◇第九話◇震える背中の覚悟
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エルヴィンの部屋に案内されたなまえは、慣れない敬礼で人類に心臓を捧げることを誓っていた。
兵士とは全く違う世界で生きてきて、訓練なんてしたこともない彼女の華奢で小さな背中は僅かに震えていて、今にも逃げ出したいと悲鳴を上げているように見えた。
でも、彼女は逃げなかった。
自分のことを、弱い、と言っていたが、ハンジにはそうは見えない。
今まさに、恐怖に震えながらも、あのエルヴィンの前で物怖じせずにまっすぐに立つ彼女を、誰が弱いだなんて言えるだろう。
少なくとも、ハンジもエルヴィンも、リヴァイでさえも、彼女の強さを知っている。
それは、力の話ではなくて、芯の強さであって、巨人討伐を主な仕事としている調査兵団にとって一番大切なことだ。
彼女には悪いが、自分の見立ては間違ってはなかった、ハンジはそう思っている。
「こちらから勧誘しておいて申し訳ないが、君にはまだ調査兵になってもらうわけにはいかない。」
「え?どういうことですか?」
「ハンジから君の戦いぶりについては聞いている。
ピクシス司令も君の巨人討伐を見ていたようで、素晴らしかったと褒めていたよ。」
「…そうですか。」
全く嬉しくない―。
投げやりな言い方。
顔を見なくても、思いっきり背中から不機嫌なオーラが滲み出ていて、ハンジは笑い出しそうになるのをなんとか堪える。
本当に、彼女は大した女だ。
弱いと思っているのは、世界にきっと彼女だけだ。
彼女を知っている誰もがきっと、なまえは強い!気が強すぎる!と言うだろう。
思わずククッと笑いが出て、エルヴィンに睨まれてしまった。
ーごめん、エルヴィン。
「だが、こうも言っていた。兵士としての基本は、何もなっていなかった、と。」
「でしょうね。基本がなっていたら、自分を呪います。呪い死にます。」
あぁ、もうこれ以上、笑わせないでくれ。
ハンジは、笑いを堪えきれずに喉の奥から漏れてしまう。
そして、またエルヴィンに睨まれた。
分かっている。今は笑うときじゃないし、彼女だって真剣なのだ。
―だから、面白いんだけど。
また笑ってしまって、今度はエルヴィンにため息を吐かれた。
「私もまだ君の戦闘を見たことがないので、その実力を測ることは出来ない。
後でハンジに案内させるが、この兵舎の隣には訓練所が併設されている。
そこで、まず、君には訓練をしてもらう。」
「訓練?」
「君には調査兵団のベテラン兵士達がみっちりついて兵士の基本を叩きこむ。
そして、最終訓練まで終えたら、調査兵の兵士として相応しいのかのテストを行う。
テストに合格したら、晴れて君を調査兵団に迎え入れよう。」
「分かりました。」
「準備が整い次第、我々は壁外調査に出る予定だ。
テストはその前に行う。合格後、君にもその壁外調査に参加してもらう。」
「…はい。」
「テストに合格したら、速やかに君の家族を内地へ移住させると約束する。
精一杯訓練に励んでくれたまえ。」
エルヴィンの話を嫌々聞いていたなまえは、最後のその一言で雰囲気を変えた。
「ダメです。」
「何がだね?」
「今すぐに、私の家族の内地移住は今すぐ行ってください。速やかに。」
「…それは、君が調査兵団についてこれるだけの力があるのか分からない今の状態で、ということかな。」
「そうです。」
「それは難しいな。君は訓練を適当にやり過ごし、わざと不合格になるかもしれない。」
ここに来る前に、ハンジもエルヴィンに同じことをお願いをしたのだ。
なまえが入団を決めてくれた時点で、彼女の家族を内地へ移住させてあげたかった。
そうすることで、なまえはきっと、安心して壁外への任務を遂行することが出来るだろうから。
でも、エルヴィンの回答は今言った通りだった。リヴァイもそれに賛成のようだった。
エルヴィンの言っていることも分かるから、悪いが今回はなまえに引き下がってもらうしかない。
なまえの戦闘を見ているハンジは、彼女のテスト合格を確信している。
でも、訓練中何があるか分からないし、もしかすると兵士としての適性がないかもしれない。
誰にも分らないのだ、未来のことなんて―。
「訓練の手を抜くつもりはありません。」
「もし、君が全力で訓練に取り組んでくれたとしても、テストに合格できるとは限らない。
兵士の世界は、甘くないのだ。」
「知っています。」
「…そうだったな。君はあの地獄を見たんだったな。」
「家族の安全が確認できた暁には、エルヴィン団長が誇れる調査兵になると約束します!
