◇第十一話◇訓練
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「嘘だろ…。」
目の前の光景を、ハンジはどうしても信じられなかった。
自分の目がおかしくなったのかと思って、眼鏡を外して、何度も目をこすった。
目玉が使い物にならなくなったのかと思って、目玉ごと外そうとしたらモブリットに止められてしまったけど、とにかく、それくらいに、信じられなかった。
目の前の信じられない光景を誰か説明してくれ。
どうして、どうしてこんなに―。
「…確かに、逸材だ。おれぁ、こんなに立体起動装置の使い方が下手なヤツを今まで一度も見たことがない。」
「私もだよ、ゲルガー。」
「おいっ!お前が言うのかよ!」
ゲルガーのツッコみはハンジの耳をすり抜けた。
そして、考えた。
どうして、こんな―。
こんなになまえが立体起動装置の扱いが下手なのか。下手になってしまっているのか。
なまえは今も、すぐそこにある木にアンカーを刺して太い枝に飛びうつるだけの動作も出来ずにいる。
飛ばしたアンカーはあらぬ方向へ向かい、最終的に指導してくれているナナバに刺さりそうになって怒鳴られている。
いつでも冷静で温厚なあのナナバが、怒鳴っている。しかも、顔を真っ赤にして、めっちゃ怒ってる。
「これはどういうことでしょう。」
あの日、一緒になまえの戦闘を見ていたモブリットもただただ呆然としていた。
「調査兵団の入団テストに落ちたくて手を抜いているんでしょうか?」
「それならまだマシなんだけどね。」
もしそうだとすれば、しっかりしないと家族をまた外地に戻すぞと脅せば済む話だ。
なまえには悪いが、そういう筋書きも頭に入れた上で、今日、なまえの家族の内地移住計画を進めてきたところだ。
速やかに、という彼女の希望を叶えるため、今日と明日で引っ越し準備を済ませ、明後日には内地移住が完了していることになっている。
だから、もしも彼女が入団テストを落ちたいがために手を抜いているのならば、家族の内地移住計画を即刻中止にすると言えば、とりあえずの解決は出来るだろう。
だが、どう見ても、彼女は大真面目だ。
大真面目に訓練を受けて、大真面目にありえないミスを連発している。
基礎がなっていないどころではない。
そもそもの素質がない。それも、天才的に。
「ゲルガー、チャンジ!!もう、やってられない!!」
「はい、はい。了解。
じゃ、今からおれの相棒にこってり怒られてくださいよ、ハンジ分隊長。」
「え…!?」
「ちょっと!ハンジ!!」
ブチ切れているナナバが怒りながらやってきた。
普段温厚な人間ほど怒ると怖いとはよく言ったものだ。
その通りだ。
今のハンジには、巨人よりも怒りモードのナナバの方が怖い。怖い。
「あの子、何なの!?逸材だから、訓練なんて基本を叩きこめば、
あとは、生きて帰るってことを教えてやればいいって、言わなかったっけ?
そう言わなかったっけ!!!!」
「…言いました。」
「そもそもハンジはいつも―。」
すごい剣幕のナナバの怒りを右から左に聞き流しながら、ハンジはどうしてこんなことになったのか頭を巡らせる。
あのときのなまえには希望が見えた。なのに、今のなまえには絶望しかない。
何が違う。あのときの彼女にあって、今の彼女にはないもの―。
「なまえ!!ちょっとこっちにきて私と話をしないかい?」
ハンジが名前を呼ぶと、今まさにアンカーでゲルガーを殺そうとしていたなまえの動きが止まった。
命拾いをしたゲルガーに許可をもらいやってくるなまえも絶望した顔をしている。
こんなに下手くそだとは、本人も想像だにしていなかったのだろう。
「お疲れ様。君のご家族の引っ越しの準備を進めてきたよ。」
「…あの、本当にごめんなさい。」
なまえはこっちが可哀想になるほどに申し訳なさそうに頭を下げた。
ハンジが気にしなくていいからと頭を上げるように言っても、彼女は頭を上げようとはしない。
入団テストに合格できる自信がなくなったのだろう。
でも、彼女には何としてでも入団テストに合格してもらわないと困る。
ナナバだけではなく、エルヴィンにもピクシス司令にも怒られるのはハンジなのだ。
それに、あのときの彼女の力をもう一度発揮できれば、必ず調査兵団の役に立つはずなのだ。
何より―。
「頭を上げてくれよ…。」
震える背中は、それでも頭を上げてくれそうにない。
さっきまで怒っていたナナバでさえも、不憫そうに彼女を見下ろしている。
何よりハンジは、家族のために必死に大嫌いな相手に頭を下げる彼女の気持ちに応えてあげたい。
「大切な話があるんだ。だから、顔を上げてほしい。」
「…はい。」
なまえがゆっくりと顔を上げた。
今にも泣きだしそうな弱弱しい表情は、昨日までの彼女とは別人のようで胸が痛んだ。
だって、ハンジはこれから、彼女がもう二度と思い出したくないと思っているだろうあの日のことを思い出させようとしているのだから。
「あの日、君の戦い方は一貫しているように見えた。
そもそも、君は兵士の戦い方なんて知らないはずだろう?
