エマの身元を引き受けてから、今まで以上に周りに警戒をしながら任務をこなしてきたつもりだった。
自分に何かあった時、任務失敗ということもあるがエマが残されてしまう。
それはエマの実の母親、シンシアとの約束を破ることになってしまう、と。
『Mr.ウツミ。』
両手を手錠で繋がれ、狭い部屋に一つ置かれた椅子に座らされている。
ライトを直接当てられて、思わず目を細める。
目の前には見知らぬ男が立っていた。
『君が日本のスパイであることは既に分かっている。家族と共にハワイで暮らしていることも…。どうだ？家族の事も心配だろう？一言君から肯定の言葉を聞けば家族の命も、また君の命も保証する。』
内海はおもわず苦笑した。
奴等は一切顔には手を出さない。それがスパイのやり方だ。
スーツの下にはたくさんの痣が出来ているだろう…。
『はぁ……。わたしにも子供がいる。あまりこのようなことはしたくないのだが…。』
目の前の男はすっと近くにいた男に目配せを交わした。
その男が出してきたのは一枚の写真。
内海はおもわず目を見開いた。
そこに写っていたのは、まぎれもない…エマと恵理の姿だった。
『Mr.ウツミ…君がすべてを認めて尚且つアメリカに力を貸してくれるというなら、われわれは何もしない。しかし…』
目の前に座っている男はニヤリと、とても嬉しそうに…口を歪めた。
『君があくまで抵抗するのであれば…私の部下が君の家族に何をするか…』
『……っ…俺の家族は関係ないだろ…！』
『ふん……我々としても、何の関係もない民間人を巻き込むことは不本意だが……。』
全くそんなことを思っていなさそうな男は、ぐいっと内海の髪を掴み上げ顔を近付けた。
『こちらも…スパイに入られて黙っているわけには行かないのでな…。先に言っておこう…うちの部下は気が短い。わたしの命令を下す前にカッとなって殺してしまうかもしれんぞ？』
乱暴に掴んだ髪を振り払う。
ガタン！と激しい音が部屋の中に響いた。
内海が床に倒れた後も、すぐに後ろから兵士がやってきて乱雑に彼を座らせた。
殴る、蹴るといった暴行、合間合間に入れられる甘言、そして脅迫。
拷問は休憩など入れずに続けられた。
寝ずの拷問が続けられて、もう何日目だろうか。
内海は朦朧とする意識の中、家で自分の帰りを待っているであろうエマを思った。
そんな彼の耳に、ふと今までここで聞いたことのない声が聞こえた。
『…れ…いた……ます！』
内海が顔をあげると、自分を尋問していた男に地味な服を着た男が何かを耳打ちしていた。
報告を聞いた後、くっくっくっと喉を鳴らしながら笑っている。
『Mr.ウツミ。すまない…時間切れのようだ……』
ー君の妻と娘は死んだ。ー
内海は朦朧とした意識の中、その言葉を聞いた瞬間一気に現実に引き戻された。