◇第百五十七話◇白い鳥達の祝福を受けて
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対巨人兵器の完成、シガンシナ区夜間順路開拓が半分ほど完了したその頃。
調査兵団兵舎の食堂は、普段よりも賑やかさを増していた。
王政まで変えてしまった調査兵団の活躍に感化された兵士達が続々と編入したことで、そもそもの調査兵の数が増えたというのもある。
だが、その日の食堂は、もっと別のことで賑やかにー、いや、騒がしくなっていた。
「いやぁ~、めでたい!めでたい!」
ハッハッと気持ちいいくらいに笑ったハンジさんが、今日の婚約パーティーの開催者だった。
あの日、ハンジさんやモブリットさんは、リヴァイ兵長がプロポーズするつもりだということに気づいていたらしい。
リヴァイ兵長が指輪を調達するように頼んでいたリーブス商会の息子が、口を滑らせたそうだ。
だから、私がリヴァイ兵長にほとんど拉致されるかたちで研究所から出て行ったのに止めなかったのだろう。
そして、帰ってきた私の左手薬指の指輪を確認した後、こっそり婚約パーティーの準備を始めていたらしかった。
教えてしまったら断れるだろうと考えたハンジさんの指示により、当日まで知らされることはなかったリヴァイ兵長と私は、今朝、いつも通り兵団服に着替えて部屋を出たところを、待ち構えていた旧リヴァイ班のみんなに拉致された。
それでも、わざわざそんなことをしてくれなくてもいいと抵抗してみたものの、人類最強の兵士が結婚を決めたのなら、調査兵団全体で祝うべきだーとハンジさんが言って聞かなかった。
それで、エルヴィン団長が用意したという黒のタキシードを着て、私の隣に立つリヴァイ兵長はずっと不機嫌だ。
いや、たぶん、不機嫌な顔をしている照れ屋さんだと思う。
それを分かっているハンジさんとゲルガーさんにからかわれて、鋭い眼光がもっと恐ろしいものになっている。
「なまえさんっ、すっごく綺麗ですっ。」
アルミンが招待状を送ったらしく、ヒストリアも王都から遥々やって来てくれた。
彼女が褒めてくれた黄色のドレスは、フロリアンのブライズメイドになるためにマレーネが作ってくれたものだった。
髪のセットもメイクも、マレーネ達がしてくれた。
瞳に涙を浮かべながら、おめでとうと繰り返していた彼女達と私が思い浮かべていた友人の顔は、同じだったと思うー。
「ありがとう。」
もちろん嬉しくて、私の笑顔に嘘はないと思う。
でも、どうしても、大好きな彼との結婚を喜んでいたフロリアンの顔が蘇ってくるのだ。
悲しい彼女の最期の姿が、どうしてもー。
私ばかり、幸せになっていいのだろうか。
あの日、プロポーズされて泣いて喜んで、素直に受け入れた。
でも、少しずつ時間が経つにつれて、そんな考えがずっと頭から離れない。
「どうしたの、浮かない顔をして?」
「ううん、ただちょっと、幸せ過ぎるなぁと思っただけだよ。」
「そう。幸せならよかったわ。」
すぐに気づいたのは、母親だった。
母親が納得したかは分からない。
ただとても優しく微笑んで、私の手を握りしめてくれた。
そこへ、瞳に涙を浮かべたサシャが走ってやってきた。
「なまえさんのお母様っ!!あなたは神ですか!?神なのですか!?!?」
口の周りにべっとりとソースをつけて、感動したように騒ぎ出す。
どうやら、母親の料理がお口にあったようだ。
あれもこれも美味しかったー、一緒に話そうと騒ぎながら、サシャが母親の手を引っ張っていく。
その向こうで、父親はミケ分隊長とお酒を酌み交わしていた。
ただ静かにお酒を呑んでいるだけなのだけれど、寡黙な2人なりに楽しんでいるようだった。
「あなたがリヴァイ兵長の恋人だったんですね。
あのウェディングドレス姿での巨人討伐には感激しました!」
やってきたのは、おかっぱ頭の背の高い若い兵士だった。
見覚えのない彼は、自分のことをマルロと名乗った。
王都に奪われたエレンを奪還するためにリヴァイ兵長達と一緒に戦ってくれた憲兵で、その後移動願いを出し、今は調査兵だということだった。
彼の隣には、金髪のボブカットの綺麗な女性もいた。
ヒッチと名乗った彼女は、兵団服ではなく、お洒落なワンピースを着ていたけれど、マルロと同じように調査兵団に協力してくれた憲兵らしい。
