◇第九十八◇真相を握り潰すなら貴方のためだけに
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
なまえとハンジは、ウォール・ローゼで兵団服に着替えてから、迎えに来てくれたモブリットの馬車に乗り込んだ。
すっかり外は真っ暗になっていて、やはり予定通り、トロスト区の兵舎に着くのは明日の昼以降になりそうだ。
「1人でよく頑張ったね。」
ハンジが言うと、なまえはキョトンとした顔をした後、可笑しそうにクスクスと笑う。
「ハンジさん達がいたじゃないですか。
1人じゃないですよ。」
本気で言っている様子のなまえに、ハンジは苦笑いが出る。
策なら練った。調査兵団の団長にも内緒の、ハンジ班総出での極秘作戦ではある。
でも、たった1人で敵陣に乗り込んだなまえへの労いの言葉のつもりだったのだが、彼女には伝わらなかったようだ。
「本当にありがとうございました。
ハンジさんの睨んだ通り、ヴェスタープ伯爵の失脚はルーカスが何かしてたみたいで
すぐに信じてくれましたよ。」
「そりゃよかった。エルヴィンに鍛えられただけあって
私達もなかなかの博打打ちってわけだね。」
「そうかもしれないです。」
可笑しそうに言うなまえは、満足そうな笑みを浮かべている。
本当に大したものだ。
あのルーカスという男の執事は、本当に優秀だった。
ハンジの自慢のモブリットの力を持ってしても、証拠どころか、何を裏で操ったのかという話すら見つけることは出来なかった。
だからこそ、爆弾事件でもなまえを囮にするしかなかったくらいなのだ。
出来たのは、貴族界で最近起こった事件を調べることくらいだった。
そして、博打を打つしかなかった。
あそこで、ヴェスタープ伯爵の失脚の件が外れていた時の策も考えていたにしても、それがうまくいくとは限らない。
うまくいかなければ、なまえはきっと、もう二度と兵舎に戻ってくることは出来なかっただろう。
怖かったはずだ、すごく。不安だったはずだ、ものすごく。
でも、ハンジ班で真夜中に集まって、計画を立てているとき、彼女からそんな雰囲気が漏れたことは一度もなかった。
むしろ率先して、リスクは伴っても、成功報酬の大きな作戦をやりたがってー。
「でも、この作戦では真相は闇に葬られたままだ。
なまえは本当にそれでよかったの?」
「いいんです。ルーカスを捕まえることが出来るとも思えないし、
それに、私は、リヴァイ兵長の名誉と居場所さえ守れたらそれでいいから。
…最低ですよね。たくさんの人が死んだのに、私はリヴァイ兵長のことしか考えてない。」
窓の外を眺めるなまえは、ハンジに隠れて唇を噛んでいた。
でも、髪で隠した横顔が、悲しそうに震えているのに気づかないほど、上官として頼りにならないつもりもない。
ハンジは何も言わず、なまえの手をギュッと握った。
弱弱しく握り返してくるその手に、胸が締め付けられそうになる。
なまえを最低だとは思わない。
その作戦に乗ったハンジ班みんな、気持ちは同じだった。
選んだだけだ。自分の大切なものを、助けたい人を、後悔しない選択をしただけだ。
今、ここに、調査兵団の兵舎に初めて足を踏み入れ、不安に震えていたなまえはもういない。
選択することも出来ず、手当たり次第に助けようとしていた危なっかしいなまえもいない。
日々命を懸けた生活をしている調査兵団の兵士達に揉まれ、親友の死を乗り越え、確かになまえは強くなっていた。
それでも、どこか儚い印象は残したままだったのに、それすらももう彼女から消えつつある。
リヴァイの愛を得て、なまえは、リヴァイが想像しているよりもずっと、強くなっている。
でもー。
「本当に、リヴァイには言わなくてもよかったのかい?」
窓の外を眺め始めたなまえに、ハンジは訊ねる。
