エピローグ
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海の見える丘の上には赤い屋根の家が建っていた。
愛し合うふたりの新居として、少し前に建ったばかりのその家には、いつものんびりと穏やかな時間が流れている。
だが、今日の日だけは特別だった。
楽しそうな笑い声があちこちから聞こえるそこでは今、大切な人の幸せを祝福するためだけに集まった家族や友人達が、気の合う同士でお喋りをしながら、その時を楽しみに待っているところだ。
たくさんのバルーンやペーパーフラワーの飾りもハンジの手でどんどん増えていき、いよいよパーティー会場らしくなってきた。
くす玉も用意していたのだが、コニーがふざけて紐を引っ張ってくれたおかげで、少し前に盛大にお披露目してしまった。
そのため、残りの飾りつけをハンジに任せたモブリットは、ニファ達と一緒に新しいくす玉を慌てて作っている。
そんな中、漂ういい香りに誘われて、サシャがフラフラと向かったキッチンでは、主役である2人の母親達とアニが忙しく豪華な食事の準備をしていた。
早速つまみ食いを始めたサシャだったが、すぐにアニに投げ飛ばされ、首根っこを掴まれてリビングに強制帰還させられる。
ちょうど、アニがサシャをリビングの柱に縛りつけ終えたとき、鈴の音のチャイムが鳴り、大切な人の幸せを祝福するために新しい客が訪れたことを教えた。
「私が出るよ!」
「ありがと~っ!」
キッチンにいる母親達に聞こえるように言って、アニは玄関へと向かった。
母親達がよく働くいい娘だと感心していることを知らないアニは、まるで自分の家のように玄関の扉を開けた。
そこにいたのは、招待されたアニの同期が続々と集まる中、唯一まだ来ていなかったミカサとエレンだった。
「今日はおめでとう。」
「コレ、母さんが作った菓子なんだ。みんなで食ってくれってさ。」
「別に、あたしがめでたいわけじゃないから、本人達に言えば。
とりあえず、これは受け取っとく。ありがとう。お母さん達に渡しとく。」
相変わらず不愛想なミカサの祝福の言葉を、似たような不愛想な表情で交わしたアニは、エレンからお菓子の入った紙袋を受け取った。
まだ式までは少し時間があるのに、お腹が空いたとうるさいのが数名いる。
彼らにこのお菓子を渡して静かにしてもらうのもいいかもしれない。
2人を招き入れると、エレンが感心したように口を開いた。
「お前、すっかり家族の一員だな。」
「本物の妹みたい。」
「それは最悪だね。」
アニは心底迷惑そうに言ったけれど、エレンとミカサはそれを本気には受け取らなかった。
一匹狼でいることの多いアニが、お揃いの赤いブレスレットを嬉しそうに見ているのを知らない友人なんて1人もいない。
リビングへ来ると、母親達がアニを呼んだ。
重たい荷物を一緒に運んでほしいらしく、アニはライナーとベルトルトを呼びつけてからキッチンへと戻って行く。
「エレン!ミカサ!待ってたよっ!」
キッチンへと戻ったアニと入れ替わりに、エレンとミカサを見つけたアルミンが駆け寄ってきた。
そのそばでは、柱に縛り付けられていたサシャをからかおうとした馬鹿なコニーが、指を噛まれて悲鳴を上げている。
そこへ、ミカサに気づいたジャンも声をかけてきた。
「よう、ミカサ!今日はあれだな、いつもと違ってなんつーか…うん、綺麗だ。
いや、いつも綺麗なんだけどよ。今日は特にって言うかさ。
そのワンピース、似合ってるぜ。」
「…そう。ありがとう。」
「いや、本当のことを言っただけでー。」
「なんだよ、ジャン。顔赤くして気持ち悪ぃな。」
「あぁん?なんだよ、エレン。お前も来てたのかよ。来なくてよかったのによ。」
「それはお前の方だろ?フラれた女の結婚式なんてよく来れたよな。
それでミカサに色目使ってんじゃねぇよ。」
「はぁ!?別にフラれてねーしっ!俺は、弟として招待されてんだよ!!
