晴れ時々恋模様
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『涼音ちんさぁーなんで大河と付き合ってんのー?』
『なんでって、好きだからでしょ?』
『涼音ちんならもっといい彼氏できそうなのにー。それこそ榛名くらいの!』
『榛名ねー…、まぁ…そうかもね!』
『す…涼音ちん!榛名はあげないんだからねっ!』
『さぁ?どうかなぁ?あはは!はい、ドリンク!配ってきて!』
藍野 恵理、最大のピンチです。
『お疲れー、あ、ありがとう。って…どうしたの?恵理ちゃん?あと…俺のドリンクが……。』
捕手の秋丸が、防具を外して後ろを振り返ると秋丸のドリンクを握りつぶしているマネージャーの藍野がいた。
『うっ…!秋丸ぅぅぅううううう!!!!』
藍野は、化粧のことなど忘れたかのようにぼろっと涙をこぼして秋丸に抱きついた。
『うっ…うわぁぁぁ?!』
そして二人は派手に転んだ。
晴れ時々恋模様
『つまり、宮下先輩が榛名を奪おうとしてるって…そう言いたいの?』
『そうなの!涼音ちん、大河に飽きたのよ!!』
『そんなことはないと思うけど…まぁ…もしそうなら本当に覚悟したほうがいいかもね。』
『…え?』
『知ってるでしょ?榛名、一年の時宮下先輩のこと好きだったからさ!案外コロっといっちゃうかも?』
『………。』
秋丸は、へらへらと笑いながら榛名の昔話を話した。
藍野の表情が曇っていることに気づかずに。
『まぁ!大丈夫だって榛名はもう『もういいっ!榛名に直接聞いてやるっ!!』……なんか俺…やばいことしたかも?』
秋丸の言葉を最後まで聞かずに藍野は颯爽と走り抜けていった。
『榛名…榛名……いた!』
グラウンドをうろちょろしていると、お目当ての榛名を見つけることができた。
藍野が走り寄ろうとしたが、榛名が宮下と話していることに気付いて姿を隠した。
『……だよ?…た……こと…好き?』
『…ちろ……好きっすよ……り…より……宮下…いう…が…!』
風に邪魔をされて、全部の会話は聞き取れなかったが、今確かに好きいう単語が聞こえた。
そして……
『☆€#÷$♪%¢~っ!?』
二人が重なり合った。抱き合っているのか?それともキスをしているのか?藍野のいる方からはよく見えないがたしかに重なり合った。
藍野は声にならない悲鳴をあげたのち、とぼとぼその場をあとにした。
『………。』
片想い相手である秋丸に呼ばれて、グラウンドへとやってきた本多 都希が見たのは、なんとも異様な光景だった。
いつもはべったりな榛名と藍野が一定の距離をとっているのだ。
というより、藍野が自ら離れている。
『ど…どうしたの?あれ?』
『うーん…もしかしたら俺のせいなのかも……。』
本多が作ったドリンクを片手に、秋丸は眉を下げながらそう呟いた。
そう、藍野があの調子では宮下一人でマネージャーの仕事をこなさなくてはならなくなる。
しかし、それは無理な話だ。
というわけで、たまに見学にきている本多を呼んだのだ。
『秋丸君の…?』
『なんか、宮下先輩が榛名を狙ってるとか言ってたらしくてさ…榛名、昔 宮下先輩のこと好きだったんだよ。それをぽろっと…』
『言っちゃったんだ……。』
『けど、俺さ…恵理ちゃんは知ってるって思ってたんだよ!それに昔の話だしさ!けど…悪いことしたな…。』
本多は、心配そうに藍野の背中を見つめた。
そうして部活が終わり、部員たちは次々と帰路についていった。
遅くまで付き合わせたから、といって秋丸は本多を送ると榛名に告げ、先に帰路についた。
そして榛名は…今日ろくに口を聞かなかった藍野を探している。
『なんなんだよ…あいつ……部活中も全然俺と喋りやがらねぇし!』
榛名は、自分の鞄と藍野の鞄を持ってすっかり暗くなった校内を探し回っていた。
『…いた……!』
藍野は、体育倉庫の裏にちょこんと座っていた。
『恵理っ!!』
榛名は、大きな声で藍野の名前を呼んだのち走り寄った。
『榛名……。』
『お前…どうしたんだよ、今日。』
『べ…別に……。』
