◇第百六十四話◇嗚咽
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なまえの両親への悲しみの報告を終えたリヴァイが、漸く自分の執務室兼自室に戻ってきたときは、赤かった空はもう黒くなっていた。
普段ならすぐにクローゼットのハンガーにかけるはずの兵団ジャケットは、雑に脱いだ後に珍しくソファの上に投げ捨てた。
エルヴィンに渡しておこうと思っていた注射の箱は、まだリヴァイが持っていた。
ジーク達の尋問や、ライナーとベルトルトの話を聞くのも明日以降ということになっている。
とりあえず、注射の箱は明日渡せば問題ないだろう。
リヴァイは、デスクの鍵付きの引き出しを開けて、中にしまう。
デスクの上には、2人で一緒に書いた婚姻届がそのまま置かれていた。
勝利して帰ってきたら、少し気は早いけど一緒に出しに行けたらいいと、こっそり考えていた。
そう言ったら、なまえはどんな風に喜んでくれるのだろうー、そんなことをこっそり、考えていたのだ。
でももう、この婚姻届を出すことは叶わなくなってしまった。
巨人を駆逐しても、すべての平和が訪れても、兵士としての使命に押しつぶされる世界が消えてもー。
『なまえ・アッカーマンかぁ…。楽しみだなぁ。』
婚姻届を両手で広げ、嬉しそうに頬を緩めていたなまえの姿が、蘇る。
まるで、本当にそこにいるようでー。
あぁ、すべて悪夢だったに違いない。
きっと、自分はあの日の続きにいるに違いない。
そんなことないと知りながら、リヴァイはおずおずと手を伸ばす。そして、空を切り、見えていたはずのなまえの輪郭は消えていく。
小さく首を横に振り、リヴァイは寝室へと向かった。
汗をかいて気持ち悪いけれど、シャワーは浴びたくない。
兵団服を染めたなまえの赤い血は渇いて黒い滲みになっていて、きっと落とすことはもう出来ないだろう。
なまえが生きていた証をそのまま残して、眠ってしまいたかったー。
リヴァイが寝室に入った途端、甘い果物の香りが鼻の奥を刺激した。
一緒にいるときは気づかなかったけれど、彼女の香りが寝室に染み込んでいたらしい。
何も、なまえがいなくなってから気づかなくてもいいのに、彼女がいないからこそ、分かってしまったのだろうから、そこを嘆いてもどうしようもない。
早くベッドで眠ってしまいたくて、リヴァイの足は速くなる。
そして、2人で何度も抱き合って、一緒に夜を越えて朝を迎えたベッドの前で立ち止まる。
あぁ、この部屋には、この世界には、なまえが溢れすぎているー。
『私、幸せです。リヴァイ兵長がいるだけで、幸せ。』
『約束ですよ。私、リヴァイ兵長が地平線を眺めるとき、隣にいたいです。』
『他の人と結婚するのも、リヴァイ兵長が他の誰かの恋人になるのも、嫌です。
そんなの、想像しただけで苦しくなります。
だからもう…っ、二度と…っ、そんなヒドイこと、言わないで…っ。』
『リヴァイ、生まれてきてくれて、ありがとう。』
ありとあらゆる記憶が一気にリヴァイの頭に蘇る。
なまえに惹かれて、それがもう抗えないほどの愛だと気づいたときにはもうひどく傷つけてしまっていた。
それでも、なまえは受け止めてくれた。
いつだって深く優しい愛で、抱きしめてくれた。愛させてくれたー。
彼女はいつも幸せだと笑っていたけれど、きっとそれ以上に、幸せにしてもらっていた自信がある。
たくさん泣かせた。たくさん怒らせた。たくさん傷つけた。そして、たくさん愛されたー。
なまえがいつものように微笑んでいるんじゃないか。
そんな願いを込めて、ベッドに触れる。
皴ひとつないシーツは、ひんやりと冷たくて、最後に重ねたなまえの唇を思い出した。
「なまえ…っ、ひとりに…っ、しないでくれ…っ。」
今の今までなんとか必死に立ち続けていたリヴァイは、なまえとの想い出で溢れた部屋で、ついに泣き崩れる。
なまえの香りが残るシーツに顔を埋め、泣きながら、何度も何度も名前を呼んだ。
今まで何度も呼び続けた名前を、その度に優しい笑顔をくれた彼女の名前をー。
もう二度と、返事のない名前を、それでも何度も何度も、呼び続けた。
唐突に甘い果物の香りが強くなった。
そのとき、柔らかい温かさが身体を包んだ気がしたー。
「ーーー!」
声にならない嗚咽が、悲鳴のようになってリヴァイから漏れる。
もう二度と触れられないなまえへの想いが、1人きりでは抱えきれないほどに溢れていく。
抱きしめたい。
キスがしたい。
一緒に夜を過ごしたい。
笑顔が見たい。
照れて染まった頬が見たい。
涙を拭ってあげたい。
怒って膨らんだ頬を笑わせたい。
名前を呼んでほしい。
触れてほしい。
愛してると言って欲しい。
ただ声が、聴きたい。
あぁ、逢いたいー。
息が、出来ない。
なまえがいない世界で、どうやって生きていけばいいー。
愛していたのだ。
自分を愛するよりもずっと、人類が滅びたっていいくらいになまえだけを本当はー。
本当はー。
だから、彼女が愛したかった世界を、守って生きて行かなければー。