そもそもてめぇは、いつもいつもミカサの彼氏面すんじゃねぇーよ!!」
「してねぇーよ!!」
エレンとジャンは、また胸ぐらを掴み合って殴り合いのけんかを始める。
毎度毎度、飽きもせずによくやるものだ。
さすがのミカサも毎回過ぎて止めるのも無駄だと学んでいた。
好きにさせていればいつか疲れて勝手にやめるのだ。
ミカサとアルミンがソファに座ってお喋りを始めたところへ、ため息をつきながらルルがやって来た。
彼女に声をかけたのは、親友のヒルラだった。
「まだ吐いてんの?」
「本番の時間が近づけば近づくほど、緊張が止まらないらしいよ。」
「はぁ…。なんで、ミケさんは仲人やるなんて言っちゃったの?」
「本当に、どうして仲人を引き受けたんだろう、ミケさん…。
リコさんとイアンさんに任せておけばよかったのに…。」
「本番で吐いたりしたら最悪だよ。もうどうしても吐きそうなら
今のうちに胃液すらなくなるくらい吐かせときな。」
「鬼だね、ヒルラ。」
「親友の結婚式を自分の旦那がぶち壊す地獄を味わう方がいい?」
「…吐かせてくる。」
「いってらっしゃ~い。」
ため息をつきながらトイレへと戻って行くルルの背中に、ヒルラは軽く手を振る。
そこへ、さっきまでフロリアン達の黄色い声に甘い笑顔を振りまいていたルーカスがやって来ると、ヒルラの腰を抱き寄せた。
「まさか本当にあの男と結婚してしまうなんてね。
俺を選んでれば、将来安泰だったのに。」
「最高に顔がイイのに性格が悪すぎるからでしょ。
口説き落そうとして失敗した女の親友に寝返るとか最悪だからね。」
「じゃあ、その男のスペックが気に入ったからって
性格無視で、プロポーズ受けてしまう君も相当性格悪いね。」
「だから、いいのよ。私達、うまくいくと思わない?」
「そうだね。素の俺と同じレベルでいられる人間なんて初めてだよ。」
「褒め言葉として受け取っとくわ。」
お似合いの恋人達が唇を重ねようとしていたとき、この家で一番大きなソファに我が物顔で足を広げて座り、酒を煽っていたケニーが、大声でクシェルを呼んだ。
「うぉーい!酒を持ってこい、酒~~~!」
ケニーは、ここに来てからずっと酒を呑んでいた。
足元には空になった酒の瓶が幾つも転がっている。
「いい加減にしてよ、ケニー。
まだ式も始まってないのに、どうしてもう酔っぱらってるのよ。」
キッチンからやって来たクシェルは、酒の代わりに水の入ったコップを持っていた。
だが、ケニーは真っ赤に酔っぱらった顔で、酒を持って来いと繰り返す。
「なまえ呼んでこいっ!俺に酌をしねぇとはどういうことだ。」
「またそんなこと言って…。リヴァイに怒られても知らないわよ。
それに、なまえには私から、あなたのことは無視していいって言ってあるの。」
「あぁん?余計なこと言ってんじゃあねぇよ。」
「可愛い甥っ子とお嫁さんに構ってもらいたいなら、
意地悪してないで優しくしてあげなさい。」
「俺ぁ、別にー。」
「とにかく、これ飲んで酔い覚ましておかないと、リヴァイに出禁にされるわよ。」
クシェルはテーブルの上に水の入ったコップを置くと、キッチンに戻って行く。
寂しくてお酒に逃げてるのだとクシェルが愚痴る声がキッチンから聞こえてきて、ケニーから舌打ちが漏れる。
そして、彼は不機嫌そうにしながらコップを手に取ると、水を喉の奥に一気に流し込んだ。
ダイニングテーブルの椅子に腰かけ、本を読んでいたファーランが、彼にバレないように苦笑を漏らした。
「エレンのお母さんが作ってくれたお菓子、
食べたかったら、ここに置いてあるから食べてて。」
キッチンからアニがやって来て、ダイニングテーブルの上にお菓子を入れたお皿を置いた。
