◇第十三話◇紅茶
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こんな休日の過ごし方を望んだことなんて、いまだかつて一度もない。
これからだって絶対にないと誓う。
何が嬉しくて、人類最強の兵士と一緒に街に出て買い物に行かないといけないのだ。
リヴァイ兵長がなぜ私の部屋を訪れたのか、なぜ掃除をさせられたのかは、あの後、ハンジさんが教えてくれた。
掃除については、リヴァイ兵長の潔癖な性格故の不幸であり、運が悪かったと謝られた。
だが、それよりも私にとっての不幸は、リヴァイ兵長が私の部屋を訪れることになってしまった理由だ。
私の入団テストの日が決まったかららしい。
2週間後、次の壁外任務としてトロスト区周辺の巨人討伐を行うそうだ。
そして、その壁外任務での実績が私の入団テストになるということだった。
同行するのはリヴァイ兵長のみで、その壁外任務自体が入団テストのためだけに実行されるようだった。
時間内にあらかじめ決められている数の巨人を討伐すれば、すぐに帰還できるらしい。
その日までに、私はただひたすら体力をつける訓練を行い、壁外任務に備えることになる。
『君にはリヴァイとの交流を深めておいてほしいんだっ。』
何がそんなに楽しいのか、嬉しそうにそう言ったハンジさんを、私はぶん殴ればよかったのだろうか。
たぶん、リヴァイ兵長も同じ気持ちだったのだと思う。
ハンジさんの話を聞きながら、ずっと不服そうにしていたから。
次の壁外任務のパートナーであるリヴァイ兵長との信頼関係を少しでも築くことが、生きて帰ってくるためには必要だとハンジさんは言っていた。
だが、本当にそれだけが理由だとは思わない。
私の耳元で、誘惑して入団テストを合格にしてもらえばいいとか小声で言って、地獄耳のリヴァイ兵長に蹴りを入れられていたから。
とにかく、そんなハンジさんの愛と邪な気持ちが入り混じった指令によって、私はリヴァイ兵長の買い物に付き合わされているのだ。
今日は、紅茶を買いに行くらしい。
そういえば、紅茶がどうのと言っていた。あれは、今から紅茶を買いに行くと言っていたのかもしれない。
でも、きっとリヴァイ兵長も乗り気ではないのだろう。
とてもご立腹な様子で、不機嫌そうな顔をして隣を歩いている。
いや、この男の場合は四六時中こんな不機嫌そうな顔をしている気がする。
そういえば、初めてリヴァイ兵長の私服を見た。
黒いシャツに黒いパンツ姿。
おぞましい睨みを効かせる彼にお似合いの色のチョイスだ。
「人の顔をジロジロ見るんじゃねぇ。」
「ご、ごめんなさいっ。」
睨まれてしまったので、私は前を向いてあるくことだけに注視することにした。
久しぶりに歩くトロスト区は、私の知っている故郷の姿とはまるで違っていた。
私達が向かっているお店のある内門周辺はかろうじて街の様子を残しているが、外門のあたりは巨人に踏み荒らされて人の住めるような状態ではない。
今、駐屯兵団と元トロスト区の住人が一丸となって復興作業にあたっているが、元の姿を取り戻すのにはまだまだ時間がかかるだろう。
「どこ行ってんだ。ここだ。」
リヴァイ兵長に声を掛けられ足を止めた。
前だけを見て歩いていたから、お店を見過ごしていたらしい。
私を待つこともせずにさっさと店内に入ってしまうリヴァイ兵長の背中を追いかける。
「わぁ…!」
初めて入ったお店だった。
お洒落な店内。壁に沿うように置かれた棚には、所狭しと紅茶やコーヒーの袋が並べられていて、圧巻だ。
中央に置かれている棚には、まるで宝石でも飾るように瓶詰のコーヒー豆が並べられている。
たくさんあるが、全部種類が違うらしい。
こんなに素敵なお店だと知っていたのなら、もっと早く来たのに。巨人が来る前に―。
「いつものをくれ。」
「はいよ。おや?そこにいるのはリヴァイの女かい?」
「コイツはただの部下もどきだ。」
「なんだ、ようやく人類最強の兵士にも春が来たと思ったのによぉ。」
「くだらねぇこと言ってんじゃねぇ。」
「恋人連れなら、俺からの祝いで値引きしてやったんだがなぁ。」
「…そういうことは早く言え。」
