◇第百五十四話◇始まりの場所で愛を誓う(上)
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調査兵団兵舎の上官会議室で連日続いた会議によって、ウォール・マリア奪還作戦の内容はほぼ固まりだしていた。
後は、壁外任務にてシガンシナ区までのルート拠点の設置や、奪還のための肝となるエレンの硬質化の安定が必要になる。
さらに、ハンジさんが考案した、エレンの硬質化の力を利用した新たな武器の試作の許可も下りた。
人類にとって大きな一歩となるその日は、着々と近づいていた。
そんなある日、私は、リヴァイ兵長に連れられて旧調査兵団本部にやって来ていた。
昼過ぎに研究所で試作品のチェックをしているところに突然やってきて、そのまま何の説明もないまま、リヴァイ兵長の愛馬に乗せられていた。
旧調査兵団本部に辿り着いた頃には、空は赤を通り越して藍色に変わっていた。
「リヴァイ兵長が最初に調査兵団に入ったときは、
ここが今の兵舎みたいな感じだったんですよね?」
大きな扉を押して入っていくリヴァイ兵長の後ろに続いて、私も中に入った。
ここにやってきた意味は分からなかった私だったけれど、リヴァイ兵長とふたりきりだということだけで嬉しかった。
攫われていく私にハンジさんも驚いてはいたけれど、特に止もしなかったし、許可を貰ったということなら、せっかくの2人きりを思い切り味わうだけだ。
「あぁ。俺とファーランの部屋はその奥だった。
イザベルだけは、別棟で駄々こねてたがな。」
階段を上ると、個室が並ぶフロアに辿り着いた。
私とルルの部屋は、リヴァイ兵長が指さしたのと反対廊下の奥だった。
ここは、私にとっても、リヴァイ兵長にとっても、大切な人達の想い出の残る悲しくて大切な場所なのだと改めて実感する。
だって、聞こえてくるし、見える気がするのだ。
ここで生活していたときのルルの姿がー。
世界の残酷さの本当の意味を理解しないまま、無邪気に笑っていられた私の姿がー。
もしかすると、私とは反対の廊下を見たまま立ち止まっているリヴァイ兵長にも、見えているのかもしれない。
あの頃の自分に話しかける大切な友人達の姿がー。
「さぁ、行くぞ。」
リヴァイ兵長に手を引かれ、さらに階段を上がる。
城内の階段をいくつか上った後は、薄暗い廊下をさらに奥へ奥へと進んだ。
そして、誰も使わないような部屋に入った後、リヴァイ兵長が私を連れて出たのは、バルコニーだった。
広いとも狭いとも言えないそこは、真上に輝く月に照らされてとても明るかった。
城の中でも高い場所にあるバルコニーであることと、この城が壁から離れた場所にあるおかげで、遮るものがないことで一気に開けた視界は、私の瞳を輝かせた。
「わぁ…!リヴァイ兵長っ!見てくださいっ!この星空ぜんぶ、私達のもみたいっ!」
バルコニーの低い塀になっている城壁に飛び乗り、私はリヴァイ兵長を振り返った。
そして、息を呑んだ。
リヴァイ兵長は、跪いて私を見上げていた。
真っすぐに伸ばされた手のひらの上には、小さな箱が乗っていた。
それが何か、その中には何が入っているのか。
そして今のこのシチュエーションが、何を意味するのか。
それが分からないほど、私は子供ではない。
それでも、頭では状況を理解したつもりになっていても、心が追いつかなかった。
振り返ったままの格好でかたまる私に、リヴァイ兵長は告げる。
「俺は必ず、ウォール・マリアを奪還して、巨人を全て駆逐する。
その後に、俺が欲しいのはなまえの未来だけだ。
お前を誰よりも幸せにすると誓う。俺と結婚してくれ、なまえ。」
リヴァイ兵長が箱の蓋を上げて開いた。
月灯りに照らされて、指輪に乗せられた宝石がキラキラと輝く。
それが眩しいせいなのか、視界がユラユラ揺れてよく見えない。