そこへ走ってやってきたのは、コニーとイザベルだった。
残念ながら、リビングの柱に縛りつけられているサシャは、自分も食べたいのだと叫ぶことしか出来なかった。
誰も彼女を助けようとしないのは、野生動物は解き放ってしまったら最後だとみんな知っているからだろう。
コニーとイザベルに続いて、ヒストリアとユミル、エレン達も集まってきた。
「なぁ、俺、ずっと気になってたんだけどよ。
あの2人が結婚したら、イザベルもなまえの妹ってことになるのか?」
お菓子を食べながらコニーが言ってしまったそれは、キッチンへ戻ろうとしていたアニの背中を引き留め、お菓子に手を伸ばそうとしていたイザベルの動きを止めた。
そしてー。
ライバル心剥き出しの睨み合いが始まるー。
「ならないんじゃないの。」
「なるさ!」
「あたしは別にどっちでもいいけど、腹減ったって騒ぐだけの妹なんか
なまえは欲しくないだろうね。」
「そんなことねぇよ!俺のこと可愛いやつだって言ってたし!」
「それだけで妹になったつもり?あたしは妹って言われてるし
なまえの親にも娘って呼ばれてるけどね。」
「俺だって、ずっと仲良くしようって言われたし!」
「へぇ~。それで?」
アニは興味なさそうな顔をしながら、これ見よがしに左手首を振ってお揃いの赤いブレスレットを見せつける。
イザベルもムキになって言い返すのだが、そもそもアニに口喧嘩で勝てるやつなんてなかなかいない。
ついにお互いに手が出そうになったところで、ファーランが本を置いて立ち上がる。
「はいはい、アニもイザベルも可愛い妹だって言ってたから。
姉妹喧嘩は終わりな。」
ファーランは、アニとイザベルの頭を少し強く押すようにしながら髪をクシャッと撫でる。
しかし、子供扱いが気に入らなかった彼女達は、ファーランの手を払いのけて文句を言い始めた。
それすらもファーランは、余計なことを言いだしたコニーを心の中で恨みつつも、冷静に受け流す。
そこへ、式場となる教会で準備をしていたペトラとオルオ、エルド、グンタが戻って来た。
そろそろ準備が終わるので、主役の2人を先に呼びに来たということらしいのだがー。
「さっき、ドレスとタキシードに着替えると教会に連れて行ったんじゃなかったか。」
「それからこっちには戻って来てないぞ。」
リコとイアンが、ペトラ達に教えてやる。
だが、2人は着替えが終わるとすぐに教会を出て行ってしまったというのだ。
どこへ行ったのだろうと首を傾げる友人達だったけれど、付き合いの深いアニとファーラン、イザベルには大方の見当がついていた。
いや、もう何処にいるのかハッキリと分かっていた。
「どうせまたあそこだね。」
ドレスで行くような場所ではないのにー、とアニからため息が漏れる。
ウェディングドレスを選ぶのにも付き合わされて、何回も何回も試着して漸く決めたあのドレスが、砂で汚れていたら許さない。
「俺が呼んでくるから、お前ら先に教会行っててくれよ。」
「俺が先に行くーっ!!」
ファーランの肩を押して、イザベルが家を飛び出した。
せっかく兄貴分が似合わないことをして買ってくれたお洒落なワンピースを着ているというのに、おしとやかな振る舞いどころか、誰よりも騒いでは腹が減ったとつまみ食いばかりして、見た目ばかりは女の子らしくなっても、していることはいつもと何も変わらない。
初めて出来た女友達のヒストリアが可愛らしくセットしてくれた髪も式が始まる前にボロボロになってしまいそうだ。
ファーランは苦笑しながらも、イザベルの背中をのんびりと歩いて追いかける。
そして、主役のくせに誰よりも自由にしている親友達を迎えに行くため、海へと向かったー。