彼女は、マルロのように調査兵団に移動する気はないようだ。
「あ…、あんたのソレ。」
ヒッチが、私の左手首についた赤いブレスレットを見て呟くように言った。
そしてー。
「アンタだったんだね。アニが言ってた、うるさい姉って。」
「うるさい姉?」
「珍しくアクセサリーなんかつけてるから、からかったんだよ。
そしたら、うるさい姉につけさせられたんだって、文句言っててさ。
そのくせ、暇さえあれば、嬉しそうに自分の手首見てて笑っちゃったよ。」
ヒッチが悪戯に笑う。
私は自分の左手首に相変わらず輝く赤いブレスレットに触れた。
そうか、アニは気に入ってくれていたのか。
私のことを、姉と呼んでくれていたのか。
彼らは、アニが女型の巨人だったことを知っているようだった。
それでも、彼らが話すアニは、憲兵として出逢った姿のままだったことが、とても嬉しかった。
ジャンに呼ばれたマルロ達が立ち去った後、やってきたのはエルヴィン団長だった。
「決戦を前にこんな宴を開くとは思わなかったよ。」
私の肩に手を乗せたエルヴィン団長は、柔らかい表情で部下たちを眺めていた。
兵士長の婚約を祝うという名目で集まった調査兵達は、美味しい料理を前にして、一様に無邪気に笑って楽しんでいる。
まるで、今まで押し潰されそうになっていた何かを解放するみたいに、大きな口を開けてー。
もしかしたら、少しずつ近づいているその日に向けて、調査兵団の兵舎はピリついていたのかもしれない。
特に、エルヴィン団長はいつも難しい顔をして、神経をすり減らしながら、どうすれば勝利できるか、仲間を守れるかを考えていたのだと思う。
そう考えれば、今日のこの婚約パーティーを開いてくれてよかった思える。
でもー。
「おい、エルヴィン。勝手に触ってんじゃねぇ。」
リヴァイ兵長が不機嫌に言って、私の肩に乗るエルヴィン団長の手を払いのけた。
普段ならそんなことしないのにー。
酔っ払いのゲルガーさんとモブリットさんにからかわれ続けて苛立っていたのと、兵団服と違って黄色のドレスは肩を出しているから肌に直接触れたというのが気に入らなかったのかもしれない。
「あぁ、それは悪かったな。」
面食らった顔をしたエルヴィン団長は、すぐに可笑しそうに口元を隠した。
調査兵団兵舎の食堂は、普段よりも賑やかさを増していた。
王政まで変えてしまった調査兵団の活躍に感化された兵士達が続々と編入したことで、そもそもの調査兵の数が増えたというのもある。
だが、その日の食堂は、もっと別のことで賑やかにー、いや、騒がしくなっていた。
「いやぁ~、めでたい!めでたい!」
ハッハッと気持ちいいくらいに笑ったハンジさんが、今日の婚約パーティーの開催者だった。
あの日、ハンジさんやモブリットさんは、リヴァイ兵長がプロポーズするつもりだということに気づいていたらしい。
リヴァイ兵長が指輪を調達するように頼んでいたリーブス商会の息子が、口を滑らせたそうだ。
だから、私がリヴァイ兵長にほとんど拉致されるかたちで研究所から出て行ったのに止めなかったのだろう。
そして、帰ってきた私の左手薬指の指輪を確認した後、こっそり婚約パーティーの準備を始めていたらしかった。
教えてしまったら断れるだろうと考えたハンジさんの指示により、当日まで知らされることはなかったリヴァイ兵長と私は、今朝、いつも通り兵団服に着替えて部屋を出たところを、待ち構えていた旧リヴァイ班のみんなに拉致された。
それでも、わざわざそんなことをしてくれなくてもいいと抵抗してみたものの、人類最強の兵士が結婚を決めたのなら、調査兵団全体で祝うべきだーとハンジさんが言って聞かなかった。
それで、エルヴィン団長が用意したという黒のタキシードを着て、私の隣に立つリヴァイ兵長はずっと不機嫌だ。
いや、たぶん、不機嫌な顔をしている照れ屋さんだと思う。
それを分かっているハンジさんとゲルガーさんにからかわれて、鋭い眼光がもっと恐ろしいものになっている。
「なまえさんっ、すっごく綺麗ですっ。」
アルミンが招待状を送ったらしく、ヒストリアも王都から遥々やって来てくれた。
彼女が褒めてくれた黄色のドレスは、フロリアンのブライズメイドになるためにマレーネが作ってくれたものだった。
髪のセットもメイクも、マレーネ達がしてくれた。