私の命を懸けて!!必ず!!」
慣れない敬礼ポーズ。
だが、最初に彼女が見せた弱弱しい背中はもう、そこにはなかった。
彼女の華奢な背中には、家族の未来が乗っているのか。
だからなのか、とても力強く見えた。
伸びた背筋が、カッコよかった。
「なまえ、心臓が右になってるよ。」
「あ!」
慌てて敬礼の腕を右に変えた背中が可愛くて、ハンジはまた笑った。
兵士とは全く違う世界で生きてきて、訓練なんてしたこともない彼女の華奢で小さな背中は僅かに震えていて、今にも逃げ出したいと悲鳴を上げているように見えた。
でも、彼女は逃げなかった。
自分のことを、弱い、と言っていたが、ハンジにはそうは見えない。
今まさに、恐怖に震えながらも、あのエルヴィンの前で物怖じせずにまっすぐに立つ彼女を、誰が弱いだなんて言えるだろう。
少なくとも、ハンジもエルヴィンも、リヴァイでさえも、彼女の強さを知っている。
それは、力の話ではなくて、芯の強さであって、巨人討伐を主な仕事としている調査兵団にとって一番大切なことだ。
彼女には悪いが、自分の見立ては間違ってはなかった、ハンジはそう思っている。
「こちらから勧誘しておいて申し訳ないが、君にはまだ調査兵になってもらうわけにはいかない。」
「え?どういうことですか?」
「ハンジから君の戦いぶりについては聞いている。
ピクシス司令も君の巨人討伐を見ていたようで、素晴らしかったと褒めていたよ。」
「…そうですか。」
全く嬉しくない―。
投げやりな言い方。
顔を見なくても、思いっきり背中から不機嫌なオーラが滲み出ていて、ハンジは笑い出しそうになるのをなんとか堪える。
本当に、彼女は大した女だ。
弱いと思っているのは、世界にきっと彼女だけだ。
彼女を知っている誰もがきっと、なまえは強い!気が強すぎる!と言うだろう。
思わずククッと笑いが出て、エルヴィンに睨まれてしまった。
ーごめん、エルヴィン。
「だが、こうも言っていた。兵士としての基本は、何もなっていなかった、と。」
「でしょうね。基本がなっていたら、自分を呪います。呪い死にます。」
あぁ、もうこれ以上、笑わせないでくれ。
ハンジは、笑いを堪えきれずに喉の奥から漏れてしまう。
そして、またエルヴィンに睨まれた。
分かっている。今は笑うときじゃないし、彼女だって真剣なのだ。
―だから、面白いんだけど。
また笑ってしまって、今度はエルヴィンにため息を吐かれた。
「私もまだ君の戦闘を見たことがないので、その実力を測ることは出来ない。
後でハンジに案内させるが、この兵舎の隣には訓練所が併設されている。
そこで、まず、君には訓練をしてもらう。」
「訓練?」
「君には調査兵団のベテラン兵士達がみっちりついて兵士の基本を叩きこむ。
そして、最終訓練まで終えたら、調査兵の兵士として相応しいのかのテストを行う。
テストに合格したら、晴れて君を調査兵団に迎え入れよう。」
「分かりました。」
「準備が整い次第、我々は壁外調査に出る予定だ。
テストはその前に行う。合格後、君にもその壁外調査に参加してもらう。」
「…はい。」
「テストに合格したら、速やかに君の家族を内地へ移住させると約束する。
精一杯訓練に励んでくれたまえ。」
エルヴィンの話を嫌々聞いていたなまえは、最後のその一言で雰囲気を変えた。
「ダメです。」
「何がだね?」
「今すぐに、私の家族の内地移住は今すぐ行ってください。速やかに。」
「…それは、君が調査兵団についてこれるだけの力があるのか分からない今の状態で、ということかな。」
「そうです。」
「それは難しいな。君は訓練を適当にやり過ごし、わざと不合格になるかもしれない。」
ここに来る前に、ハンジもエルヴィンに同じことをお願いをしたのだ。
なまえが入団を決めてくれた時点で、彼女の家族を内地へ移住させてあげたかった。
そうすることで、なまえはきっと、安心して壁外への任務を遂行することが出来るだろうから。
でも、エルヴィンの回答は今言った通りだった。リヴァイもそれに賛成のようだった。
エルヴィンの言っていることも分かるから、悪いが今回はなまえに引き下がってもらうしかない。
なまえの戦闘を見ているハンジは、彼女のテスト合格を確信している。
でも、訓練中何があるか分からないし、もしかすると兵士としての適性がないかもしれない。
誰にも分らないのだ、未来のことなんて―。
「訓練の手を抜くつもりはありません。」
「もし、君が全力で訓練に取り組んでくれたとしても、テストに合格できるとは限らない。
兵士の世界は、甘くないのだ。」
「知っています。」
「…そうだったな。君はあの地獄を見たんだったな。」
「家族の安全が確認できた暁には、エルヴィン団長が誇れる調査兵になると約束します!
私の命を懸けて!!必ず!!」
慣れない敬礼ポーズ。
だが、最初に彼女が見せた弱弱しい背中はもう、そこにはなかった。
彼女の華奢な背中には、家族の未来が乗っているのか。
だからなのか、とても力強く見えた。
伸びた背筋が、カッコよかった。
「なまえ、心臓が右になってるよ。」
「あ!」
慌てて敬礼の腕を右に変えた背中が可愛くて、ハンジはまた笑った。