愛し合うふたりの新居として、少し前に建ったばかりのその家には、いつものんびりと穏やかな時間が流れている。
だが、今日の日だけは特別だった。
楽しそうな笑い声があちこちから聞こえるそこでは今、大切な人の幸せを祝福するためだけに集まった家族や友人達が、気の合う同士でお喋りをしながら、その時を楽しみに待っているところだ。
たくさんのバルーンやペーパーフラワーの飾りもハンジの手でどんどん増えていき、いよいよパーティー会場らしくなってきた。
くす玉も用意していたのだが、コニーがふざけて紐を引っ張ってくれたおかげで、少し前に盛大にお披露目してしまった。
そのため、残りの飾りつけをハンジに任せたモブリットは、ニファ達と一緒に新しいくす玉を慌てて作っている。
そんな中、漂ういい香りに誘われて、サシャがフラフラと向かったキッチンでは、主役である2人の母親達とアニが忙しく豪華な食事の準備をしていた。
早速つまみ食いを始めたサシャだったが、すぐにアニに投げ飛ばされ、首根っこを掴まれてリビングに強制帰還させられる。
ちょうど、アニがサシャをリビングの柱に縛りつけ終えたとき、鈴の音のチャイムが鳴り、大切な人の幸せを祝福するために新しい客が訪れたことを教えた。
「私が出るよ!」
「ありがと~っ!」
キッチンにいる母親達に聞こえるように言って、アニは玄関へと向かった。
母親達がよく働くいい娘だと感心していることを知らないアニは、まるで自分の家のように玄関の扉を開けた。
そこにいたのは、招待されたアニの同期が続々と集まる中、唯一まだ来ていなかったミカサとエレンだった。
「今日はおめでとう。」
「コレ、母さんが作った菓子なんだ。みんなで食ってくれってさ。」
「別に、あたしがめでたいわけじゃないから、本人達に言えば。
とりあえず、これは受け取っとく。ありがとう。お母さん達に渡しとく。」
相変わらず不愛想なミカサの祝福の言葉を、似たような不愛想な表情で交わしたアニは、エレンからお菓子の入った紙袋を受け取った。
まだ式までは少し時間があるのに、お腹が空いたとうるさいのが数名いる。
彼らにこのお菓子を渡して静かにしてもらうのもいいかもしれない。
2人を招き入れると、エレンが感心したように口を開いた。
「お前、すっかり家族の一員だな。」
「本物の妹みたい。」
「それは最悪だね。」
アニは心底迷惑そうに言ったけれど、エレンとミカサはそれを本気には受け取らなかった。
一匹狼でいることの多いアニが、お揃いの赤いブレスレットを嬉しそうに見ているのを知らない友人なんて1人もいない。
リビングへ来ると、母親達がアニを呼んだ。
重たい荷物を一緒に運んでほしいらしく、アニはライナーとベルトルトを呼びつけてからキッチンへと戻って行く。
「エレン!ミカサ!待ってたよっ!」
キッチンへと戻ったアニと入れ替わりに、エレンとミカサを見つけたアルミンが駆け寄ってきた。
そのそばでは、柱に縛り付けられていたサシャをからかおうとした馬鹿なコニーが、指を噛まれて悲鳴を上げている。
そこへ、ミカサに気づいたジャンも声をかけてきた。
「よう、ミカサ!今日はあれだな、いつもと違ってなんつーか…うん、綺麗だ。
いや、いつも綺麗なんだけどよ。今日は特にって言うかさ。
そのワンピース、似合ってるぜ。」
「…そう。ありがとう。」
「いや、本当のことを言っただけでー。」
「なんだよ、ジャン。顔赤くして気持ち悪ぃな。」
「あぁん?なんだよ、エレン。お前も来てたのかよ。来なくてよかったのによ。」
「それはお前の方だろ?フラれた女の結婚式なんてよく来れたよな。
それでミカサに色目使ってんじゃねぇよ。」
「はぁ!?別にフラれてねーしっ!俺は、弟として招待されてんだよ!!