どうして、巨人のうなじを削ぐことが出来たんだい?」
「うなじを削ぐ?」
なまえが不思議そうに首を傾げる。
やっぱりだ。彼女は巨人がどうやったら死ぬのかを知らないのだ。
知らずに、百発百中で巨人を討伐していたのだ。
「は?彼女が巨人のうなじを削いだっていうのかい?
嘘だろ?」
「おいおい、ハンジ、そんな冗談はやめてくれよ。
確かに美人だからそばに置いておきたい気持ちもわかるが、
なまえは巨人のうなじを削ぐどころか、踏み潰されて終わりだ。」
今のなまえしか知らないナナバとゲルガーがそう思うのも当然だろう。
でも、なまえは確かに巨人を討伐していた。
そこら辺の駐屯兵団なんかよりも多くの巨人を駆逐したのだ。
あの日の巨人掃討作戦にて、彼女の功績は褒めることは出来ても、貶すことなんて誰にも出来ない。
「あの…、言ってる意味がわからないです。
うなじがどうしたんですか?」
「ほら、この子は巨人の急所すら知らないんだよ。
そんな子に巨人の討伐なんて―。」
「黙っててくれ、ナナバ。」
ハンジに制止され、不服そうなナナバだったが、ゲルガーも含め、2人がこれ以上口を挟むことはなかった。
だから、ハンジはあの日からずっと気になっていたことを訊ねてみた。
「あの戦い方は、誰に習ったんだい?」
巨人の急所すら知らない彼女が、巨人を討伐できるはずがない。
それならば、誰かに習ったとしか思えなかった。
目の前の光景を、ハンジはどうしても信じられなかった。
自分の目がおかしくなったのかと思って、眼鏡を外して、何度も目をこすった。
目玉が使い物にならなくなったのかと思って、目玉ごと外そうとしたらモブリットに止められてしまったけど、とにかく、それくらいに、信じられなかった。
目の前の信じられない光景を誰か説明してくれ。
どうして、どうしてこんなに―。
「…確かに、逸材だ。おれぁ、こんなに立体起動装置の使い方が下手なヤツを今まで一度も見たことがない。」
「私もだよ、ゲルガー。」
「おいっ!お前が言うのかよ!」
ゲルガーのツッコみはハンジの耳をすり抜けた。
そして、考えた。
どうして、こんな―。
こんなになまえが立体起動装置の扱いが下手なのか。下手になってしまっているのか。
なまえは今も、すぐそこにある木にアンカーを刺して太い枝に飛びうつるだけの動作も出来ずにいる。
飛ばしたアンカーはあらぬ方向へ向かい、最終的に指導してくれているナナバに刺さりそうになって怒鳴られている。
いつでも冷静で温厚なあのナナバが、怒鳴っている。しかも、顔を真っ赤にして、めっちゃ怒ってる。
「これはどういうことでしょう。」
あの日、一緒になまえの戦闘を見ていたモブリットもただただ呆然としていた。
「調査兵団の入団テストに落ちたくて手を抜いているんでしょうか?」
「それならまだマシなんだけどね。」
もしそうだとすれば、しっかりしないと家族をまた外地に戻すぞと脅せば済む話だ。
なまえには悪いが、そういう筋書きも頭に入れた上で、今日、なまえの家族の内地移住計画を進めてきたところだ。
速やかに、という彼女の希望を叶えるため、今日と明日で引っ越し準備を済ませ、明後日には内地移住が完了していることになっている。
だから、もしも彼女が入団テストを落ちたいがために手を抜いているのならば、家族の内地移住計画を即刻中止にすると言えば、とりあえずの解決は出来るだろう。
だが、どう見ても、彼女は大真面目だ。
大真面目に訓練を受けて、大真面目にありえないミスを連発している。
基礎がなっていないどころではない。
そもそもの素質がない。それも、天才的に。
「ゲルガー、チャンジ!!もう、やってられない!!」
「はい、はい。了解。
じゃ、今からおれの相棒にこってり怒られてくださいよ、ハンジ分隊長。」
「え…!?」
「ちょっと!ハンジ!!」
ブチ切れているナナバが怒りながらやってきた。
普段温厚な人間ほど怒ると怖いとはよく言ったものだ。
その通りだ。
今のハンジには、巨人よりも怒りモードのナナバの方が怖い。怖い。
「あの子、何なの!?逸材だから、訓練なんて基本を叩きこめば、
あとは、生きて帰るってことを教えてやればいいって、言わなかったっけ?
