◇第十四話◇入団テスト
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トロスト区の外門は、巨人化出来る訓練兵の力によって大きな岩で塞がれている。
私達人類は、ここが開くことはもうないと考えている。
超大型巨人の力をもってしても、恐らくこの大岩を蹴り上げることは出来ないだろうから。
でも、知性のない巨人がそんなことを理解しているわけがなく、トロスト区の壁外近くにはまだ数体の巨人がいて、次に扉が開くのを今か今かと待っているように見えた。
「遅い。速く動けねぇとすぐに巨人の胃袋の中だぞ。」
「はいっ!」
腕を伸ばして、ガスの風圧に耐えながらアンカーを出来るだけ遠くへ飛ばす。
あっという間に遥か先に行ってしまうリヴァイ兵長を必死に追いかけた。
前回の壁外任務のとき、ハンジさん達が私のスピードに合わせてくれていたのだということを嫌というほどに思い知らされる。
どんなに急いでも追いつけない。焦れば焦るほど、リヴァイ兵長は遠くへ行ってしまう。
そしてまた、遠くでリヴァイ兵長が巨人を討伐したのが分かった。
リヴァイ兵長の巨人討伐スキルは、世界のすべてがそういうように他のベテラン調査兵の比にはならないほどに群を抜いていた。
その姿はまるで踊ってるみたいで、美しい弧を描き、一瞬で巨人を討伐するのだ。
リヴァイ兵長の巨人討伐スキルを身に着けられれば―そう思ってその動きを必死に観察しているのだけれど、目にもとまらぬ速さで巨人を討伐してしまうからうまく真似できずにいる。
今回の壁外任務の目的が入団テストだけではないことは、ハンジさんやナナバさん達から聞いている。
彼らには、しっかりリヴァイ兵長の動きを学ぶようにと言われている。
だからこそ、必死にリヴァイ兵長に食らいつこうとしているのだが、立体起動装置の操作も人並外れていて、追いつくことすら出来ない。
このままではこの辺の巨人はすべてリヴァイ兵長に駆逐尽くされてしまう。
ここで私は最低5体の巨人を倒さないといけないのに、まだ3体しか倒せていない。
必死に追いかけていると、リヴァイ兵長が少しスピードを落とした。
そして、やっと隣に並んだ私に向かって口を開いた。
「右から1体くる。お前はソイツを倒せ。
おれは左の2体をやる。」
返事をする暇も余裕もない私を残して、リヴァイ兵長は2体の巨人のもとへ飛んで行ってしまった。
まさか、入団テストで1人残されるとは思ってなかったが、やるしかない―。
覚悟を決めてアンカーを巨人のうなじに向けて飛ばした。
リヴァイ兵長はどうやって巨人を倒していたか。それを自分がやっている姿をイメージする。
勢いよく、深く切り込む。刃が浅いとまたすぐに傷が塞がってしまう。
飛び上がったのは巨人の頭上。巨人は私の存在に気づいてすらいない。チャンスだ。
このまま急降下してうなじを一気に・・・削ぐ!
