◇第百五十八話◇運命の日の前夜も貴方を愛する
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シガンシナ区決戦を前に、ペトラとオルオは結婚式を挙げた。
両家の親族と親しい友人を招待したアットホームな結婚式は、彼ららしい楽しくて素敵な式だった。
まだ結婚するには早いと反対したというペトラの父親も、彼らの熱意に負けたそうだ。
最後には、号泣しながらオルオと抱き合っていた。
そんな素敵な式から数日後、調査兵団の兵舎にある食堂では、肉の準備が始まっているらしかった。
今日くらいは奮発してもいいだろうというディルクさん達の愛情のようだけれど、シガンシナ区決戦前に肉を巡った戦争が始まるんじゃないかとちょっぴり心配だ。
そんな心配をしつつ、私とリヴァイ兵長は談話室のバルコニーに来ていた。
塀の上に座って、夜空を見上げる。
幾千の星は、今夜も綺麗に輝いている。
調査兵団に入団してから、ここは私の大切な場所になった。
そういえば、最近はリヴァイ兵長と同じ部屋で過ごすことが多くて、来ていなかったけれどー。
「なまえがここにいるのを久しぶりに見たな。」
「ふふ、私も同じことを思っていたところです。」
リヴァイ兵長から紅茶を受け取る。
以前もそうしていたみたいに、リヴァイ兵長は私の隣に立って、塀に背中を預けて夜空を見上げた。
恋焦がれて苦しくなるほどの恋をすることになるなんて知りもしない頃、リヴァイ兵長とよくこうして夜空を見上げていた。
それは、押しつけられた書類仕事の合間の休憩で、私は愚痴ばかり話していて、リヴァイ兵長は面倒くさそうに相談に乗っていたんだっけ。
「調査兵団に入団して、ひとりぼっちで寂しい夜が幾つもありました。」
「そうか。」
「そんなとき、リヴァイ兵長に無理やり仕事を押しつけられて
本当は凄く助かりました。」
「そうだと思った。」
「思ってないでしょ。」
じとっとした目で見下ろせば、苦笑を隠すようにリヴァイ兵長は口にティーカップを運んだ。
だから、私はクスリと笑う。
あの頃はどんな風に話していたんだっけ。
少しくらいは冗談を言っていたような気もするけれど、こんな風に気を許せる人になるなんて思ってもみなかった。
調査兵団の兵舎の中に、大切な人達が溢れるようになるなんて、思ってもみなかったー。
明日、本当はみんなで帰って来たい。
でも、それは口には出せない。
言わなくたって、みんなが同じことを思っていることだから。
言ってしまったら、叶わなくなってしまいそうだから。
言ったところで、何も変わらないことは、分かっているからー。
だからー。
「あ!流れ星っ!!」
落ちていく星を指さそうとして、私は慌てて両手を重ねた。
瞳を閉じて願うのは、ひとつだけー。
誰もが優しくいられる美しい世界が来ますように。
明日の幸せを何の疑いもなく信じられる世界で、みんなが笑って暮らせる世界がいいー。
そこには、もちろん巨人はいないし、巨人になれる人間だっていない。
みんなが平等で、みんなが幸せに笑ってる。そんな世界。
あぁ、こんなことを願わなきゃいけないこと自体が、間違っているこんな世界はもう終わりにしよう。
だって、それって本当は、この世界が当然あるべき姿なんじゃないだろうか。
誰もが笑って幸せでいるーそれを夢見ることを馬鹿げていると嘲笑われる世界こそが、間違っているのだ。
どんな目的で人間が巨人にならなきゃいけなかったのか、何を知っても私は納得できないと思う。
どんな理由も、アニやコニー達が地獄を味わっても仕方なかったことにはならないから。
だからどうか、もう誰も巨人にならなくていい世界をー。
瞼を上げれば、もちろんもう、そこには流れ星はなかった。
「私のお願い、聞こえたかな?」
「あぁ、ちゃんと届いてた。」
リヴァイ兵長は、まるで確信しているように言う。
私の全てを受け入れてくれる優しい声色は、恐怖と不安に震えそうになる心に決意を固めさせてくれる。
明日、どんなひどい状況が待ち受けていようとも、怯まず立ち向かおうー。