そう言わなかったっけ!!!!」
「…言いました。」
「そもそもハンジはいつも―。」
すごい剣幕のナナバの怒りを右から左に聞き流しながら、ハンジはどうしてこんなことになったのか頭を巡らせる。
あのときのなまえには希望が見えた。なのに、今のなまえには絶望しかない。
何が違う。あのときの彼女にあって、今の彼女にはないもの―。
「なまえ!!ちょっとこっちにきて私と話をしないかい?」
ハンジが名前を呼ぶと、今まさにアンカーでゲルガーを殺そうとしていたなまえの動きが止まった。
命拾いをしたゲルガーに許可をもらいやってくるなまえも絶望した顔をしている。
こんなに下手くそだとは、本人も想像だにしていなかったのだろう。
「お疲れ様。君のご家族の引っ越しの準備を進めてきたよ。」
「…あの、本当にごめんなさい。」
なまえはこっちが可哀想になるほどに申し訳なさそうに頭を下げた。
ハンジが気にしなくていいからと頭を上げるように言っても、彼女は頭を上げようとはしない。
入団テストに合格できる自信がなくなったのだろう。
でも、彼女には何としてでも入団テストに合格してもらわないと困る。
ナナバだけではなく、エルヴィンにもピクシス司令にも怒られるのはハンジなのだ。
それに、あのときの彼女の力をもう一度発揮できれば、必ず調査兵団の役に立つはずなのだ。
何より―。
「頭を上げてくれよ…。」
震える背中は、それでも頭を上げてくれそうにない。
さっきまで怒っていたナナバでさえも、不憫そうに彼女を見下ろしている。
何よりハンジは、家族のために必死に大嫌いな相手に頭を下げる彼女の気持ちに応えてあげたい。
「大切な話があるんだ。だから、顔を上げてほしい。」
「…はい。」
なまえがゆっくりと顔を上げた。
今にも泣きだしそうな弱弱しい表情は、昨日までの彼女とは別人のようで胸が痛んだ。
だって、ハンジはこれから、彼女がもう二度と思い出したくないと思っているだろうあの日のことを思い出させようとしているのだから。
「あの日、君の戦い方は一貫しているように見えた。
そもそも、君は兵士の戦い方なんて知らないはずだろう?
どうして、巨人のうなじを削ぐことが出来たんだい?」
「うなじを削ぐ?」
なまえが不思議そうに首を傾げる。
やっぱりだ。彼女は巨人がどうやったら死ぬのかを知らないのだ。
知らずに、百発百中で巨人を討伐していたのだ。
「は?彼女が巨人のうなじを削いだっていうのかい?
嘘だろ?」
「おいおい、ハンジ、そんな冗談はやめてくれよ。
確かに美人だからそばに置いておきたい気持ちもわかるが、
なまえは巨人のうなじを削ぐどころか、踏み潰されて終わりだ。」
今のなまえしか知らないナナバとゲルガーがそう思うのも当然だろう。
でも、なまえは確かに巨人を討伐していた。
そこら辺の駐屯兵団なんかよりも多くの巨人を駆逐したのだ。
あの日の巨人掃討作戦にて、彼女の功績は褒めることは出来ても、貶すことなんて誰にも出来ない。
「あの…、言ってる意味がわからないです。
うなじがどうしたんですか?」
「ほら、この子は巨人の急所すら知らないんだよ。
そんな子に巨人の討伐なんて―。」
「黙っててくれ、ナナバ。」
ハンジに制止され、不服そうなナナバだったが、ゲルガーも含め、2人がこれ以上口を挟むことはなかった。
だから、ハンジはあの日からずっと気になっていたことを訊ねてみた。
「あの戦い方は、誰に習ったんだい?」
巨人の急所すら知らない彼女が、巨人を討伐できるはずがない。
それならば、誰かに習ったとしか思えなかった。