「ぐぅ…っ!」
巨人はくぐもった声を出したあと、そのまま前のめりに倒れていった。
これで4体目。あと1体で入団テストに合格できる。
私はアンカーを飛ばして、近くの建物の上に飛び乗った。
リヴァイ兵長の行った方を見ると、既に2体の巨人の討伐は終わっているようで、すぐに私のもとへやってきた。
「よくやった。あと1体やったら、すぐ帰還する。」
「はい!」
巨人のいない壁の中に帰還できることよりも、リヴァイ兵長に褒められたことが嬉しかった。
入団テストの合格を確信できたからか、そんなことしそうにない上官に褒められたからなのか。
きっとそのどちらもだろう。
素直に返事をした私に、意外だという顔をしたリヴァイ兵長は、次の獲物のもとへとさっさと向かってしまった。
次の獲物はすぐに現れた。
7m級の巨人だ。自らやられにこちらに向かって歩いてきてくれている。
「おれは補佐もしねぇ。1人でやってみろ。」
「…はいっ!」
私はまず、アンカーを近くの建物に伸ばして巨人に近づいた。
こちらに気づいている巨人は、さっきのように気づいていない巨人より当然危険だ。
後ろからこっそりうなじを削ぐことは出来ないし、一歩間違えばあの大きな手に捕まってしまう。
巨人の目が私1人を捉えたことを合図に、私は巨人のうなじにアンカーを飛ばした。
飛び上がる私を大きな腕が追いかけてくる。
それを立体起動装置をうまく利用して避ける。
そして、巨人の腕が下に降りたのを確認して、一気にワイヤーを巻き取りうなじへと超硬質スチールを振り下ろした。
うまくいった。倒した。
そして私は、空へ上がる蒸気の向こうにもう1体巨人がいることに気づいた。
6体倒したら、リヴァイ兵長は驚くだろうか。
驚いた後、よくやったと褒めているリヴァイ兵長の顔を想像したら自然と笑みがこぼれた。
ハンジさんやナナバさん達も私が想像以上の働きをしたらきっと喜んでくれる。
自分ならいける―自信があった。
「おい、どこへ行く!ソイツは…!」
リヴァイ兵長が後ろから呼び止めようとしている声は聞こえていた。
でも、敢えて止まらなかった。
自分が巨人に食べられているイメージなんて全くなかった。
たぶん、私は、初めて巨人に向けてアンカーを飛ばしたあの日からずっと、まさか自分が巨人に食べられるなんて想像もしていなかったのだと思う。
巨人が飛ばした大きな岩にヒルラは潰されたのに、トロスト区での兵士達の作戦でもたくさんの人が巨人に捕食されているのを見たのに、私はずっと心のどこかで、それを他人事だと思っていたのだろう。
だから、思わぬ動きをしたその巨人が奇行種だということに気づいて、慌ててアンカーを他の方へ飛ばそうとしたせいでバランスを崩したときも、これからどうなるのかなんて分かっていなかったように思う。
「なまえ!!」
リヴァイ兵長が私の名前を叫ぶ声がした。
でも、その姿は見えなかった。
だって、私に見えたのは、おぞましい笑顔を浮かべる巨人と今まさに私を捕まえようとしている大きな手だったから―。
あっという間に大きな手で握られた私は、おぞましい笑顔と対峙して初めて、自分も巨人に食べられる側の人間だということを理解した。
(いや…、いやだ…。死にたくない…。怖い。)
心の中では必死にそう言っているのに、恐怖で声にならない。
こんな事態も想定して、ナナバさんとゲルガーさんが逃げ方を教えてくれたはずだ。
どんな技術よりも懇切丁寧に、時間をかけて、私は教えてもらったはずだった。
でも、頭が真っ白になって思い出せない。
そもそも、身体が硬直して動かない。
