◇第十七話◇歓迎会
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その日は、調査兵団の行きつけの店で歓迎会が開かれていた。
わざわざ私のためにそんなことをしなくていいとは言ったのだが、みんな何か理由をつけて飲みたいだけだから気にしなくていいとエルヴィン団長に言われてしまえば、断る理由をなくしてしまった。
だが、いつもは凛々しい顔をしている兵士達が、お酒を飲んで陽気な顔で騒いでいる姿を見ていると、私をダシに楽しんでくれているのならば歓迎会も悪くないと思う。
この会を計画してくれたハンジ班のみんなに感謝だ。
「おれまで呼んでもらって恐縮です。」
さっきからずっと恐縮しきりの男性は、あの日、私を駐屯兵と勘違いして、こうして私が調査兵になってしまうというきっかけを与え私の人生を変えた、ある意味で運命の人だ。
全く人の話に耳を貸さなかった強引な姿はどこへやら、エルヴィン団長とリヴァイ兵長に頭を下げまくっている。
その隣では、誰よりも陽気にお酒を嗜んでいらっしゃるピクシス司令もいる。
彼は無類の酒好きなのだとオルオが耳打ちしてわざわざ教えてくれたが、聞かなくても分かるくらいにピクシス司令は、お酒を楽しんでいらっしゃる。
「なまえが調査兵になってくれてよかったよ。
断られてたらおれは今頃…。」
「兵団を除隊だけで済めばまだマシってところよね。
私が巨人の餌にでもなってたら、死罪かもね。
そうじゃなかったら、私が呪い殺して―。」
「本当に悪かったと思ってるよ!!
でも、あれだけ戦えるヤツがまさか本当に一般市民だなんて誰が思うんだよっ!」
私にまで恐縮しきりで弱弱しくなってしまっている彼が面白くて、からかうのが、今の私のお酒の楽しみ方だ。
趣味が悪い、とエルドに非難されたけれど、その口元が僅かに上がっていたのに、リヴァイ班のみんなは気づいている。
「ハンジ分隊長も言っていたが、
トロスト区でのなまえはそんなにすごかったのか?」
グンタが訊ねると、駐屯兵の彼は、自分の正当性を訴えるかのように、私のトロスト区での巨人討伐の姿を大げさに褒めだした。
それを、うんうんと頷きながら聞いているリヴァイ班のみんなが、大げさだということに気づいていなさそうだから、もうそろそろやめてほしいところだ。
「ーで、おれは言ったんです。
仲間のことを大切に思うのはいいことだが、自分の命も大切にしろって。
でも、まぁ、その後も、なまえは駐屯兵の命を救いまくったんですけどね。」
駐屯兵の彼がそう言って話を締めくくると、リヴァイ班のみんなは思うところがあったのか、顔を見合わせた。
どうかしたのだろうか―。
訊ねるよりも先に、ペトラが口を開いた。
「初めからなまえはそうなのね。
私達との実践演習でも、人のことばっかり見てて、
この前なんて、オルオを助けようとするから、私達の心臓が止まりそうだったんだから。」
ペトラのその言葉に、エルドとグンタが、そうだそうだ、と頷く。
心臓が止まりそうになっていたなんてことは知らなかったが、その日のことは私も覚えている。
リヴァイ班のみんなと実践演習をしたことはこれまでに3回ある。
リヴァイ班のみんなは精鋭だけあって、毎回私はついていくのに必死だ。
だから、私が彼らを助けるなんておこがましく、むしろ、私の方が彼らに助けられている。
でも、一度だけ、オルオが巨人を討伐した直後に、遠くにいたはずの巨人が猛スピードで走ってきたことがあった。
その巨人は、あっという間にオルオのもとへ辿り着き、今まさにその身体を掴もうとしていたから、慌てて飛んで行った私がすんでのところでその腕を切り落とした。
腕を切り落とされた巨人は、すぐにやってきたペトラとエルドが討伐してくれたおかげで、私が襲われることはなかった。
