念ながら私はそれどころではなかった。
涙で腫れた目の対処法をルルが知っていたおかげで、なんとか見られる状態の顔になった。
昨日はルルがいて本当に良かった。
「そういえば、最近はルルも一緒に訓練を受けてるらしいね。」
「はい、実験準備も終わったし、リヴァイ兵長の訓練に参加してみたいって。」
「そっか~。同じこと言ってる新兵もいてね。
今度、合同で訓練してみるかい?」
「いいですね。エレンの友人にも会ってみたいです。」
「そうだね。」
ハンジさんと話しながら、私は自分が意外と普通にリヴァイ兵長の名前を出せていることに驚いた。
そして、安心もした。
やっぱり、昨日思い切り泣いたのが良かったのかもしれない。
少しだけ胸がチクリとした気がしたけれど、きっともう大丈夫だ。
やっぱり、ただの気の迷いだったのだろう。
「リヴァイが来たら、お願いしてみようかな。」
ハンジさんがウキウキした様子で言った。
「来たらってどこにですか?」
「あれ?言ってなかったっけ?今日は、リヴァイも一緒に出向するんだよ。」
「え?」
「エレンの監視役のリヴァイからの報告も必要だからね、っと、噂をすればだね。
リヴァーイっ!!」
ハンジさんが廊下の向こうに見つけたリヴァイ兵長に手を振った。
隣に立つペトラを見つけて、私の胸はまた痛みだす。
ザワザワと騒ぎだす胸が、さっきまでホッとしていた私をあざ笑ってるみたいだ。
「今度さ、新兵の訓練指導をリヴァイにお願いしたいなって思ってさ。」
「指導は他のヤツの仕事じゃねぇのか。」
乗り気なハンジさんに、リヴァイ兵長は心底迷惑そうに顔を歪める。
それでも、臆することなく誘い続けられるハンジさんの心の強さには感服する。
「ペトラ、昨日はごめんね。」
「気にしないで、それより指はもう大丈夫?」
新兵の訓練指導をいつするかの予定を勝手に立て出したハンジさんにリヴァイ兵長のことは任せて、私はペトラに昨日のことを謝罪した。
心配そうに私の指を見るペトラに、申し訳なさと共に恥ずかしさがとめどなく溢れ出る。
昨日、リヴァイ兵長に巻いてもらいた包帯がそのままの私の指はとても痛々しい。
でも、実際は、もう血すら止まっていて、何かを持つときに痛みを感じる気がする程度なのだ。
速記の邪魔にもなるだろうし、憲兵団の施設へ行く前に包帯はほどいた方がいいかもしれない。
いや、部屋を出る前にほどくべきだったのだ。
でも―。
リヴァイ兵長を見ると目が合ってしまって、驚いて目を反らしてしまった。
勝手に話を進めているハンジさんの話を聞いているかと思っていたのに、聞き流していてこちらを見ていたようだ。
いや、正しくは、ペトラを見ていたのだろう。
「指はもう大丈夫か。」
私の指を見ながらリヴァイ兵長が訊ねる。
ついさっきのペトラとそれが重なって、また胸が痛くなる。
「はい、大丈夫です。ご心配をおかけしてすみませんでした。」
私が頭を下げているのを見て、ようやくハンジさんも大げさにまかれた包帯に気づいたようだ。
大怪我でもしたようなそれに驚いて心配するハンジさんに、昨日のことを簡単に説明すれば、ホッとしたようだった。
包帯なんて大袈裟だとリヴァイ兵長をからかうから、余計に恥ずかしくなる。
「今日はリヴァイ兵長も行くんですね。」
「来てほしくなかったみてぇな言い方だな。」
心の中を見透かされたような気がして、焦った。
でも、実際はどうなんだろうか。
全然、見えていないんだと思う。
リヴァイ兵長も、私も―。
「エレンの監視役なので、ここを離れられないかと思っていたんです。」
「アイツのことならペトラ達に任せてある。問題ねぇ。」
リヴァイ兵長はそう言って、ペトラに目配せをした。
自信満々に頷く彼女が、なんだか嬉しそうで、それが可愛らしくて、私の中に気持ちの悪い何かが湧きあがっていくのを感じた。
嫌な感じだ。
プクリ、プクリ、と出来物でもできるみたいに、自分がどんどん醜くなっていく気がする。
「どうかした?」
ペトラに訊ねられて、ハッとする。
「ううん、何でもないの。」
慌てて作った笑顔は、私史上きっと一番不細工だったはずだ。
ちょうど兵団服のジャケットを羽織ったときに、ハンジさんが部屋に入ってきた。
最近のハンジさんは、扉をノックする、ということをしなくなった。
面倒くさいのか、ど忘れしているのか。
少し気になるけれど、突然部屋に入られて困ることもないので、特に何も言っていない。
「はい。すぐ行きますっ!」
名簿を手に取って、急いで部屋を出た。
廊下に出ると、調査兵達が忙しそうに右へ左へと通り過ぎていく
今日の午後には、新兵も含めたすべての調査兵達がこの旧調査兵団本部に到着することになっている。
壁外調査の日程も近づいてきたことで、カラネス区に少しでも近い場所で最終訓練を行うことに決まったのだ。