「ソイツを放しやがれ、クソ野郎。」
巨人のおぞましい顔の後ろにリヴァイ兵長の姿が飛び上がってきたのが見えた。
そして、あっという間にうなじを削がれて絶命した巨人が私を放した。
立体起動装置でどこかへ飛び移らないとこのままだと地面に叩きつけられる。
頭の中ではそれを理解していても、恐怖に支配された心と身体は重力のされるがまま落下していく。
そんな私の役立たずな身体をリヴァイ兵長が受け止めてくれた。
そして、そのまま止まることなく飛び続けて、トロスト区の壁上へと降り立った。
地獄の入口を見て絶望する私に、リヴァイ兵長は何も言わない。
立ち上がることもままならない私を、リヴァイ兵長はただただ包み込んでくれていた。
そして、私は、リヴァイ兵長の身体に必死にしがみついていた。ギュッとギュッと抱きしめた。
リヴァイ兵長の腕の温もり。それだけが、その時の私にとって唯一証明できる“生”だったから。
私達人類は、ここが開くことはもうないと考えている。
超大型巨人の力をもってしても、恐らくこの大岩を蹴り上げることは出来ないだろうから。
でも、知性のない巨人がそんなことを理解しているわけがなく、トロスト区の壁外近くにはまだ数体の巨人がいて、次に扉が開くのを今か今かと待っているように見えた。
「遅い。速く動けねぇとすぐに巨人の胃袋の中だぞ。」
「はいっ!」
腕を伸ばして、ガスの風圧に耐えながらアンカーを出来るだけ遠くへ飛ばす。
あっという間に遥か先に行ってしまうリヴァイ兵長を必死に追いかけた。
前回の壁外任務のとき、ハンジさん達が私のスピードに合わせてくれていたのだということを嫌というほどに思い知らされる。
どんなに急いでも追いつけない。焦れば焦るほど、リヴァイ兵長は遠くへ行ってしまう。
そしてまた、遠くでリヴァイ兵長が巨人を討伐したのが分かった。
リヴァイ兵長の巨人討伐スキルは、世界のすべてがそういうように他のベテラン調査兵の比にはならないほどに群を抜いていた。
その姿はまるで踊ってるみたいで、美しい弧を描き、一瞬で巨人を討伐するのだ。
リヴァイ兵長の巨人討伐スキルを身に着けられれば―そう思ってその動きを必死に観察しているのだけれど、目にもとまらぬ速さで巨人を討伐してしまうからうまく真似できずにいる。
今回の壁外任務の目的が入団テストだけではないことは、ハンジさんやナナバさん達から聞いている。
彼らには、しっかりリヴァイ兵長の動きを学ぶようにと言われている。
だからこそ、必死にリヴァイ兵長に食らいつこうとしているのだが、立体起動装置の操作も人並外れていて、追いつくことすら出来ない。
このままではこの辺の巨人はすべてリヴァイ兵長に駆逐尽くされてしまう。
ここで私は最低5体の巨人を倒さないといけないのに、まだ3体しか倒せていない。
必死に追いかけていると、リヴァイ兵長が少しスピードを落とした。
そして、やっと隣に並んだ私に向かって口を開いた。
「右から1体くる。お前はソイツを倒せ。
おれは左の2体をやる。」
返事をする暇も余裕もない私を残して、リヴァイ兵長は2体の巨人のもとへ飛んで行ってしまった。
まさか、入団テストで1人残されるとは思ってなかったが、やるしかない―。
覚悟を決めてアンカーを巨人のうなじに向けて飛ばした。
リヴァイ兵長はどうやって巨人を倒していたか。それを自分がやっている姿をイメージする。
勢いよく、深く切り込む。刃が浅いとまたすぐに傷が塞がってしまう。
飛び上がったのは巨人の頭上。巨人は私の存在に気づいてすらいない。チャンスだ。
このまま急降下してうなじを一気に・・・削ぐ!