そもそもてめぇは、いつもいつもミカサの彼氏面すんじゃねぇーよ!!」
「してねぇーよ!!」
エレンとジャンは、また胸ぐらを掴み合って殴り合いのけんかを始める。
毎度毎度、飽きもせずによくやるものだ。
さすがのミカサも毎回過ぎて止めるのも無駄だと学んでいた。
好きにさせていればいつか疲れて勝手にやめるのだ。
ミカサとアルミンがソファに座ってお喋りを始めたところへ、ため息をつきながらルルがやって来た。
彼女に声をかけたのは、親友のヒルラだった。
「まだ吐いてんの?」
「本番の時間が近づけば近づくほど、緊張が止まらないらしいよ。」
「はぁ…。なんで、ミケさんは仲人やるなんて言っちゃったの?」
「本当に、どうして仲人を引き受けたんだろう、ミケさん…。
リコさんとイアンさんに任せておけばよかったのに…。」
「本番で吐いたりしたら最悪だよ。もうどうしても吐きそうなら
今のうちに胃液すらなくなるくらい吐かせときな。」
「鬼だね、ヒルラ。」
「親友の結婚式を自分の旦那がぶち壊す地獄を味わう方がいい?」
「…吐かせてくる。」
「いってらっしゃ~い。」
ため息をつきながらトイレへと戻って行くルルの背中に、ヒルラは軽く手を振る。
そこへ、さっきまでフロリアン達の黄色い声に甘い笑顔を振りまいていたルーカスがやって来ると、ヒルラの腰を抱き寄せた。
「まさか本当にあの男と結婚してしまうなんてね。
俺を選んでれば、将来安泰だったのに。」
「最高に顔がイイのに性格が悪すぎるからでしょ。
口説き落そうとして失敗した女の親友に寝返るとか最悪だからね。」
「じゃあ、その男のスペックが気に入ったからって
性格無視で、プロポーズ受けてしまう君も相当性格悪いね。」
「だから、いいのよ。私達、うまくいくと思わない?」
「そうだね。素の俺と同じレベルでいられる人間なんて初めてだよ。」
「褒め言葉として受け取っとくわ。」
お似合いの恋人達が唇を重ねようとしていたとき、この家で一番大きなソファに我が物顔で足を広げて座り、酒を煽っていたケニーが、大声でクシェルを呼んだ。
「うぉーい!酒を持ってこい、酒~~~!」
ケニーは、ここに来てからずっと酒を呑んでいた。
足元には空になった酒の瓶が幾つも転がっている。
「いい加減にしてよ、ケニー。
まだ式も始まってないのに、どうしてもう酔っぱらってるのよ。」
キッチンからやって来たクシェルは、酒の代わりに水の入ったコップを持っていた。
だが、ケニーは真っ赤に酔っぱらった顔で、酒を持って来いと繰り返す。
「なまえ呼んでこいっ!俺に酌をしねぇとはどういうことだ。」
「またそんなこと言って…。リヴァイに怒られても知らないわよ。
それに、なまえには私から、あなたのことは無視していいって言ってあるの。」
「あぁん?余計なこと言ってんじゃあねぇよ。」
「可愛い甥っ子とお嫁さんに構ってもらいたいなら、
意地悪してないで優しくしてあげなさい。」
「俺ぁ、別にー。」
「とにかく、これ飲んで酔い覚ましておかないと、リヴァイに出禁にされるわよ。」
クシェルはテーブルの上に水の入ったコップを置くと、キッチンに戻って行く。
寂しくてお酒に逃げてるのだとクシェルが愚痴る声がキッチンから聞こえてきて、ケニーから舌打ちが漏れる。
そして、彼は不機嫌そうにしながらコップを手に取ると、水を喉の奥に一気に流し込んだ。
ダイニングテーブルの椅子に腰かけ、本を読んでいたファーランが、彼にバレないように苦笑を漏らした。
「エレンのお母さんが作ってくれたお菓子、
食べたかったら、ここに置いてあるから食べてて。」
キッチンからアニがやって来て、ダイニングテーブルの上にお菓子を入れたお皿を置いた。
