◇第百話◇アイツが彼女を愛したワケ
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ストヘス区への出向を待たずして、憲兵が走らせた文書によって、リヴァイの兵士としての命が長らえることが決定した。
突如として、手のひらを返したようなあの新聞記事のおかげだ。
あれから、次々に出された後追い記事も、リヴァイの英雄ぶりを称えるものばかりで、今では以前以上に、リヴァイへの世間の目は熱い期待と希望に満ちている。
それは、調査兵団組織に対しても同じことが言えた。
資金援助をしたいと申し出てきた貴族も多くいて、珍しく調査兵団の懐事情が潤っているという、嬉しい非常事態中だ。
それもこれも、なまえがハンジと一緒にストヘス区の両親の元へ会いに行ったあの日からだー。
「ーということでしたので、交通費はかかりますが、
ウォール・ローゼまで立体起動装置の部品を買い付けに行く方が
最終的には経済的だという判断を致しました。」
一任していた立体起動装置の修理についての書類を提出するために、エルヴィンの執務室兼自室を訪れたなまえは、新しい予算案を提案した。
以前の職場である立体起動装置等の修理請負業者の先輩からアドバイスを貰い、調査兵団から出るお金を少しでも壁外調査の方へ回せるようにと頑張ってくれていたようだ。
なまえから書類も受け取り、簡単に確認をする。
元々事務の仕事をしていただけあって、なまえが作る書類は読みやすく、リヴァイやハンジが書類仕事を彼女に押し付けたくなるのも頷ける。
書類に問題はないこと、予算案を検討することをエルヴィンが告げれば、なまえはホッと息を吐いた。
「待て、君に聞きたいことがある。」
部屋を出て行こうとするなまえを引き留めた。
不思議そうになまえが首を傾げる。
少し前から、兵舎内はリヴァイとなまえの話題で持ち切りだ。
ついに、人類最強の兵士と調査兵団のじゃじゃ馬姫が恋人同士になったーそんな噂は兵舎内を光の速度で駆け巡り、団長であるエルヴィンの耳にも、ウキウキと瞳を輝かせるハンジ経由ですぐに届いた。
でも、漸くかーというのがエルヴィンの正直な感想だった。
リヴァイが命を懸けてなまえの命を守り、自分を犠牲にしてなまえの心まで守ろうとしていたとき、彼らが恋人同士になってくれたのは、とても有難かった。
リヴァイに対する、親心のようなものかもしれない。
これで、きっと、なまえがリヴァイを支えてくれるーと。
でも、もしかしてー。
「君がハンジとご両親の元へ帰った翌日だったな、
リヴァイに対する世間の目が変わったのは。」
「はいっ、兵舎に戻ってきたら、新聞に英雄の勇姿が載ってて
すごく嬉しかったですっ。」
エルヴィンの言葉の裏なんて読もうともせず、なまえは屈託のない笑顔を見せた。
巨人を前にして、凛々しく立つ精鋭兵の面影はそこにはない。
とても無邪気で、無垢で、それでも、幼い少女に見えるわけでもない。
彼女を綺麗な女にしているのは、他の誰でもなく、リヴァイなのだろう。
「君は一体、何をした。」
エルヴィンは、真っすぐになまえの瞳を見つめる。
彼女は、嘘を吐くのがとても下手だ。
それは、優しすぎる彼女の性格故、だろう。
だから、嘘を見抜く自信なら、あったのにー。
「私は、リヴァイ兵長の好きなように守られてるだけですよ。」
なまえの微笑に、思わずドキリとした。
知らない女を、前にしたようだった。
いや、きっと、リヴァイの前にいるなまえの姿なのだろう。
美しいけれど、美しいだけじゃない。
ただ、なまえがとても綺麗に見えた。
外見だけではなくて、内からくる美しさが、彼女を綺麗にしているようでー。
女の、強さを見たーということなのだろうか。
ふと、そんな思いが頭を過る。
『そばにいて、ただアイツの好きなように君を守らせてやってくれ。
男ってのは、それだけで、自分の価値を見出せる単純な生き物だ。』
以前、自分がなまえに言った言葉が蘇る。
(あぁ、そうか…。)
なまえは何も語ることはないだろうし、自分はこれ以上、真実を探るべきではない。
どんなに男がジタバタ足掻いたところで、愛という矢を心臓にさして微笑む女には敵わないのだからー。
「人類最強の兵士を掌の上で転がす女性が現れるとは
想像もしていなかったよ。」
苦笑するエルヴィンに、なまえは、猛スピードで転がされて目がまわっているのは自分の方だと抗議を始めた。
本当に不思議な女だ。
初めて会ったときから、それは変わらない。