ニヤニヤしている店主とリヴァイ兵長が何か話していたが、私は夢中で店内を見渡していた。
紅茶葉やコーヒー豆を入れた袋のラッピングが可愛くて、まるでお菓子の詰め合わせみたいでワクワクする。
「おい、帰るぞ。」
「え、ちょっと待ってください!もう少し見させてくださいっ。」
また私を置いて行こうとする冷たい背中を呼び止めると、リヴァイ兵長はこれでもかというほどに面倒くさそうな顔をして戻ってきた。
早く帰りたいとか文句のひとつでも言われるかと思ったが、つまらなそうに店内を歩き回りだしてくれたので、私も意外と広い店内の中をくまなく捜索し始める。
初めてくるお店は、なんだか宝探しみたいですごく楽しい。
アンティークな家具や装飾品に囲まれているこんな素敵なお店なら尚更だ。
少しすると店内を見回るのも飽きたらしいリヴァイ兵長は、店主と世間話を始めたようだった。
「紅茶やコーヒーが好きなのかい?」
店主が、突然私に話しかけてきた。
隣に立つリヴァイ兵長の目が、もう帰るぞ、と言っているから華麗にスルーしておいた。
「コーヒーは苦手なんですけど、紅茶は好きです。」
「へぇ、リヴァイと同じだな。」
「そうなんですか?」
「…てめぇには関係ねぇ。」
「つれねぇ男だなぁ。だから、モテねぇんだぞ。」
「うるせぇ。モテたことくらい…あるさ。」
絶対にないやつだったが、私も店主も敢えて何も言わなかった。
目を合わせて、吹き出しそうになる笑いを堪えはしたが。
リヴァイ兵長にうなじを削がれてしまいそうだったから。
「新しく出来た美人なお客様のために
ひとつ好きなものをプレゼントしてやるよ。」
気になった紅茶の葉いくつかとお洒落なコースターを選んでお会計をしてもらっていると、店主がとても嬉しいことを言ってくれた。
でも、好きなものをと言われても、気になる紅茶は今ここにあるものがすべてだし、本当は欲しかった可愛いティーカップは高過ぎて、おまけしてもらうのはさすがに気が引ける。
それに、もう店の外に出て、早くしろとプレッシャーをかけてくる人類最強の兵士を待たせるわけにはいかない。
「あの―。」
私の言葉に店主は驚いた顔をした後、なんだかとても楽しそうにプレゼントを用意してくれた。
これからだって絶対にないと誓う。
何が嬉しくて、人類最強の兵士と一緒に街に出て買い物に行かないといけないのだ。
リヴァイ兵長がなぜ私の部屋を訪れたのか、なぜ掃除をさせられたのかは、あの後、ハンジさんが教えてくれた。
掃除については、リヴァイ兵長の潔癖な性格故の不幸であり、運が悪かったと謝られた。
だが、それよりも私にとっての不幸は、リヴァイ兵長が私の部屋を訪れることになってしまった理由だ。
私の入団テストの日が決まったかららしい。
2週間後、次の壁外任務としてトロスト区周辺の巨人討伐を行うそうだ。
そして、その壁外任務での実績が私の入団テストになるということだった。
同行するのはリヴァイ兵長のみで、その壁外任務自体が入団テストのためだけに実行されるようだった。
時間内にあらかじめ決められている数の巨人を討伐すれば、すぐに帰還できるらしい。
その日までに、私はただひたすら体力をつける訓練を行い、壁外任務に備えることになる。
『君にはリヴァイとの交流を深めておいてほしいんだっ。』
何がそんなに楽しいのか、嬉しそうにそう言ったハンジさんを、私はぶん殴ればよかったのだろうか。
たぶん、リヴァイ兵長も同じ気持ちだったのだと思う。
ハンジさんの話を聞きながら、ずっと不服そうにしていたから。
次の壁外任務のパートナーであるリヴァイ兵長との信頼関係を少しでも築くことが、生きて帰ってくるためには必要だとハンジさんは言っていた。
だが、本当にそれだけが理由だとは思わない。
私の耳元で、誘惑して入団テストを合格にしてもらえばいいとか小声で言って、地獄耳のリヴァイ兵長に蹴りを入れられていたから。
とにかく、そんなハンジさんの愛と邪な気持ちが入り混じった指令によって、私はリヴァイ兵長の買い物に付き合わされているのだ。
今日は、紅茶を買いに行くらしい。
そういえば、紅茶がどうのと言っていた。あれは、今から紅茶を買いに行くと言っていたのかもしれない。