心は追いつかないどころか、今この瞬間を誰よりも喜んでいたらしい。
返事の言葉を言いたいのに、感動で喉が詰まってうまく声が出ない。
涙を流したままで、低い塀からゆっくり降りた。
そして、真っすぐに私に伸びる手におずおずと触れる。
握りしめられた私の手は強く引かれ、落ちていった身体はリヴァイ兵長に抱き留められた。
「返事はイエスってことでいいよな。」
首元に埋まる私の頭を撫でるようにしながら、リヴァイ兵長が訊ねる。
それにも、私は声が出なくて、必死に頷く。
「まぁ、選択肢は他にやる気はなかったがな。」
「ふふ、なんですか、それ。」
冗談に聞こえないそれが可笑しくて、思わず笑ってしまう。
「全て終わったら、お前の姓はアッカーマンだ。覚えとけよ。」
「…アッカーマン?なんで、ミカサが出てくるんですか?」
「あぁ…、言い忘れてた。俺の姓はアッカーマンだった。」
「…?もう、なんなんですか。いろいろ急すぎて、意味わかんないですよ。」
泣きながら苦笑する。
本当に意味が分からないけれど、でも、嬉しい。幸せ。
今、私は生まれてきて一番幸せー。
私は一体、生まれる前の人生で、どれだけ素晴らしい功績を残したのだろうか。
そうじゃなきゃ、こんなに素敵な人に愛してもらえる理由がない。
それなのにー。
「とにかく、俺はー。」
リヴァイ兵長が、そっと身体を離す。
そして、涙を流す私の頬を優しく撫でる。
私を見つめるリヴァイ兵長の瞳は、とても優しくてー。
「なまえを世界中の誰よりも愛してる。
生まれてきてくれて、ありがとう。」
「…っ。」
私だって同じことを伝えたかったのに、やっぱり、声にならなかった。
リヴァイ兵長の笑顔ってどんな感じかなって、想像したことがある。
どれも素敵だったけれど、でも、本物には敵わない。
あぁ、なんて優しい微笑みをする人なんだろうー。
なんて、包み込むような温かい微笑みをー。
たまらず抱きしめる。
私は今日のこの日を忘れない。
たとえ、明日私が死んで、また新しい人生が始まったとしても絶対にー。
愛おしい人の微笑みを、私は絶対に忘れないー。
後は、壁外任務にてシガンシナ区までのルート拠点の設置や、奪還のための肝となるエレンの硬質化の安定が必要になる。
さらに、ハンジさんが考案した、エレンの硬質化の力を利用した新たな武器の試作の許可も下りた。
人類にとって大きな一歩となるその日は、着々と近づいていた。
そんなある日、私は、リヴァイ兵長に連れられて旧調査兵団本部にやって来ていた。
昼過ぎに研究所で試作品のチェックをしているところに突然やってきて、そのまま何の説明もないまま、リヴァイ兵長の愛馬に乗せられていた。
旧調査兵団本部に辿り着いた頃には、空は赤を通り越して藍色に変わっていた。
「リヴァイ兵長が最初に調査兵団に入ったときは、
ここが今の兵舎みたいな感じだったんですよね?」
大きな扉を押して入っていくリヴァイ兵長の後ろに続いて、私も中に入った。
ここにやってきた意味は分からなかった私だったけれど、リヴァイ兵長とふたりきりだということだけで嬉しかった。
攫われていく私にハンジさんも驚いてはいたけれど、特に止もしなかったし、許可を貰ったということなら、せっかくの2人きりを思い切り味わうだけだ。
「あぁ。俺とファーランの部屋はその奥だった。
イザベルだけは、別棟で駄々こねてたがな。」
階段を上ると、個室が並ぶフロアに辿り着いた。
私とルルの部屋は、リヴァイ兵長が指さしたのと反対廊下の奥だった。
ここは、私にとっても、リヴァイ兵長にとっても、大切な人達の想い出の残る悲しくて大切な場所なのだと改めて実感する。
だって、聞こえてくるし、見える気がするのだ。
ここで生活していたときのルルの姿がー。
世界の残酷さの本当の意味を理解しないまま、無邪気に笑っていられた私の姿がー。