でも、調査兵団の兵士として、様々な経験を経て強くなっていく彼女の姿はとても興味深かった。
ただ、義理人情も厚く、仲間想いではありながらも、どこか人との間に壁を作り続けていたリヴァイが、命も立場も捨てても構わないと思うほどになまえに深入りする理由が正直分からなかった。
確かに美人だ。
王都の親族である大貴族で、容姿端麗、頭脳明晰で、貴族の女性達から引く手あまたの男が、犯罪に手を染めてでも欲しがるのも分かるくらいにー。
でも、リヴァイは容姿で女を好きになるような男ではない。
だからきっと、彼女には何か、リヴァイだけが見えている魅力があるのだろう。
それだけは、分かっていたつもりだったのだけれどー。
「リヴァイが君に惚れた理由が分かったよ。」
幼少の頃から、リヴァイは愛に飢えていた。
それを埋めるように、必死に、強さを手に入れてきた。
愛がなくても、生きていけるように。
そうして、何があっても腐ることなく、膝をつくこともなく、立ち止まることもなく、ただただ強く走り続けたリヴァイの周りには、自然と仲間が集まった。
それでもきっと、リヴァイは愛に飢えていた。
渇いた大地が、恵みの雨を求めるようにー。
そこへ現れたのが、愛に包まれて育ち、自らも大きな愛を自然と振りまくなまえだったのだろう。
他人が躊躇うようなことも、彼女は愛を持って、優しさに変えて包み込んできた。
それがいつか、リヴァイの渇いた大地を潤し、なまえの愛という雨なしでは生きていけなくさせたのかもしれない。
「…可愛いからですかね?」
眉を下げ、斜め上を見上げ、90度ほど首を傾げ、漸く、なまえはとぼけた答えを捻りだす。
思わずクスリと笑えば、照れ臭そうに頬を染めたなまえに反論される。
「女性に失礼ですよっ!そこは嘘でも、そうだね、くらい言ってくださいよっ。
それに、ちょっとくらいは可愛いと思うんですけど!
…自分で思うくらいいいじゃないですか!」
「そういうことは、リヴァイに言ってもらいなさい。」
「…空と大地が逆さまになっても、
リヴァイ兵長からそんな甘いセリフは出てこないと思います。」
それもそうだな、とは思う。
でもきっと、リヴァイは誰よりもなまえのことを可愛らしいと思っているはずだ。
不意に、頬を染めて甘いセリフを吐くリヴァイを想像してしまったエルヴィンは、笑いそうになった口元を手で隠した。
突如として、手のひらを返したようなあの新聞記事のおかげだ。
あれから、次々に出された後追い記事も、リヴァイの英雄ぶりを称えるものばかりで、今では以前以上に、リヴァイへの世間の目は熱い期待と希望に満ちている。
それは、調査兵団組織に対しても同じことが言えた。
資金援助をしたいと申し出てきた貴族も多くいて、珍しく調査兵団の懐事情が潤っているという、嬉しい非常事態中だ。
それもこれも、なまえがハンジと一緒にストヘス区の両親の元へ会いに行ったあの日からだー。
「ーということでしたので、交通費はかかりますが、
ウォール・ローゼまで立体起動装置の部品を買い付けに行く方が
最終的には経済的だという判断を致しました。」
一任していた立体起動装置の修理についての書類を提出するために、エルヴィンの執務室兼自室を訪れたなまえは、新しい予算案を提案した。
以前の職場である立体起動装置等の修理請負業者の先輩からアドバイスを貰い、調査兵団から出るお金を少しでも壁外調査の方へ回せるようにと頑張ってくれていたようだ。
なまえから書類も受け取り、簡単に確認をする。
元々事務の仕事をしていただけあって、なまえが作る書類は読みやすく、リヴァイやハンジが書類仕事を彼女に押し付けたくなるのも頷ける。
書類に問題はないこと、予算案を検討することをエルヴィンが告げれば、なまえはホッと息を吐いた。
「待て、君に聞きたいことがある。」
部屋を出て行こうとするなまえを引き留めた。
不思議そうになまえが首を傾げる。
少し前から、兵舎内はリヴァイとなまえの話題で持ち切りだ。
ついに、人類最強の兵士と調査兵団のじゃじゃ馬姫が恋人同士になったーそんな噂は兵舎内を光の速度で駆け巡り、団長であるエルヴィンの耳にも、ウキウキと瞳を輝かせるハンジ経由ですぐに届いた。
でも、漸くかーというのがエルヴィンの正直な感想だった。
リヴァイが命を懸けてなまえの命を守り、自分を犠牲にしてなまえの心まで守ろうとしていたとき、彼らが恋人同士になってくれたのは、とても有難かった。