『…はぁ…何があったのかしんねぇけど…マネージャーの仕事くらいちゃんとやれよ。宮下先輩一人でやってたんだぞ。』
榛名は、うじうじとしている藍野に大きなため息をつきながらそう言い放った。
しかし、藍野はその言葉に眉をしかめた。
『宮下先輩…?彼女のあたしより…涼音ちんのほうを心配するの?そりゃそうだよね…榛名はあたしなんかより涼音ちんのほうが大事だもんね!!』
『はぁ?何 意味わかんねぇこと言ってんだよ!俺は、お前が今日一日マネージャーの仕事をしねぇで、宮下先輩に迷惑かけたから言ってんだろ!』
『意味わかんないのはこっちだよ!榛名、あたしに隠し事してるでしょ!今日の昼休憩の時、涼音ちんと何してたの?』
『昼休憩の時?』
『良かったね!榛名!一年の時の片想いが今やっと実ったんだから!!あたしなんかより涼音ちんが好きなんでしょ!!あたし見たんだからね!!もう別れる!榛名なんかずっと涼音ちんといろ!!バカ!』
藍野は勢いに身を任せてそう言い放ったのち、榛名からもらったペンダントをぶちっと首から引き抜くと榛名に向けて投げつけ、走り去った。
『恵理っ!!』
榛名が藍野の背中を見ようと振り返った時、すでに校舎の角を曲がり姿はなかった。
『意味わかんねぇよ……。』
榛名は、苦しげにそう呟けば投げつけられて落ちているペンダントをすっと拾った。
接続部が完全に壊れている、このままだとつけることはできないだろう。
榛名は、それをすっとポケットへと突っ込みその場を後にした。
次の日、本多と秋丸が見たのは教室がピリピリしたムードに包まれ、クラスメートが気まずい雰囲気になっている姿だった。
『な…なにこれ……?』
『喧嘩…したみたいだね……、そういえばあの二人中心でこのクラス回ってたから…。』
『榛名君と恵理ちゃんが喧嘩したら…こうなるよね。』
『ま、それでも今日ちゃんと学校にきた恵理ちゃんについては褒めてあげないとね。』
『秋丸君っ!そういう問題じゃ…!』
『ご…ごめんごめん…!』
そんなやり取りをしながら、本多は二人の背中を見て思わず目を伏せた。
『(大丈夫かな……二人とも…。)』
二人が喧嘩して、かれこれ数日が経過していた。
榛名がいつも通り練習していると、ドリンクを片手に宮下が走り寄ってきた。
『榛名、ドリンクー!』
『あ…ありがとうございます……!』
『そういえば…最近恵理と一緒にいないのね。』
『え?あ…なんか…フられたんすよ……。』
『フられたぁ?なんで?』
『いや…大したことじゃないんで…。』
『ふぅん……わたしのせいかなぁ?』
『い…いや!宮下先輩は…っ!全然…っ!!』
『いや、こないださ、なんで大河と付き合ってんのって聞かれてね…ちょっとからかうつもりで…ね。』
『…へ……?』
『榛名もいいかもね~、って言っちゃったんだ…。』
『……い…いやいやいや!何言ってんすか宮下先輩!!』
『ごめんね!ほんとにからかうつもりだったの!だって、榛名榛名って必死なんだもん、あの子!それにわたしは大河しか見えないから。』
『あ…はは……』
宮下の思いがけない言葉に思わず顔を赤くしながら笑っていると、防具をつけた秋丸が榛名の名前を呼んだ。
『あ、榛名!どこいったのかと思ったよ!』
『おー、わりぃ…秋丸。』
『あれ?宮下先輩と何話してたの?もしかして…俺 邪魔した?』
『そっ…そんなんじゃねぇよ!!』
『そうよ!それじゃ、わたし先に行ってるから!』
宮下はくすくすと二人のやり取りをみて笑みを浮かべれば、たたっとその場から走り去った。
『…榛名、もしかしてまだ宮下先輩のこと好きなの?』
『っ!?いや…そうじゃねぇって!』
『なんだ…よかった……。まだ好きなんだったら、俺 #恵理ちゃんに嘘ついたことになるとこだった!』
『は?』
『その…ごめん!榛名!俺、恵理ちゃんに昔、榛名が宮下先輩のこと好きだったって言っちゃったんだよ!けど、もう過去の話だろ?だから…大丈夫かなって…つい…!』
『…それでかぁ…言ってねぇはずなのになんで知ってるのかと思ってたら…。』
