◇第二十二話◇止まれ
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翌朝、寝不足で隈を作って訓練所にやってきた私をリヴァイ兵長は咎めた。
古城から少し離れたところにある大きな訓練場は、兵舎にあるものとは規模が違いすぎた。
旧調査兵団本部は、まだ志が高かった頃に建てられたものだと聞いている。
それに、今の調査兵団よりもだいぶ兵員の数も多かったらしいから、これくらいの規模が必要だったのだろう。
巨人に立ち向かうために作った大規模な訓練場で、私はリヴァイ兵長から逃げていた。
いや、正しくは、リヴァイ兵長が近づく度に大きくなる心臓の音から、逃げている。
訓練の指導の声がギリギリ聞こえる位置を保つ私に、リヴァイ兵長は気づいていると思う。
でも、敢えて近づいてきて何かを言うことはなかった。
「何度言ったら分かるんだ。ワイヤーの動きをしっかり見ろ。
死にたくねぇならな。」
リヴァイ兵長は、同じ注意を繰り返した。
私はもともと猪突猛進なところがある。
とにかく巨人に突っ込もうとしていて、自分の動作でワイヤーがどうなるのかの想像力が欠けている―と、訓練を始めた頃からリヴァイ兵長にいつも注意されている。
ハンジさんにも、ナナバさん達にも言われる。
気を付けようとはするのだが、指示を全うするのに夢中になるとどうしても忘れてしまう。
特に、今日は、余計なことを考えてしまって訓練に身が入っていないのを自分でも自覚しているほどだ。
リヴァイ兵長も気づいていないはずがない。
だから、焦っていた。
巨人に模したハリボテを3体倒したら終わり、早く終わらせたい。そう思っていた。
「おい!止まれ!」
「え?」
焦ったようなリヴァイ兵長の怒鳴り声に応えるよりも、巨人に模したハリボテにワイヤーを引っかける方が早かった。
一瞬で反転する身体。目の前は青い空。
地面に叩きつけられる自分を想像して、思わず目をつぶる。
重力はあっという間に、私の背中を地面に叩きつけていたー。
ーはずだった。
固い地面に叩きつけられるはずだった背中には、硬い温もり。腰に回る硬い腕の感触と耳元にかかる吐息。
「チッ。あぶねぇじゃねーか。」
リヴァイ兵長の怒った声が、私の耳の鼓膜と心を揺らして、心臓まで叱りつける。
ギュッと自分のシャツの胸元を握った。
「ごめんなさい!休憩します!」
お前が勝手に決めるなーとか後ろから怒ってる声がしたけど、私は振り向かなかったし、戻らなかった。
もしこれが、この心臓の音が、私の思った通りのそれだったとしたら、私は止まらないといけない。
これ以上、大きくならないように。
手遅れになる前に、止まらないといけない。
『止まれ!』
リヴァイ兵長の声が頭の中で響く。
分かっている。ちゃんと止まらないといけない。
耳にかかるリヴァイ兵長の吐息が、背中にあたったリヴァイ兵長の温もりが、私から離れるまで―。
ペトラの部屋で見た、写真の中で柔らかい表情を浮かべるリヴァイ兵長が、私から離れて消えるまで―。
古城から少し離れたところにある大きな訓練場は、兵舎にあるものとは規模が違いすぎた。
旧調査兵団本部は、まだ志が高かった頃に建てられたものだと聞いている。
それに、今の調査兵団よりもだいぶ兵員の数も多かったらしいから、これくらいの規模が必要だったのだろう。
巨人に立ち向かうために作った大規模な訓練場で、私はリヴァイ兵長から逃げていた。
いや、正しくは、リヴァイ兵長が近づく度に大きくなる心臓の音から、逃げている。
訓練の指導の声がギリギリ聞こえる位置を保つ私に、リヴァイ兵長は気づいていると思う。
でも、敢えて近づいてきて何かを言うことはなかった。
「何度言ったら分かるんだ。ワイヤーの動きをしっかり見ろ。
死にたくねぇならな。」
リヴァイ兵長は、同じ注意を繰り返した。
私はもともと猪突猛進なところがある。
とにかく巨人に突っ込もうとしていて、自分の動作でワイヤーがどうなるのかの想像力が欠けている―と、訓練を始めた頃からリヴァイ兵長にいつも注意されている。
ハンジさんにも、ナナバさん達にも言われる。
気を付けようとはするのだが、指示を全うするのに夢中になるとどうしても忘れてしまう。
特に、今日は、余計なことを考えてしまって訓練に身が入っていないのを自分でも自覚しているほどだ。
リヴァイ兵長も気づいていないはずがない。
だから、焦っていた。
巨人に模したハリボテを3体倒したら終わり、早く終わらせたい。そう思っていた。
「おい!止まれ!」
「え?」
焦ったようなリヴァイ兵長の怒鳴り声に応えるよりも、巨人に模したハリボテにワイヤーを引っかける方が早かった。
一瞬で反転する身体。目の前は青い空。
地面に叩きつけられる自分を想像して、思わず目をつぶる。
重力はあっという間に、私の背中を地面に叩きつけていたー。
ーはずだった。
固い地面に叩きつけられるはずだった背中には、硬い温もり。腰に回る硬い腕の感触と耳元にかかる吐息。
「チッ。あぶねぇじゃねーか。」
リヴァイ兵長の怒った声が、私の耳の鼓膜と心を揺らして、心臓まで叱りつける。
ギュッと自分のシャツの胸元を握った。
「ごめんなさい!休憩します!」
お前が勝手に決めるなーとか後ろから怒ってる声がしたけど、私は振り向かなかったし、戻らなかった。
もしこれが、この心臓の音が、私の思った通りのそれだったとしたら、私は止まらないといけない。
これ以上、大きくならないように。
手遅れになる前に、止まらないといけない。
『止まれ!』
リヴァイ兵長の声が頭の中で響く。
分かっている。ちゃんと止まらないといけない。
耳にかかるリヴァイ兵長の吐息が、背中にあたったリヴァイ兵長の温もりが、私から離れるまで―。
ペトラの部屋で見た、写真の中で柔らかい表情を浮かべるリヴァイ兵長が、私から離れて消えるまで―。