結局、私は彼らに助けられているのに、ペトラ達は、なまえは仲間のために戦う危ないところがあるという話で盛り上がりだしてしまった。
「言っておくがな、なまえ。おれは、あのとき、わざと捕まえられようとしたんだ。
お前に、巨人からの逃げ方を教えたくてな。」
「そうだよね。ごめんね。」
「わかっていればいい。
もう二度と、おれを助けようなんてなめた真似はするんじゃねぇ。」
「了解です、オルオ様。」
あのとき、立体起動装置の操作が間に合わない状況で、悲鳴を上げていたオルオのことを覚えていないわけではないが、そこは敢えて記憶から消してあげるのが彼のプライドのためだ。
だから、私は、聞き飽きた言い訳を聞き流す。
ついでにオルオを持ち上げておくことを忘れてはいけない。
そうすれば、彼は、自分ひとりの世界に入り込んで静かになってくれる。
想定通り、よし!これからもおれ様と呼べとか何とか言いながら、どれだけおれ様オルオ様が素晴らしいかを語りだした。
…静かにはならなかったのが、想定外だ。
「でもね、なまえ。ハンジ分隊長やナナバさん達にも言われてると思うけど、
生きて帰る、っていうことが一番大切なんだよ。
そのためには、時に非情な選択だって必要なこと、忘れちゃダメだよ。」
「家族や友達にも言われたことがある。
くだらないことのために、自分の命を無駄にするなって。」
「そうだよっ。オルオのために命を捨てるなんてダメだよ。」
「そうだな。」
「その通りだ。」
「おい!おれはくだらなくなんかねぇーよ!!」
「でも…。」
ふいに、ルーカスのことを思い出した。
たぶん、母親は、恋人であるルーカスに私を叱ってほしくて、私が指輪を探すために巨人のうろつく危険な街へ戻ったと教えたんだと思う。
でも、その話を聞いたルーカスは、とても喜んだ。
自分のことをそこまで愛してくれているのかーと。
私が危険を冒すことで、喜んでくれる人だっているのだ。
それに、誰が何と言おうと、エルヴィン団長の前で誓ったように、私は誰も死なせない兵士になることを目標にして厳しい訓練を受けている。
それが誰であっても、たとえ私の訓練のために巨人に食べられようとした先輩兵士であっても、命の危険があれば飛んでいくし、戦う。
絶対に―。
「でも?」
「…ううん、何でもないの。」
私は首を横に振って、ルーカスとの記憶と一緒にお酒を呑みこんだ。
グラスの向こうでリヴァイ兵長と目があった気がした。
わざわざ私のためにそんなことをしなくていいとは言ったのだが、みんな何か理由をつけて飲みたいだけだから気にしなくていいとエルヴィン団長に言われてしまえば、断る理由をなくしてしまった。
だが、いつもは凛々しい顔をしている兵士達が、お酒を飲んで陽気な顔で騒いでいる姿を見ていると、私をダシに楽しんでくれているのならば歓迎会も悪くないと思う。
この会を計画してくれたハンジ班のみんなに感謝だ。
「おれまで呼んでもらって恐縮です。」
さっきからずっと恐縮しきりの男性は、あの日、私を駐屯兵と勘違いして、こうして私が調査兵になってしまうというきっかけを与え私の人生を変えた、ある意味で運命の人だ。
全く人の話に耳を貸さなかった強引な姿はどこへやら、エルヴィン団長とリヴァイ兵長に頭を下げまくっている。
その隣では、誰よりも陽気にお酒を嗜んでいらっしゃるピクシス司令もいる。
彼は無類の酒好きなのだとオルオが耳打ちしてわざわざ教えてくれたが、聞かなくても分かるくらいにピクシス司令は、お酒を楽しんでいらっしゃる。
「なまえが調査兵になってくれてよかったよ。
断られてたらおれは今頃…。」
「兵団を除隊だけで済めばまだマシってところよね。
私が巨人の餌にでもなってたら、死罪かもね。
そうじゃなかったら、私が呪い殺して―。」
「本当に悪かったと思ってるよ!!