リヴァイに対する、親心のようなものかもしれない。
これで、きっと、なまえがリヴァイを支えてくれるーと。
でも、もしかしてー。
「君がハンジとご両親の元へ帰った翌日だったな、
リヴァイに対する世間の目が変わったのは。」
「はいっ、兵舎に戻ってきたら、新聞に英雄の勇姿が載ってて
すごく嬉しかったですっ。」
エルヴィンの言葉の裏なんて読もうともせず、なまえは屈託のない笑顔を見せた。
巨人を前にして、凛々しく立つ精鋭兵の面影はそこにはない。
とても無邪気で、無垢で、それでも、幼い少女に見えるわけでもない。
彼女を綺麗な女にしているのは、他の誰でもなく、リヴァイなのだろう。
「君は一体、何をした。」
エルヴィンは、真っすぐになまえの瞳を見つめる。
彼女は、嘘を吐くのがとても下手だ。
それは、優しすぎる彼女の性格故、だろう。
だから、嘘を見抜く自信なら、あったのにー。
「私は、リヴァイ兵長の好きなように守られてるだけですよ。」
なまえの微笑に、思わずドキリとした。
知らない女を、前にしたようだった。
いや、きっと、リヴァイの前にいるなまえの姿なのだろう。
美しいけれど、美しいだけじゃない。
ただ、なまえがとても綺麗に見えた。
外見だけではなくて、内からくる美しさが、彼女を綺麗にしているようでー。
女の、強さを見たーということなのだろうか。
ふと、そんな思いが頭を過る。
『そばにいて、ただアイツの好きなように君を守らせてやってくれ。
男ってのは、それだけで、自分の価値を見出せる単純な生き物だ。』
以前、自分がなまえに言った言葉が蘇る。
(あぁ、そうか…。)
なまえは何も語ることはないだろうし、自分はこれ以上、真実を探るべきではない。
どんなに男がジタバタ足掻いたところで、愛という矢を心臓にさして微笑む女には敵わないのだからー。
「人類最強の兵士を掌の上で転がす女性が現れるとは
想像もしていなかったよ。」
苦笑するエルヴィンに、なまえは、猛スピードで転がされて目がまわっているのは自分の方だと抗議を始めた。
本当に不思議な女だ。
初めて会ったときから、それは変わらない。
でも、調査兵団の兵士として、様々な経験を経て強くなっていく彼女の姿はとても興味深かった。
ただ、義理人情も厚く、仲間想いではありながらも、どこか人との間に壁を作り続けていたリヴァイが、命も立場も捨てても構わないと思うほどになまえに深入りする理由が正直分からなかった。
確かに美人だ。
王都の親族である大貴族で、容姿端麗、頭脳明晰で、貴族の女性達から引く手あまたの男が、犯罪に手を染めてでも欲しがるのも分かるくらいにー。
でも、リヴァイは容姿で女を好きになるような男ではない。
だからきっと、彼女には何か、リヴァイだけが見えている魅力があるのだろう。
それだけは、分かっていたつもりだったのだけれどー。
「リヴァイが君に惚れた理由が分かったよ。」
幼少の頃から、リヴァイは愛に飢えていた。
それを埋めるように、必死に、強さを手に入れてきた。
愛がなくても、生きていけるように。
そうして、何があっても腐ることなく、膝をつくこともなく、立ち止まることもなく、ただただ強く走り続けたリヴァイの周りには、自然と仲間が集まった。
それでもきっと、リヴァイは愛に飢えていた。
渇いた大地が、恵みの雨を求めるようにー。
そこへ現れたのが、愛に包まれて育ち、自らも大きな愛を自然と振りまくなまえだったのだろう。
他人が躊躇うようなことも、彼女は愛を持って、優しさに変えて包み込んできた。
それがいつか、リヴァイの渇いた大地を潤し、なまえの愛という雨なしでは生きていけなくさせたのかもしれない。
「…可愛いからですかね?」
眉を下げ、斜め上を見上げ、90度ほど首を傾げ、漸く、なまえはとぼけた答えを捻りだす。
思わずクスリと笑えば、照れ臭そうに頬を染めたなまえに反論される。
「女性に失礼ですよっ!そこは嘘でも、そうだね、くらい言ってくださいよっ。
それに、ちょっとくらいは可愛いと思うんですけど!
…自分で思うくらいいいじゃないですか!」
「そういうことは、リヴァイに言ってもらいなさい。」
「…空と大地が逆さまになっても、
リヴァイ兵長からそんな甘いセリフは出てこないと思います。」
それもそうだな、とは思う。
でもきっと、リヴァイは誰よりもなまえのことを可愛らしいと思っているはずだ。
不意に、頬を染めて甘いセリフを吐くリヴァイを想像してしまったエルヴィンは、笑いそうになった口元を手で隠した。