見えない存在
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建物から出て、着用していたスーツからシンプルなデザインの私服へとホログラムで服装を変更させる。
約束の時間にはまだ少し余裕がある。
宜野座は道中の花屋で花を買い、約束している広場へと向かった。
ホログラムで作られた噴水の前に到着し、わずか数分ほどで一人の女性が慌ててやってきた。
「すみません!またお待たせしてしまいましたか?」
「いや…先程着いたばかりですよ。」
荒い息を落ち着かせるために、胸に手を当てて深呼吸をした。
そして落ち着いたと同時に顔を上げてにっこりと笑みを浮かべた。
「お久しぶりです。宜野座さん。」
彼女の名前は藍野恵理、宜野座が仕事中に救った女性だ。
常守が赴任してくる少し前に、街で起こった強盗事件の人質の一人であった。
犯人は犯罪係数が数値より大幅にオーバーしており、執行対象となった。
運悪く人質となってしまった人々も、この事件で犯罪係数が上がりセラピーを受けなければならなくなった。
藍野恵理、ただ一人を除いて。
宜野座は腰を抜かした彼女に手を差し出した。
もちろん、その前にドミネーターで犯罪係数の確認は行った。
その時彼女はにっこりと笑みを浮かべて、ありがとうございます、と声をかけた。
「宜野座さん?」
自分の名前を呼ぶ声に、宜野座はハッとして視線を下ろす。
「申し訳ない…少し昔を思い出して……。」
「ふふ…お年寄りみたいですね。」
「お年寄り……」
さすがに少し傷つく。
思わず眉を顰め、それを誤魔化すために眼鏡を押し上げようとしたところで自分の左手に持っていた花のことを思い出した。
「あ…さっきそこで買ってきたんだ…その…あなたによく似合いそうで……。」
恥ずかしそうに少し視線逸らしながらそう言って、黄色の花を差し出した。
「わたしに…?いいんですか?ありがとうございます!」
恵理はあの時と変わらないにこやかな笑顔で花を受け取る。
「じゃあ行こうか…今日は……」
一度、恥ずかしさを紛らわすために咳払いをして、宜野座は改めて恵理に向かい合った。
そして言葉を紡いだ瞬間、すぐ近くで爆発音が轟いた。
宜野座が慌てて振り返ると、子供たちが遊んでいたであろう児童公園から黒い煙と悲鳴が上がっていた。
「くそっ!なんだ…これは!」
宜野座はギリッと歯ぎしりをして、体を震わせる恵理の肩に手を置いた。
「すまない…」
「大丈夫です…宜野座さんも…気をつけてくださいね。」
走り出す宜野座の背中を恵理は見送った。
先程までの震えは宜野座が離れると共に収まった。
爆発音や悲鳴とともにこの地域の犯罪係数は上昇しているだろう。
恵理はなんとも言えない表情で建物の隙間にあるサイマティックスキャンを見つめた。
サイマティックスキャンは恵理を見てはいない。
「(またあたしはこの世界から見えていないのね)」
心の中でそう呟いて、恵理は人混みに消えた。
約束の時間にはまだ少し余裕がある。
宜野座は道中の花屋で花を買い、約束している広場へと向かった。
ホログラムで作られた噴水の前に到着し、わずか数分ほどで一人の女性が慌ててやってきた。
「すみません!またお待たせしてしまいましたか?」
「いや…先程着いたばかりですよ。」
荒い息を落ち着かせるために、胸に手を当てて深呼吸をした。
そして落ち着いたと同時に顔を上げてにっこりと笑みを浮かべた。
「お久しぶりです。宜野座さん。」
彼女の名前は藍野恵理、宜野座が仕事中に救った女性だ。
常守が赴任してくる少し前に、街で起こった強盗事件の人質の一人であった。
犯人は犯罪係数が数値より大幅にオーバーしており、執行対象となった。
運悪く人質となってしまった人々も、この事件で犯罪係数が上がりセラピーを受けなければならなくなった。
藍野恵理、ただ一人を除いて。
宜野座は腰を抜かした彼女に手を差し出した。
もちろん、その前にドミネーターで犯罪係数の確認は行った。
その時彼女はにっこりと笑みを浮かべて、ありがとうございます、と声をかけた。
「宜野座さん?」
自分の名前を呼ぶ声に、宜野座はハッとして視線を下ろす。
「申し訳ない…少し昔を思い出して……。」
「ふふ…お年寄りみたいですね。」
「お年寄り……」
さすがに少し傷つく。
思わず眉を顰め、それを誤魔化すために眼鏡を押し上げようとしたところで自分の左手に持っていた花のことを思い出した。
「あ…さっきそこで買ってきたんだ…その…あなたによく似合いそうで……。」
恥ずかしそうに少し視線逸らしながらそう言って、黄色の花を差し出した。
「わたしに…?いいんですか?ありがとうございます!」
恵理はあの時と変わらないにこやかな笑顔で花を受け取る。
「じゃあ行こうか…今日は……」
一度、恥ずかしさを紛らわすために咳払いをして、宜野座は改めて恵理に向かい合った。
そして言葉を紡いだ瞬間、すぐ近くで爆発音が轟いた。
宜野座が慌てて振り返ると、子供たちが遊んでいたであろう児童公園から黒い煙と悲鳴が上がっていた。
「くそっ!なんだ…これは!」
宜野座はギリッと歯ぎしりをして、体を震わせる恵理の肩に手を置いた。
「すまない…」
「大丈夫です…宜野座さんも…気をつけてくださいね。」
走り出す宜野座の背中を恵理は見送った。
先程までの震えは宜野座が離れると共に収まった。
爆発音や悲鳴とともにこの地域の犯罪係数は上昇しているだろう。
恵理はなんとも言えない表情で建物の隙間にあるサイマティックスキャンを見つめた。
サイマティックスキャンは恵理を見てはいない。
「(またあたしはこの世界から見えていないのね)」
心の中でそう呟いて、恵理は人混みに消えた。