そうは言っても、新兵らは今、訓練などを差し置いて、エルヴィン団長発案の長距離索敵陣形についてを頭に叩き込まれているそうだ。
壁外調査で生きて帰ってくるためには、その陣形を熟知し、そして行動に移す力が何よりも大切だからだ。
それは、私も当然同じで、調査兵団本部で、リヴァイ班と一緒に訓練を受ける傍ら、エレンの巨人化実験の合間を縫って、ハンジさんに教えてもらっている。
今日のエルヴィン団長との同行任務が終了すれば、私も新兵と一緒に授業を受ける予定になっている。
「兵団関係者の顔と名前は憶えられたかな?」
名簿を覗き込んでくるハンジさんに、私は自信なく首を横に振った。
暗記は得意な方だ。そして、それは昨夜が追い込みだったとは思うのだが、残念ながら私はそれどころではなかった。
涙で腫れた目の対処法をルルが知っていたおかげで、なんとか見られる状態の顔になった。
昨日はルルがいて本当に良かった。
「そういえば、最近はルルも一緒に訓練を受けてるらしいね。」
「はい、実験準備も終わったし、リヴァイ兵長の訓練に参加してみたいって。」
「そっか~。同じこと言ってる新兵もいてね。
今度、合同で訓練してみるかい?」
「いいですね。エレンの友人にも会ってみたいです。」
「そうだね。」
ハンジさんと話しながら、私は自分が意外と普通にリヴァイ兵長の名前を出せていることに驚いた。
そして、安心もした。
やっぱり、昨日思い切り泣いたのが良かったのかもしれない。
少しだけ胸がチクリとした気がしたけれど、きっともう大丈夫だ。
やっぱり、ただの気の迷いだったのだろう。
「リヴァイが来たら、お願いしてみようかな。」
ハンジさんがウキウキした様子で言った。
「来たらってどこにですか?」
「あれ?言ってなかったっけ?今日は、リヴァイも一緒に出向するんだよ。」
「え?」
「エレンの監視役のリヴァイからの報告も必要だからね、っと、噂をすればだね。
リヴァーイっ!!」
ハンジさんが廊下の向こうに見つけたリヴァイ兵長に手を振った。
隣に立つペトラを見つけて、私の胸はまた痛みだす。
ザワザワと騒ぎだす胸が、さっきまでホッとしていた私をあざ笑ってるみたいだ。
「今度さ、新兵の訓練指導をリヴァイにお願いしたいなって思ってさ。」
「指導は他のヤツの仕事じゃねぇのか。」
乗り気なハンジさんに、リヴァイ兵長は心底迷惑そうに顔を歪める。
それでも、臆することなく誘い続けられるハンジさんの心の強さには感服する。
「ペトラ、昨日はごめんね。」
「気にしないで、それより指はもう大丈夫?」
新兵の訓練指導をいつするかの予定を勝手に立て出したハンジさんにリヴァイ兵長のことは任せて、私はペトラに昨日のことを謝罪した。
心配そうに私の指を見るペトラに、申し訳なさと共に恥ずかしさがとめどなく溢れ出る。
昨日、リヴァイ兵長に巻いてもらいた包帯がそのままの私の指はとても痛々しい。
でも、実際は、もう血すら止まっていて、何かを持つときに痛みを感じる気がする程度なのだ。
速記の邪魔にもなるだろうし、憲兵団の施設へ行く前に包帯はほどいた方がいいかもしれない。
いや、部屋を出る前にほどくべきだったのだ。
でも―。
リヴァイ兵長を見ると目が合ってしまって、驚いて目を反らしてしまった。
勝手に話を進めているハンジさんの話を聞いているかと思っていたのに、聞き流していてこちらを見ていたようだ。
いや、正しくは、ペトラを見ていたのだろう。
「指はもう大丈夫か。」
私の指を見ながらリヴァイ兵長が訊ねる。
ついさっきのペトラとそれが重なって、また胸が痛くなる。
「はい、大丈夫です。ご心配をおかけしてすみませんでした。」
私が頭を下げているのを見て、ようやくハンジさんも大げさにまかれた包帯に気づいたようだ。
大怪我でもしたようなそれに驚いて心配するハンジさんに、昨日のことを簡単に説明すれば、ホッとしたようだった。
包帯なんて大袈裟だとリヴァイ兵長をからかうから、余計に恥ずかしくなる。
「今日はリヴァイ兵長も行くんですね。」
「来てほしくなかったみてぇな言い方だな。」
心の中を見透かされたような気がして、焦った。
でも、実際はどうなんだろうか。
全然、見えていないんだと思う。
リヴァイ兵長も、私も―。
「エレンの監視役なので、ここを離れられないかと思っていたんです。」
「アイツのことならペトラ達に任せてある。問題ねぇ。」
リヴァイ兵長はそう言って、ペトラに目配せをした。
自信満々に頷く彼女が、なんだか嬉しそうで、それが可愛らしくて、私の中に気持ちの悪い何かが湧きあがっていくのを感じた。
嫌な感じだ。
プクリ、プクリ、と出来物でもできるみたいに、自分がどんどん醜くなっていく気がする。
「どうかした?」
ペトラに訊ねられて、ハッとする。
「ううん、何でもないの。」
慌てて作った笑顔は、私史上きっと一番不細工だったはずだ。