でも、今夜だけは泣かせてー。
愛してる、誰よりもー。
愛してるー。
耳元で、愛の言葉と呼び捨ての名前が、優しく囁かれたー。
普段ならすぐにクローゼットのハンガーにかけるはずの兵団ジャケットは、雑に脱いだ後に珍しくソファの上に投げ捨てた。
エルヴィンに渡しておこうと思っていた注射の箱は、まだリヴァイが持っていた。
ジーク達の尋問や、ライナーとベルトルトの話を聞くのも明日以降ということになっている。
とりあえず、注射の箱は明日渡せば問題ないだろう。
リヴァイは、デスクの鍵付きの引き出しを開けて、中にしまう。
デスクの上には、2人で一緒に書いた婚姻届がそのまま置かれていた。
勝利して帰ってきたら、少し気は早いけど一緒に出しに行けたらいいと、こっそり考えていた。
そう言ったら、なまえはどんな風に喜んでくれるのだろうー、そんなことをこっそり、考えていたのだ。
でももう、この婚姻届を出すことは叶わなくなってしまった。
巨人を駆逐しても、すべての平和が訪れても、兵士としての使命に押しつぶされる世界が消えてもー。
『なまえ・アッカーマンかぁ…。楽しみだなぁ。』
婚姻届を両手で広げ、嬉しそうに頬を緩めていたなまえの姿が、蘇る。
まるで、本当にそこにいるようでー。
あぁ、すべて悪夢だったに違いない。
きっと、自分はあの日の続きにいるに違いない。
そんなことないと知りながら、リヴァイはおずおずと手を伸ばす。そして、空を切り、見えていたはずのなまえの輪郭は消えていく。
小さく首を横に振り、リヴァイは寝室へと向かった。
汗をかいて気持ち悪いけれど、シャワーは浴びたくない。
兵団服を染めたなまえの赤い血は渇いて黒い滲みになっていて、きっと落とすことはもう出来ないだろう。
なまえが生きていた証をそのまま残して、眠ってしまいたかったー。
リヴァイが寝室に入った途端、甘い果物の香りが鼻の奥を刺激した。
一緒にいるときは気づかなかったけれど、彼女の香りが寝室に染み込んでいたらしい。
何も、なまえがいなくなってから気づかなくてもいいのに、彼女がいないからこそ、分かってしまったのだろうから、そこを嘆いてもどうしようもない。
早くベッドで眠ってしまいたくて、リヴァイの足は速くなる。
そして、2人で何度も抱き合って、一緒に夜を越えて朝を迎えたベッドの前で立ち止まる。
あぁ、この部屋には、この世界には、なまえが溢れすぎているー。
『私、幸せです。リヴァイ兵長がいるだけで、幸せ。』
『約束ですよ。私、リヴァイ兵長が地平線を眺めるとき、隣にいたいです。』
『他の人と結婚するのも、リヴァイ兵長が他の誰かの恋人になるのも、嫌です。
そんなの、想像しただけで苦しくなります。
だからもう…っ、二度と…っ、そんなヒドイこと、言わないで…っ。』
『リヴァイ、生まれてきてくれて、ありがとう。』
ありとあらゆる記憶が一気にリヴァイの頭に蘇る。
なまえに惹かれて、それがもう抗えないほどの愛だと気づいたときにはもうひどく傷つけてしまっていた。
それでも、なまえは受け止めてくれた。
いつだって深く優しい愛で、抱きしめてくれた。愛させてくれたー。
彼女はいつも幸せだと笑っていたけれど、きっとそれ以上に、幸せにしてもらっていた自信がある。
たくさん泣かせた。たくさん怒らせた。たくさん傷つけた。そして、たくさん愛されたー。
なまえがいつものように微笑んでいるんじゃないか。
そんな願いを込めて、ベッドに触れる。
皴ひとつないシーツは、ひんやりと冷たくて、最後に重ねたなまえの唇を思い出した。
「なまえ…っ、ひとりに…っ、しないでくれ…っ。」
今の今までなんとか必死に立ち続けていたリヴァイは、なまえとの想い出で溢れた部屋で、ついに泣き崩れる。
なまえの香りが残るシーツに顔を埋め、泣きながら、何度も何度も名前を呼んだ。
今まで何度も呼び続けた名前を、その度に優しい笑顔をくれた彼女の名前をー。
もう二度と、返事のない名前を、それでも何度も何度も、呼び続けた。
唐突に甘い果物の香りが強くなった。
そのとき、柔らかい温かさが身体を包んだ気がしたー。
「ーーー!」
声にならない嗚咽が、悲鳴のようになってリヴァイから漏れる。
もう二度と触れられないなまえへの想いが、1人きりでは抱えきれないほどに溢れていく。
抱きしめたい。
キスがしたい。
一緒に夜を過ごしたい。
笑顔が見たい。
照れて染まった頬が見たい。
涙を拭ってあげたい。
怒って膨らんだ頬を笑わせたい。
名前を呼んでほしい。
触れてほしい。
愛してると言って欲しい。
ただ声が、聴きたい。
あぁ、逢いたいー。
息が、出来ない。
なまえがいない世界で、どうやって生きていけばいいー。
愛していたのだ。
自分を愛するよりもずっと、人類が滅びたっていいくらいになまえだけを本当はー。
本当はー。
だから、彼女が愛したかった世界を、守って生きて行かなければー。
でも、今夜だけは泣かせてー。
愛してる、誰よりもー。
愛してるー。
耳元で、愛の言葉と呼び捨ての名前が、優しく囁かれたー。