もしかすると、私とは反対の廊下を見たまま立ち止まっているリヴァイ兵長にも、見えているのかもしれない。
あの頃の自分に話しかける大切な友人達の姿がー。
「さぁ、行くぞ。」
リヴァイ兵長に手を引かれ、さらに階段を上がる。
城内の階段をいくつか上った後は、薄暗い廊下をさらに奥へ奥へと進んだ。
そして、誰も使わないような部屋に入った後、リヴァイ兵長が私を連れて出たのは、バルコニーだった。
広いとも狭いとも言えないそこは、真上に輝く月に照らされてとても明るかった。
城の中でも高い場所にあるバルコニーであることと、この城が壁から離れた場所にあるおかげで、遮るものがないことで一気に開けた視界は、私の瞳を輝かせた。
「わぁ…!リヴァイ兵長っ!見てくださいっ!この星空ぜんぶ、私達のもみたいっ!」
バルコニーの低い塀になっている城壁に飛び乗り、私はリヴァイ兵長を振り返った。
そして、息を呑んだ。
リヴァイ兵長は、跪いて私を見上げていた。
真っすぐに伸ばされた手のひらの上には、小さな箱が乗っていた。
それが何か、その中には何が入っているのか。
そして今のこのシチュエーションが、何を意味するのか。
それが分からないほど、私は子供ではない。
それでも、頭では状況を理解したつもりになっていても、心が追いつかなかった。
振り返ったままの格好でかたまる私に、リヴァイ兵長は告げる。
「俺は必ず、ウォール・マリアを奪還して、巨人を全て駆逐する。
その後に、俺が欲しいのはなまえの未来だけだ。
お前を誰よりも幸せにすると誓う。俺と結婚してくれ、なまえ。」
リヴァイ兵長が箱の蓋を上げて開いた。
月灯りに照らされて、指輪に乗せられた宝石がキラキラと輝く。
それが眩しいせいなのか、視界がユラユラ揺れてよく見えない。
心は追いつかないどころか、今この瞬間を誰よりも喜んでいたらしい。
返事の言葉を言いたいのに、感動で喉が詰まってうまく声が出ない。
涙を流したままで、低い塀からゆっくり降りた。
そして、真っすぐに私に伸びる手におずおずと触れる。
握りしめられた私の手は強く引かれ、落ちていった身体はリヴァイ兵長に抱き留められた。
「返事はイエスってことでいいよな。」
首元に埋まる私の頭を撫でるようにしながら、リヴァイ兵長が訊ねる。
それにも、私は声が出なくて、必死に頷く。
「まぁ、選択肢は他にやる気はなかったがな。」
「ふふ、なんですか、それ。」
冗談に聞こえないそれが可笑しくて、思わず笑ってしまう。
「全て終わったら、お前の姓はアッカーマンだ。覚えとけよ。」
「…アッカーマン?なんで、ミカサが出てくるんですか?」
「あぁ…、言い忘れてた。俺の姓はアッカーマンだった。」
「…?もう、なんなんですか。いろいろ急すぎて、意味わかんないですよ。」
泣きながら苦笑する。
本当に意味が分からないけれど、でも、嬉しい。幸せ。
今、私は生まれてきて一番幸せー。
私は一体、生まれる前の人生で、どれだけ素晴らしい功績を残したのだろうか。
そうじゃなきゃ、こんなに素敵な人に愛してもらえる理由がない。
それなのにー。
「とにかく、俺はー。」
リヴァイ兵長が、そっと身体を離す。
そして、涙を流す私の頬を優しく撫でる。
私を見つめるリヴァイ兵長の瞳は、とても優しくてー。
「なまえを世界中の誰よりも愛してる。
生まれてきてくれて、ありがとう。」
「…っ。」
私だって同じことを伝えたかったのに、やっぱり、声にならなかった。
リヴァイ兵長の笑顔ってどんな感じかなって、想像したことがある。
どれも素敵だったけれど、でも、本物には敵わない。
あぁ、なんて優しい微笑みをする人なんだろうー。
なんて、包み込むような温かい微笑みをー。
たまらず抱きしめる。
私は今日のこの日を忘れない。
たとえ、明日私が死んで、また新しい人生が始まったとしても絶対にー。
愛おしい人の微笑みを、私は絶対に忘れないー。