何度か、リヴァイも作戦に参加させようという案は出た。
それは、ハンジからも、モブリットからも、他のハンジ班のメンバーからも、全員からだ。
勝手に危険な作戦になまえを参加させたとリヴァイに知られたときのことを考えた恐怖心ももちろんあるのだけれど、なにより、なまえのためでもあった。
自分を殺そうとした男と対峙する作戦は、なまえを精神的に追い詰めただろう。
だからこそ、そこを支えるためにもリヴァイが一緒にいるのがいいと思ったのだ。
たとえば、王都のそばでリヴァイが待っているだけでもいい。
何かあったときに、駆けつけられる距離にリヴァイがいるだけで、なまえはきっとー。
「私が、真相を知ってるって知ったら、リヴァイ兵長が悲しむから。
私の分の悲しみまで、余計に背負わせなくていいんです。」
なまえは、困ったような笑みを浮かべた。
その笑みは、慈愛に満ちているように思えた。
そのときふと、ハンジは少し前に自分が言った言葉を思い出す。
『言っておくけど、リヴァイがなまえを守りたいように、なまえだって、
リヴァイには傷ついて欲しくないと思ってるんだ。忘れるなよ。』
あのときは別に、売り言葉に買い言葉で言ったわけではない。
本当にそう思ったから、自分ばかり傷つこうとしているリヴァイに分かってほしくて言ったのだ。
でもー。
お互いを守るために、自分を傷つけることしか知らない不器用な2人だと思っていた。
でも、違う。
お互いを守るためなら、どれだけでも強くなれるだけのようだ。
愛する人が傷つかないでいてくれるのなら、自分についた傷くらいきっと、本気で平気だと思っているのだろう。
「ねぇ、疲れただろう?
どこかに泊って帰ろうか。」
「嫌です。早くリヴァイ兵長に会いたいです。」
「言うと思ったよ。」
ハンジは苦笑した。
朝から晩まで馭者をお願いしているモブリットには申し訳ないが、もう少し頑張ってもらうしかない。
何と言っても、人類最強の兵士まで味方につけてしまった調査兵団のじゃじゃ馬姫の願いなのだからー。
すっかり外は真っ暗になっていて、やはり予定通り、トロスト区の兵舎に着くのは明日の昼以降になりそうだ。
「1人でよく頑張ったね。」
ハンジが言うと、なまえはキョトンとした顔をした後、可笑しそうにクスクスと笑う。
「ハンジさん達がいたじゃないですか。
1人じゃないですよ。」
本気で言っている様子のなまえに、ハンジは苦笑いが出る。
策なら練った。調査兵団の団長にも内緒の、ハンジ班総出での極秘作戦ではある。
でも、たった1人で敵陣に乗り込んだなまえへの労いの言葉のつもりだったのだが、彼女には伝わらなかったようだ。
「本当にありがとうございました。
ハンジさんの睨んだ通り、ヴェスタープ伯爵の失脚はルーカスが何かしてたみたいで
すぐに信じてくれましたよ。」
「そりゃよかった。エルヴィンに鍛えられただけあって
私達もなかなかの博打打ちってわけだね。」
「そうかもしれないです。」
可笑しそうに言うなまえは、満足そうな笑みを浮かべている。
本当に大したものだ。
あのルーカスという男の執事は、本当に優秀だった。
ハンジの自慢のモブリットの力を持ってしても、証拠どころか、何を裏で操ったのかという話すら見つけることは出来なかった。
だからこそ、爆弾事件でもなまえを囮にするしかなかったくらいなのだ。
出来たのは、貴族界で最近起こった事件を調べることくらいだった。
そして、博打を打つしかなかった。
あそこで、ヴェスタープ伯爵の失脚の件が外れていた時の策も考えていたにしても、それがうまくいくとは限らない。
うまくいかなければ、なまえはきっと、もう二度と兵舎に戻ってくることは出来なかっただろう。
怖かったはずだ、すごく。不安だったはずだ、ものすごく。
