誓い
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このスカラビア寮に侵入者が入り込んだ。
そう連絡を受けたのと、ジャミルが血相を変えて談話室に来たのはほぼ同時刻だった。
「マツリカ!貴様!」
ジャミルはオレの姿を見るなりオレの胸ぐらをつかみあげる。周りの寮生が必死にジャミルを止めようとするが、彼は止まることはなかった。
「カリムが連れ去られた…!」
ジャミルの絞り出すような声に、オレはようやくこいつがオレの胸ぐらを掴んでいる理由がわかった。
「ここを右に……くそ…めんどくせぇ。」
カリムを連れ去った男を探すべく、スカラビア寮総出で駆り出されることとなった。
ジャミルがオレの胸ぐらを掴んだ理由は唯ひとつ、オレが仕組んだと思ったから。
無理もねぇ…オレは元々カリムを殺すためにこの学園に来たんだからな。
「ま、残念ながらオレじゃないわけだけど。しっかし…」
オレには敵の逃げる方角、方向、全ての予測がついていた。とはいえ、あらゆる可能性がある為各方向を寮たちが当たっている。
なぜオレにはそれがわかるか、って?
簡単だ。もしオレがカリムを連れ去るとしたら、どう逃げるか。それを考えた時に導き出される結論のどれかに必ず奴は逃げるはずだ。
「相手が……本物ならな。」
そんなオレの目に狂いはなく、見覚えのないフードを被ったやつの姿を捉えた。
「見つけたぜ?侵入者さんよぉ?」
「くそっ!なんでここがわかった?!俺の作戦は完璧なはずだ!」
「完璧だぜ。お前の考えは…オレだってそうする。」
男は思ってたより早く追いつかれ、慌てている。
オレにはその姿さえも滑稽に思えた。
「(つまんねぇな…見つかったくらいでこんなに動揺してよ……さっさと殺すか。)」
男の手には剣がある。
「来るな!これ以上近付くと…この男を殺すぞ!」
その剣をカリムの首に近づけ、男は威勢よくそう吠えた。
「おいおい…ここは魔法士の養成学校だぞ。」
オレはその姿が滑稽なあまり、おもわず吹き出してしまった。魔法士の養成学校に侵入してくるならせめて魔法が使えるやつでも連れてくりゃいいのに…。
オレは懐からマジカルペンを取り出し、ペン先に小さな火の玉を集める。
「カリムを離してもらうぞ。ど素人が。」
侵入者の腕ごと吹っ飛ばしてやろうかとも思ったが、優秀な魔法士らしく剣だけを狙って吹っ飛ばしてやる。
恐怖のあまり、カリムを離した男に詰め寄り胸ぐらを掴みあげる。
「お前が手を出した男はなぁ…お前みたいな三流が触れる奴じゃねぇんだよ。わかったらここで大人しく…寝てろ!」
ドガッ!
鈍い音がその場に響き、男はその場に倒れ込む。
久しぶりに拳を使って人を殴った気がする。気持ちいいもんだな…。
「っと……カリム、しっかりしろ。」
男を殴ることに夢中になりすっかり忘れていた。
男に手を離され、地面に倒れていたカリムの身体を抱き、上半身を起こすと、カリムはうっすりと目を開いた。
「……ジャミル?」
「残念。オレだ。マツリカだ。」
「マツリカ……?助けてくれたのか?」
「まぁな。お前が居なくなったら…金を払うやつがいなくなるからな。」
「そうか…怪我はないか?マツリカ。」
「なんで連れ去られそうになったお前がオレの心配をするんだよ。大丈夫だ。」
オレの返答にカリムはほっとしたように胸を撫で下ろす。
「それもそうだな!でも…俺のせいでマツリカが怪我をしたら俺はショックだからな!」
「……お人好しめ。」
オレはペチンっとカリムの額を叩く。
カリムは、額を押えまたいつものように笑った。
「よし…戻るか。ジャミルが心配してる。っと…立てるか?カリム。」
「あぁ。大丈夫だ。にしても……。」
「ん?」
「まるで王子様とお姫様だな!」
「……っはは。性別逆だろ。ま、いいか。」
オレはカリムの突拍子もない言葉に思わず笑い声を上げてしまった。
昔はこの能天気さに鬱陶しさを感じたものだが…すっかり慣れてしまった。
オレはその場に膝をつき、まるで王子が姫の手を取るように、自分の右手をカリムに差し出した。
これは、オレしか知らない、オレだけの忠誠の誓いだ。
「お手を拝借、王子様?」
「おう!エスコートを頼むな!お姫様!」
カリムは、それはそれは嬉しそうにオレの手を取った。
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