でも、きっとリヴァイ兵長も乗り気ではないのだろう。
とてもご立腹な様子で、不機嫌そうな顔をして隣を歩いている。
いや、この男の場合は四六時中こんな不機嫌そうな顔をしている気がする。
そういえば、初めてリヴァイ兵長の私服を見た。
黒いシャツに黒いパンツ姿。
おぞましい睨みを効かせる彼にお似合いの色のチョイスだ。
「人の顔をジロジロ見るんじゃねぇ。」
「ご、ごめんなさいっ。」
睨まれてしまったので、私は前を向いてあるくことだけに注視することにした。
久しぶりに歩くトロスト区は、私の知っている故郷の姿とはまるで違っていた。
私達が向かっているお店のある内門周辺はかろうじて街の様子を残しているが、外門のあたりは巨人に踏み荒らされて人の住めるような状態ではない。
今、駐屯兵団と元トロスト区の住人が一丸となって復興作業にあたっているが、元の姿を取り戻すのにはまだまだ時間がかかるだろう。
「どこ行ってんだ。ここだ。」
リヴァイ兵長に声を掛けられ足を止めた。
前だけを見て歩いていたから、お店を見過ごしていたらしい。
私を待つこともせずにさっさと店内に入ってしまうリヴァイ兵長の背中を追いかける。
「わぁ…!」
初めて入ったお店だった。
お洒落な店内。壁に沿うように置かれた棚には、所狭しと紅茶やコーヒーの袋が並べられていて、圧巻だ。
中央に置かれている棚には、まるで宝石でも飾るように瓶詰のコーヒー豆が並べられている。
たくさんあるが、全部種類が違うらしい。
こんなに素敵なお店だと知っていたのなら、もっと早く来たのに。巨人が来る前に―。
「いつものをくれ。」
「はいよ。おや?そこにいるのはリヴァイの女かい?」
「コイツはただの部下もどきだ。」
「なんだ、ようやく人類最強の兵士にも春が来たと思ったのによぉ。」
「くだらねぇこと言ってんじゃねぇ。」
「恋人連れなら、俺からの祝いで値引きしてやったんだがなぁ。」
「…そういうことは早く言え。」
ニヤニヤしている店主とリヴァイ兵長が何か話していたが、私は夢中で店内を見渡していた。
紅茶葉やコーヒー豆を入れた袋のラッピングが可愛くて、まるでお菓子の詰め合わせみたいでワクワクする。
「おい、帰るぞ。」
「え、ちょっと待ってください!もう少し見させてくださいっ。」
また私を置いて行こうとする冷たい背中を呼び止めると、リヴァイ兵長はこれでもかというほどに面倒くさそうな顔をして戻ってきた。
早く帰りたいとか文句のひとつでも言われるかと思ったが、つまらなそうに店内を歩き回りだしてくれたので、私も意外と広い店内の中をくまなく捜索し始める。
初めてくるお店は、なんだか宝探しみたいですごく楽しい。
アンティークな家具や装飾品に囲まれているこんな素敵なお店なら尚更だ。
少しすると店内を見回るのも飽きたらしいリヴァイ兵長は、店主と世間話を始めたようだった。
「紅茶やコーヒーが好きなのかい?」
店主が、突然私に話しかけてきた。
隣に立つリヴァイ兵長の目が、もう帰るぞ、と言っているから華麗にスルーしておいた。
「コーヒーは苦手なんですけど、紅茶は好きです。」
「へぇ、リヴァイと同じだな。」
「そうなんですか?」
「…てめぇには関係ねぇ。」
「つれねぇ男だなぁ。だから、モテねぇんだぞ。」
「うるせぇ。モテたことくらい…あるさ。」
絶対にないやつだったが、私も店主も敢えて何も言わなかった。
目を合わせて、吹き出しそうになる笑いを堪えはしたが。
リヴァイ兵長にうなじを削がれてしまいそうだったから。
「新しく出来た美人なお客様のために
ひとつ好きなものをプレゼントしてやるよ。」
気になった紅茶の葉いくつかとお洒落なコースターを選んでお会計をしてもらっていると、店主がとても嬉しいことを言ってくれた。
でも、好きなものをと言われても、気になる紅茶は今ここにあるものがすべてだし、本当は欲しかった可愛いティーカップは高過ぎて、おまけしてもらうのはさすがに気が引ける。
それに、もう店の外に出て、早くしろとプレッシャーをかけてくる人類最強の兵士を待たせるわけにはいかない。
「あの―。」
私の言葉に店主は驚いた顔をした後、なんだかとても楽しそうにプレゼントを用意してくれた。