瞳に涙を浮かべながら、おめでとうと繰り返していた彼女達と私が思い浮かべていた友人の顔は、同じだったと思うー。
「ありがとう。」
もちろん嬉しくて、私の笑顔に嘘はないと思う。
でも、どうしても、大好きな彼との結婚を喜んでいたフロリアンの顔が蘇ってくるのだ。
悲しい彼女の最期の姿が、どうしてもー。
私ばかり、幸せになっていいのだろうか。
あの日、プロポーズされて泣いて喜んで、素直に受け入れた。
でも、少しずつ時間が経つにつれて、そんな考えがずっと頭から離れない。
「どうしたの、浮かない顔をして?」
「ううん、ただちょっと、幸せ過ぎるなぁと思っただけだよ。」
「そう。幸せならよかったわ。」
すぐに気づいたのは、母親だった。
母親が納得したかは分からない。
ただとても優しく微笑んで、私の手を握りしめてくれた。
そこへ、瞳に涙を浮かべたサシャが走ってやってきた。
「なまえさんのお母様っ!!あなたは神ですか!?神なのですか!?!?」
口の周りにべっとりとソースをつけて、感動したように騒ぎ出す。
どうやら、母親の料理がお口にあったようだ。
あれもこれも美味しかったー、一緒に話そうと騒ぎながら、サシャが母親の手を引っ張っていく。
その向こうで、父親はミケ分隊長とお酒を酌み交わしていた。
ただ静かにお酒を呑んでいるだけなのだけれど、寡黙な2人なりに楽しんでいるようだった。
「あなたがリヴァイ兵長の恋人だったんですね。
あのウェディングドレス姿での巨人討伐には感激しました!」
やってきたのは、おかっぱ頭の背の高い若い兵士だった。
見覚えのない彼は、自分のことをマルロと名乗った。
王都に奪われたエレンを奪還するためにリヴァイ兵長達と一緒に戦ってくれた憲兵で、その後移動願いを出し、今は調査兵だということだった。
彼の隣には、金髪のボブカットの綺麗な女性もいた。
ヒッチと名乗った彼女は、兵団服ではなく、お洒落なワンピースを着ていたけれど、マルロと同じように調査兵団に協力してくれた憲兵らしい。
彼女は、マルロのように調査兵団に移動する気はないようだ。
「あ…、あんたのソレ。」
ヒッチが、私の左手首についた赤いブレスレットを見て呟くように言った。
そしてー。
「アンタだったんだね。アニが言ってた、うるさい姉って。」
「うるさい姉?」
「珍しくアクセサリーなんかつけてるから、からかったんだよ。
そしたら、うるさい姉につけさせられたんだって、文句言っててさ。
そのくせ、暇さえあれば、嬉しそうに自分の手首見てて笑っちゃったよ。」
ヒッチが悪戯に笑う。
私は自分の左手首に相変わらず輝く赤いブレスレットに触れた。
そうか、アニは気に入ってくれていたのか。
私のことを、姉と呼んでくれていたのか。
彼らは、アニが女型の巨人だったことを知っているようだった。
それでも、彼らが話すアニは、憲兵として出逢った姿のままだったことが、とても嬉しかった。
ジャンに呼ばれたマルロ達が立ち去った後、やってきたのはエルヴィン団長だった。
「決戦を前にこんな宴を開くとは思わなかったよ。」
私の肩に手を乗せたエルヴィン団長は、柔らかい表情で部下たちを眺めていた。
兵士長の婚約を祝うという名目で集まった調査兵達は、美味しい料理を前にして、一様に無邪気に笑って楽しんでいる。
まるで、今まで押し潰されそうになっていた何かを解放するみたいに、大きな口を開けてー。
もしかしたら、少しずつ近づいているその日に向けて、調査兵団の兵舎はピリついていたのかもしれない。
特に、エルヴィン団長はいつも難しい顔をして、神経をすり減らしながら、どうすれば勝利できるか、仲間を守れるかを考えていたのだと思う。
そう考えれば、今日のこの婚約パーティーを開いてくれてよかった思える。
でもー。
「おい、エルヴィン。勝手に触ってんじゃねぇ。」
リヴァイ兵長が不機嫌に言って、私の肩に乗るエルヴィン団長の手を払いのけた。
普段ならそんなことしないのにー。
酔っ払いのゲルガーさんとモブリットさんにからかわれ続けて苛立っていたのと、兵団服と違って黄色のドレスは肩を出しているから肌に直接触れたというのが気に入らなかったのかもしれない。
「あぁ、それは悪かったな。」
面食らった顔をしたエルヴィン団長は、すぐに可笑しそうに口元を隠した。