「それで、願いはもちろん、俺のことだろう?」
「…あ。」
「チッ。」
リヴァイ兵長の舌打ちに、慌てて謝る。
でも、私もリヴァイ兵長も、本当は知っている。
これはただの口実でー。
「愛してる、リヴァイ。」
「仕方ねぇな。許してやるよ。」
思い通りになって満足気のリヴァイ兵長は、塀に飛び乗ると私の隣に座った。
私の頬に触れて、今度は仲直りのキスー。
そっと唇が離れれば、おでこを重ねて見つめ合う。
優しい月が、私達の今を照らすように輝いてー。
私の願い事を問うリヴァイ兵長にも教えてあげた。
叶えてくれると言ってくれた。
リヴァイ兵長ならきっと、私の夢も願いも全て叶えてくれると信じてるー。
「冷えてきたな。そろそろ食堂に戻るか。」
「そうですね。」
リヴァイ兵長が伸ばしてくれる手をとって、塀から降りる。
強く手を握って、仲間達の集まる食堂へと向かう。
壁外調査の前は、頭が狂いそうになると誰かが言っていた。
今日はきっと、みんな頭が狂いすぎて、たぶん、本当の恐ろしさに気づいていない。
それでもいい。
せめて今夜は、仲間達と笑い合おう。夢を見よう。
「今日、お肉があるらしいですよっ。」
「あぁ、ディルクも面倒なことしてくれたもんだ。」
「すっごい楽しみですねっ。」
「食い過ぎたら、ドレスが入らなくなるぞ。」
「あ…!だ、大丈夫です!明日、いっぱい動くからっ!」
「ウォール・マリア奪還作戦でダイエットする女がいるとは、
誰も思わねぇだろうな。」
「うるさいな。」
むぅっと頬を膨らませれば、リヴァイ兵長が髪をクシャリと撫でる。
私とリヴァイ兵長は、話し足りないと思ってるみたいにずっと喋り続けながら食堂へ向かった。
たくさん笑って、少し意地悪く口元を歪めて、何度も見つめ合って、私達が交わしたのは、明日だって、明後日だって、いつだって出来るような他愛のない話。
でも、たぶん、私達はそれがよかった。
特別な話じゃなくたって、大切な人と交わせば、それはかけがえのない思い出になることを、私達は知っているから。
それを本当に明日も明後日も出来ることが、どんなに尊いことかを、私達はちゃんと、知っているからー。
両家の親族と親しい友人を招待したアットホームな結婚式は、彼ららしい楽しくて素敵な式だった。
まだ結婚するには早いと反対したというペトラの父親も、彼らの熱意に負けたそうだ。
最後には、号泣しながらオルオと抱き合っていた。
そんな素敵な式から数日後、調査兵団の兵舎にある食堂では、肉の準備が始まっているらしかった。
今日くらいは奮発してもいいだろうというディルクさん達の愛情のようだけれど、シガンシナ区決戦前に肉を巡った戦争が始まるんじゃないかとちょっぴり心配だ。
そんな心配をしつつ、私とリヴァイ兵長は談話室のバルコニーに来ていた。
塀の上に座って、夜空を見上げる。
幾千の星は、今夜も綺麗に輝いている。
調査兵団に入団してから、ここは私の大切な場所になった。
そういえば、最近はリヴァイ兵長と同じ部屋で過ごすことが多くて、来ていなかったけれどー。
「なまえがここにいるのを久しぶりに見たな。」
「ふふ、私も同じことを思っていたところです。」
リヴァイ兵長から紅茶を受け取る。
以前もそうしていたみたいに、リヴァイ兵長は私の隣に立って、塀に背中を預けて夜空を見上げた。
恋焦がれて苦しくなるほどの恋をすることになるなんて知りもしない頃、リヴァイ兵長とよくこうして夜空を見上げていた。
それは、押しつけられた書類仕事の合間の休憩で、私は愚痴ばかり話していて、リヴァイ兵長は面倒くさそうに相談に乗っていたんだっけ。
「調査兵団に入団して、ひとりぼっちで寂しい夜が幾つもありました。」
「そうか。」
「そんなとき、リヴァイ兵長に無理やり仕事を押しつけられて
本当は凄く助かりました。」
「そうだと思った。」
「思ってないでしょ。」
じとっとした目で見下ろせば、苦笑を隠すようにリヴァイ兵長は口にティーカップを運んだ。
だから、私はクスリと笑う。
あの頃はどんな風に話していたんだっけ。