でも、ハンジ班で真夜中に集まって、計画を立てているとき、彼女からそんな雰囲気が漏れたことは一度もなかった。
むしろ率先して、リスクは伴っても、成功報酬の大きな作戦をやりたがってー。
「でも、この作戦では真相は闇に葬られたままだ。
なまえは本当にそれでよかったの?」
「いいんです。ルーカスを捕まえることが出来るとも思えないし、
それに、私は、リヴァイ兵長の名誉と居場所さえ守れたらそれでいいから。
…最低ですよね。たくさんの人が死んだのに、私はリヴァイ兵長のことしか考えてない。」
窓の外を眺めるなまえは、ハンジに隠れて唇を噛んでいた。
でも、髪で隠した横顔が、悲しそうに震えているのに気づかないほど、上官として頼りにならないつもりもない。
ハンジは何も言わず、なまえの手をギュッと握った。
弱弱しく握り返してくるその手に、胸が締め付けられそうになる。
なまえを最低だとは思わない。
その作戦に乗ったハンジ班みんな、気持ちは同じだった。
選んだだけだ。自分の大切なものを、助けたい人を、後悔しない選択をしただけだ。
今、ここに、調査兵団の兵舎に初めて足を踏み入れ、不安に震えていたなまえはもういない。
選択することも出来ず、手当たり次第に助けようとしていた危なっかしいなまえもいない。
日々命を懸けた生活をしている調査兵団の兵士達に揉まれ、親友の死を乗り越え、確かになまえは強くなっていた。
それでも、どこか儚い印象は残したままだったのに、それすらももう彼女から消えつつある。
リヴァイの愛を得て、なまえは、リヴァイが想像しているよりもずっと、強くなっている。
でもー。
「本当に、リヴァイには言わなくてもよかったのかい?」
窓の外を眺め始めたなまえに、ハンジは訊ねる。
何度か、リヴァイも作戦に参加させようという案は出た。
それは、ハンジからも、モブリットからも、他のハンジ班のメンバーからも、全員からだ。
勝手に危険な作戦になまえを参加させたとリヴァイに知られたときのことを考えた恐怖心ももちろんあるのだけれど、なにより、なまえのためでもあった。
自分を殺そうとした男と対峙する作戦は、なまえを精神的に追い詰めただろう。
だからこそ、そこを支えるためにもリヴァイが一緒にいるのがいいと思ったのだ。
たとえば、王都のそばでリヴァイが待っているだけでもいい。
何かあったときに、駆けつけられる距離にリヴァイがいるだけで、なまえはきっとー。
「私が、真相を知ってるって知ったら、リヴァイ兵長が悲しむから。
私の分の悲しみまで、余計に背負わせなくていいんです。」
なまえは、困ったような笑みを浮かべた。
その笑みは、慈愛に満ちているように思えた。
そのときふと、ハンジは少し前に自分が言った言葉を思い出す。
『言っておくけど、リヴァイがなまえを守りたいように、なまえだって、
リヴァイには傷ついて欲しくないと思ってるんだ。忘れるなよ。』
あのときは別に、売り言葉に買い言葉で言ったわけではない。
本当にそう思ったから、自分ばかり傷つこうとしているリヴァイに分かってほしくて言ったのだ。
でもー。
お互いを守るために、自分を傷つけることしか知らない不器用な2人だと思っていた。
でも、違う。
お互いを守るためなら、どれだけでも強くなれるだけのようだ。
愛する人が傷つかないでいてくれるのなら、自分についた傷くらいきっと、本気で平気だと思っているのだろう。
「ねぇ、疲れただろう?
どこかに泊って帰ろうか。」
「嫌です。早くリヴァイ兵長に会いたいです。」
「言うと思ったよ。」
ハンジは苦笑した。
朝から晩まで馭者をお願いしているモブリットには申し訳ないが、もう少し頑張ってもらうしかない。
何と言っても、人類最強の兵士まで味方につけてしまった調査兵団のじゃじゃ馬姫の願いなのだからー。