でも、あれだけ戦えるヤツがまさか本当に一般市民だなんて誰が思うんだよっ!」
私にまで恐縮しきりで弱弱しくなってしまっている彼が面白くて、からかうのが、今の私のお酒の楽しみ方だ。
趣味が悪い、とエルドに非難されたけれど、その口元が僅かに上がっていたのに、リヴァイ班のみんなは気づいている。
「ハンジ分隊長も言っていたが、
トロスト区でのなまえはそんなにすごかったのか?」
グンタが訊ねると、駐屯兵の彼は、自分の正当性を訴えるかのように、私のトロスト区での巨人討伐の姿を大げさに褒めだした。
それを、うんうんと頷きながら聞いているリヴァイ班のみんなが、大げさだということに気づいていなさそうだから、もうそろそろやめてほしいところだ。
「ーで、おれは言ったんです。
仲間のことを大切に思うのはいいことだが、自分の命も大切にしろって。
でも、まぁ、その後も、なまえは駐屯兵の命を救いまくったんですけどね。」
駐屯兵の彼がそう言って話を締めくくると、リヴァイ班のみんなは思うところがあったのか、顔を見合わせた。
どうかしたのだろうか―。
訊ねるよりも先に、ペトラが口を開いた。
「初めからなまえはそうなのね。
私達との実践演習でも、人のことばっかり見てて、
この前なんて、オルオを助けようとするから、私達の心臓が止まりそうだったんだから。」
ペトラのその言葉に、エルドとグンタが、そうだそうだ、と頷く。
心臓が止まりそうになっていたなんてことは知らなかったが、その日のことは私も覚えている。
リヴァイ班のみんなと実践演習をしたことはこれまでに3回ある。
リヴァイ班のみんなは精鋭だけあって、毎回私はついていくのに必死だ。
だから、私が彼らを助けるなんておこがましく、むしろ、私の方が彼らに助けられている。
でも、一度だけ、オルオが巨人を討伐した直後に、遠くにいたはずの巨人が猛スピードで走ってきたことがあった。
その巨人は、あっという間にオルオのもとへ辿り着き、今まさにその身体を掴もうとしていたから、慌てて飛んで行った私がすんでのところでその腕を切り落とした。
腕を切り落とされた巨人は、すぐにやってきたペトラとエルドが討伐してくれたおかげで、私が襲われることはなかった。
結局、私は彼らに助けられているのに、ペトラ達は、なまえは仲間のために戦う危ないところがあるという話で盛り上がりだしてしまった。
「言っておくがな、なまえ。おれは、あのとき、わざと捕まえられようとしたんだ。
お前に、巨人からの逃げ方を教えたくてな。」
「そうだよね。ごめんね。」
「わかっていればいい。
もう二度と、おれを助けようなんてなめた真似はするんじゃねぇ。」
「了解です、オルオ様。」
あのとき、立体起動装置の操作が間に合わない状況で、悲鳴を上げていたオルオのことを覚えていないわけではないが、そこは敢えて記憶から消してあげるのが彼のプライドのためだ。
だから、私は、聞き飽きた言い訳を聞き流す。
ついでにオルオを持ち上げておくことを忘れてはいけない。
そうすれば、彼は、自分ひとりの世界に入り込んで静かになってくれる。
想定通り、よし!これからもおれ様と呼べとか何とか言いながら、どれだけおれ様オルオ様が素晴らしいかを語りだした。
…静かにはならなかったのが、想定外だ。
「でもね、なまえ。ハンジ分隊長やナナバさん達にも言われてると思うけど、
生きて帰る、っていうことが一番大切なんだよ。
そのためには、時に非情な選択だって必要なこと、忘れちゃダメだよ。」
「家族や友達にも言われたことがある。
くだらないことのために、自分の命を無駄にするなって。」
「そうだよっ。オルオのために命を捨てるなんてダメだよ。」
「そうだな。」
「その通りだ。」
「おい!おれはくだらなくなんかねぇーよ!!」
「でも…。」
ふいに、ルーカスのことを思い出した。
たぶん、母親は、恋人であるルーカスに私を叱ってほしくて、私が指輪を探すために巨人のうろつく危険な街へ戻ったと教えたんだと思う。
でも、その話を聞いたルーカスは、とても喜んだ。
自分のことをそこまで愛してくれているのかーと。
私が危険を冒すことで、喜んでくれる人だっているのだ。
それに、誰が何と言おうと、エルヴィン団長の前で誓ったように、私は誰も死なせない兵士になることを目標にして厳しい訓練を受けている。
それが誰であっても、たとえ私の訓練のために巨人に食べられようとした先輩兵士であっても、命の危険があれば飛んでいくし、戦う。
絶対に―。
「でも?」
「…ううん、何でもないの。」
私は首を横に振って、ルーカスとの記憶と一緒にお酒を呑みこんだ。
グラスの向こうでリヴァイ兵長と目があった気がした。