少しくらいは冗談を言っていたような気もするけれど、こんな風に気を許せる人になるなんて思ってもみなかった。
調査兵団の兵舎の中に、大切な人達が溢れるようになるなんて、思ってもみなかったー。
明日、本当はみんなで帰って来たい。
でも、それは口には出せない。
言わなくたって、みんなが同じことを思っていることだから。
言ってしまったら、叶わなくなってしまいそうだから。
言ったところで、何も変わらないことは、分かっているからー。
だからー。
「あ!流れ星っ!!」
落ちていく星を指さそうとして、私は慌てて両手を重ねた。
瞳を閉じて願うのは、ひとつだけー。
誰もが優しくいられる美しい世界が来ますように。
明日の幸せを何の疑いもなく信じられる世界で、みんなが笑って暮らせる世界がいいー。
そこには、もちろん巨人はいないし、巨人になれる人間だっていない。
みんなが平等で、みんなが幸せに笑ってる。そんな世界。
あぁ、こんなことを願わなきゃいけないこと自体が、間違っているこんな世界はもう終わりにしよう。
だって、それって本当は、この世界が当然あるべき姿なんじゃないだろうか。
誰もが笑って幸せでいるーそれを夢見ることを馬鹿げていると嘲笑われる世界こそが、間違っているのだ。
どんな目的で人間が巨人にならなきゃいけなかったのか、何を知っても私は納得できないと思う。
どんな理由も、アニやコニー達が地獄を味わっても仕方なかったことにはならないから。
だからどうか、もう誰も巨人にならなくていい世界をー。
瞼を上げれば、もちろんもう、そこには流れ星はなかった。
「私のお願い、聞こえたかな?」
「あぁ、ちゃんと届いてた。」
リヴァイ兵長は、まるで確信しているように言う。
私の全てを受け入れてくれる優しい声色は、恐怖と不安に震えそうになる心に決意を固めさせてくれる。
明日、どんなひどい状況が待ち受けていようとも、怯まず立ち向かおうー。
「それで、願いはもちろん、俺のことだろう?」
「…あ。」
「チッ。」
リヴァイ兵長の舌打ちに、慌てて謝る。
でも、私もリヴァイ兵長も、本当は知っている。
これはただの口実でー。
「愛してる、リヴァイ。」
「仕方ねぇな。許してやるよ。」
思い通りになって満足気のリヴァイ兵長は、塀に飛び乗ると私の隣に座った。
私の頬に触れて、今度は仲直りのキスー。
そっと唇が離れれば、おでこを重ねて見つめ合う。
優しい月が、私達の今を照らすように輝いてー。
私の願い事を問うリヴァイ兵長にも教えてあげた。
叶えてくれると言ってくれた。
リヴァイ兵長ならきっと、私の夢も願いも全て叶えてくれると信じてるー。
「冷えてきたな。そろそろ食堂に戻るか。」
「そうですね。」
リヴァイ兵長が伸ばしてくれる手をとって、塀から降りる。
強く手を握って、仲間達の集まる食堂へと向かう。
壁外調査の前は、頭が狂いそうになると誰かが言っていた。
今日はきっと、みんな頭が狂いすぎて、たぶん、本当の恐ろしさに気づいていない。
それでもいい。
せめて今夜は、仲間達と笑い合おう。夢を見よう。
「今日、お肉があるらしいですよっ。」
「あぁ、ディルクも面倒なことしてくれたもんだ。」
「すっごい楽しみですねっ。」
「食い過ぎたら、ドレスが入らなくなるぞ。」
「あ…!だ、大丈夫です!明日、いっぱい動くからっ!」
「ウォール・マリア奪還作戦でダイエットする女がいるとは、
誰も思わねぇだろうな。」
「うるさいな。」
むぅっと頬を膨らませれば、リヴァイ兵長が髪をクシャリと撫でる。
私とリヴァイ兵長は、話し足りないと思ってるみたいにずっと喋り続けながら食堂へ向かった。
たくさん笑って、少し意地悪く口元を歪めて、何度も見つめ合って、私達が交わしたのは、明日だって、明後日だって、いつだって出来るような他愛のない話。
でも、たぶん、私達はそれがよかった。
特別な話じゃなくたって、大切な人と交わせば、それはかけがえのない思い出になることを、私達は知っているから。
それを本当に明日も明後日も出来ることが、どんなに尊いことかを、私達はちゃんと、知っているからー。