そこへ走ってやってきたのは、コニーとイザベルだった。
残念ながら、リビングの柱に縛りつけられているサシャは、自分も食べたいのだと叫ぶことしか出来なかった。
誰も彼女を助けようとしないのは、野生動物は解き放ってしまったら最後だとみんな知っているからだろう。
コニーとイザベルに続いて、ヒストリアとユミル、エレン達も集まってきた。
「なぁ、俺、ずっと気になってたんだけどよ。
あの2人が結婚したら、イザベルもなまえの妹ってことになるのか?」
お菓子を食べながらコニーが言ってしまったそれは、キッチンへ戻ろうとしていたアニの背中を引き留め、お菓子に手を伸ばそうとしていたイザベルの動きを止めた。
そしてー。
ライバル心剥き出しの睨み合いが始まるー。
「ならないんじゃないの。」
「なるさ!」
「あたしは別にどっちでもいいけど、腹減ったって騒ぐだけの妹なんか
なまえは欲しくないだろうね。」
「そんなことねぇよ!俺のこと可愛いやつだって言ってたし!」
「それだけで妹になったつもり?あたしは妹って言われてるし
なまえの親にも娘って呼ばれてるけどね。」
「俺だって、ずっと仲良くしようって言われたし!」
「へぇ~。それで?」
アニは興味なさそうな顔をしながら、これ見よがしに左手首を振ってお揃いの赤いブレスレットを見せつける。
イザベルもムキになって言い返すのだが、そもそもアニに口喧嘩で勝てるやつなんてなかなかいない。
ついにお互いに手が出そうになったところで、ファーランが本を置いて立ち上がる。
「はいはい、アニもイザベルも可愛い妹だって言ってたから。
姉妹喧嘩は終わりな。」
ファーランは、アニとイザベルの頭を少し強く押すようにしながら髪をクシャッと撫でる。
しかし、子供扱いが気に入らなかった彼女達は、ファーランの手を払いのけて文句を言い始めた。
それすらもファーランは、余計なことを言いだしたコニーを心の中で恨みつつも、冷静に受け流す。
そこへ、式場となる教会で準備をしていたペトラとオルオ、エルド、グンタが戻って来た。
そろそろ準備が終わるので、主役の2人を先に呼びに来たということらしいのだがー。
「さっき、ドレスとタキシードに着替えると教会に連れて行ったんじゃなかったか。」
「それからこっちには戻って来てないぞ。」
リコとイアンが、ペトラ達に教えてやる。
だが、2人は着替えが終わるとすぐに教会を出て行ってしまったというのだ。
どこへ行ったのだろうと首を傾げる友人達だったけれど、付き合いの深いアニとファーラン、イザベルには大方の見当がついていた。
いや、もう何処にいるのかハッキリと分かっていた。
「どうせまたあそこだね。」
ドレスで行くような場所ではないのにー、とアニからため息が漏れる。
ウェディングドレスを選ぶのにも付き合わされて、何回も何回も試着して漸く決めたあのドレスが、砂で汚れていたら許さない。
「俺が呼んでくるから、お前ら先に教会行っててくれよ。」
「俺が先に行くーっ!!」
ファーランの肩を押して、イザベルが家を飛び出した。
せっかく兄貴分が似合わないことをして買ってくれたお洒落なワンピースを着ているというのに、おしとやかな振る舞いどころか、誰よりも騒いでは腹が減ったとつまみ食いばかりして、見た目ばかりは女の子らしくなっても、していることはいつもと何も変わらない。
初めて出来た女友達のヒストリアが可愛らしくセットしてくれた髪も式が始まる前にボロボロになってしまいそうだ。
ファーランは苦笑しながらも、イザベルの背中をのんびりと歩いて追いかける。
そして、主役のくせに誰よりも自由にしている親友達を迎えに行くため、海へと向かったー。