「ぐぅ…っ!」
巨人はくぐもった声を出したあと、そのまま前のめりに倒れていった。
これで4体目。あと1体で入団テストに合格できる。
私はアンカーを飛ばして、近くの建物の上に飛び乗った。
リヴァイ兵長の行った方を見ると、既に2体の巨人の討伐は終わっているようで、すぐに私のもとへやってきた。
「よくやった。あと1体やったら、すぐ帰還する。」
「はい!」
巨人のいない壁の中に帰還できることよりも、リヴァイ兵長に褒められたことが嬉しかった。
入団テストの合格を確信できたからか、そんなことしそうにない上官に褒められたからなのか。
きっとそのどちらもだろう。
素直に返事をした私に、意外だという顔をしたリヴァイ兵長は、次の獲物のもとへとさっさと向かってしまった。
次の獲物はすぐに現れた。
7m級の巨人だ。自らやられにこちらに向かって歩いてきてくれている。
「おれは補佐もしねぇ。1人でやってみろ。」
「…はいっ!」
私はまず、アンカーを近くの建物に伸ばして巨人に近づいた。
こちらに気づいている巨人は、さっきのように気づいていない巨人より当然危険だ。
後ろからこっそりうなじを削ぐことは出来ないし、一歩間違えばあの大きな手に捕まってしまう。
巨人の目が私1人を捉えたことを合図に、私は巨人のうなじにアンカーを飛ばした。
飛び上がる私を大きな腕が追いかけてくる。
それを立体起動装置をうまく利用して避ける。
そして、巨人の腕が下に降りたのを確認して、一気にワイヤーを巻き取りうなじへと超硬質スチールを振り下ろした。
うまくいった。倒した。
そして私は、空へ上がる蒸気の向こうにもう1体巨人がいることに気づいた。
6体倒したら、リヴァイ兵長は驚くだろうか。
驚いた後、よくやったと褒めているリヴァイ兵長の顔を想像したら自然と笑みがこぼれた。
ハンジさんやナナバさん達も私が想像以上の働きをしたらきっと喜んでくれる。
自分ならいける―自信があった。
「おい、どこへ行く!ソイツは…!」
リヴァイ兵長が後ろから呼び止めようとしている声は聞こえていた。
でも、敢えて止まらなかった。
自分が巨人に食べられているイメージなんて全くなかった。
たぶん、私は、初めて巨人に向けてアンカーを飛ばしたあの日からずっと、まさか自分が巨人に食べられるなんて想像もしていなかったのだと思う。
巨人が飛ばした大きな岩にヒルラは潰されたのに、トロスト区での兵士達の作戦でもたくさんの人が巨人に捕食されているのを見たのに、私はずっと心のどこかで、それを他人事だと思っていたのだろう。
だから、思わぬ動きをしたその巨人が奇行種だということに気づいて、慌ててアンカーを他の方へ飛ばそうとしたせいでバランスを崩したときも、これからどうなるのかなんて分かっていなかったように思う。
「なまえ!!」
リヴァイ兵長が私の名前を叫ぶ声がした。
でも、その姿は見えなかった。
だって、私に見えたのは、おぞましい笑顔を浮かべる巨人と今まさに私を捕まえようとしている大きな手だったから―。
あっという間に大きな手で握られた私は、おぞましい笑顔と対峙して初めて、自分も巨人に食べられる側の人間だということを理解した。
(いや…、いやだ…。死にたくない…。怖い。)
心の中では必死にそう言っているのに、恐怖で声にならない。
こんな事態も想定して、ナナバさんとゲルガーさんが逃げ方を教えてくれたはずだ。
どんな技術よりも懇切丁寧に、時間をかけて、私は教えてもらったはずだった。
でも、頭が真っ白になって思い出せない。
そもそも、身体が硬直して動かない。
「ソイツを放しやがれ、クソ野郎。」
巨人のおぞましい顔の後ろにリヴァイ兵長の姿が飛び上がってきたのが見えた。
そして、あっという間にうなじを削がれて絶命した巨人が私を放した。
立体起動装置でどこかへ飛び移らないとこのままだと地面に叩きつけられる。
頭の中ではそれを理解していても、恐怖に支配された心と身体は重力のされるがまま落下していく。
そんな私の役立たずな身体をリヴァイ兵長が受け止めてくれた。
そして、そのまま止まることなく飛び続けて、トロスト区の壁上へと降り立った。
地獄の入口を見て絶望する私に、リヴァイ兵長は何も言わない。
立ち上がることもままならない私を、リヴァイ兵長はただただ包み込んでくれていた。
そして、私は、リヴァイ兵長の身体に必死にしがみついていた。ギュッとギュッと抱きしめた。
リヴァイ兵長の腕の温もり。それだけが、その時の私にとって唯一証明できる“生”だったから。