『ごめん!本当にごめん!』
『いや…もういいけど……。ただひとつ気になることがあるんだよなー…。』
『なんだよ?気になることって。』
『いや…あいつが怒ってた時にさ…昼休憩の時になんたらって言われたんだよ。けど、俺…その日の昼休憩の時、宮下先輩と話してたことくらいしか…。んで…風がキツくて…宮下先輩の目に砂が入って…頼まれて、目の中を見ただけなんだよな……。』
『…それじゃないの?』
『は?いや、何にもしてねぇじゃん。』
『それさ、横からみたらそうだってわかるけどさ……。あ、ちょうどいいところに…本多さん!』
『え?なぁに?秋丸君?』
『ちょっといいかな?』
『うん、いいよ?』
秋丸は頭の中で何かを計算しつつ、小さく頷いたのち少し離れた場所を指差した。
『榛名、ちょっとあそこに立ってて。』
『お…おう……!』
秋丸の指示通り、榛名は指の差された場所に立つ。
『よし。それじゃあ本多さん、ちょっとごめんね。』
榛名は思わず目を見開いた。
二人が重なり合ったのだ…。
抱き合ってる?キスしてる?榛名は思わず顔を真っ赤にして叫んだ。
『お…おいっ!!秋丸!俺の目の前で何やってんだよ!!』
『まぁまぁ…!それじゃあ、このままいるからこっちに来てよ。』
『ば…っ!何言って…っ!!』
『いいから、早く!』
秋丸がこんなに大胆な奴だとは…、榛名は思わずそう考えながら秋丸の元へ駆け寄った。
『あ…れ……?』
しかし、榛名が見たのは、本多の目の下の部分を引っ張り目の中を見ている秋丸だった。
『ほらね。きっと恵理ちゃんは、これを見て勘違いしたんだよ。榛名からはどう見えた?』
『え…?それは…二人が……っ!』
『そんなに赤くなられても…こっちが恥ずかしくなるだろ…っ!つまり、榛名と宮下先輩も、今榛名が見たように恵理ちゃんには見えちゃったんだよ。』
『なるほど、たしかに…自分の恋人が他の女の人とそういうことしてるって思ったら…怒りますよね…!』
『そういうこと。』
『……そっか…そうだったんだな……。』
榛名は、思わず口元を歪めた。
『ちゃんと謝んなきゃな…!』
榛名の言葉に、秋丸と本多は笑顔でこくりと頷いた。
『本当にいいのか?』
『いいよ。あとちょっちだし!』
『そっか!じゃああと頼むわ!帰り、気をつけて帰れよ!』
『わかってる!バイバイ、かぐやん!』
部活後、ボールの整備をしていた藍野と加具山だったが、少し調子の悪い加具山を見抜き、藍野は先に加具山を帰し、一人残って整備を行なっていた。
辺りはすでに日が沈み暗くなっている。
明かりはこの部室の電気と数カ所の電灯、教室の灯りだけだった。
きゅっ…きゅっ…とボールを磨く音だけが部室に響く。
『よし、こんなもんかな!さてと、片付け片付け!』
藍野は、体操着の袖で汗を拭ってボール籠を持ち上げる。
ぐらっと一瞬体勢を崩すものの、すぐに持ち直して所定の場所に置き、おおきく伸びをした。
ガチャッ…!
伸びをしている藍野の後ろで、部室の扉が開いた。
『?なぁに?もう帰るってば!ほんと、かぐやんってば心配しょ……。』
藍野がへらへらと笑いながら振り返ると、制服姿の榛名が立っていた。
『…っ!』
恵理は思わず表情を曇らせると、ばっとカバンと制服を持ち、走って榛名の横を走り去る。
『待てって!恵理!』
榛名は慌てて、藍野の腕を掴んだ。
バサバサッと派手な音をあげて藍野が持っていたカバンと制服が床に散らばっていく。
『離してよ!あたし忙しいんだけど!』
『お前っ!勘違いしてるって!』
『何が?!今更何言ってんの?!』
『いいから!話聞けって!』
『話すことなんてない!さよなら!』
榛名の言うことなど聞く耳ももたず、藍野は榛名の手を振り払おうと、ぶんぶんと腕を振る。
痺れをきらした榛名は、ぐいっと藍野の腕を引き、ぎゅっと抱きしめた。
『話…聞けよ……っ!お前の勘違いだって…全部……。』
『…っ!』
『たしかに、俺は一年の時、宮下先輩のこと好きだったし、今も先輩として好きだ。けど!宮下先輩より、恵理のほうがずっと好きなんだよ!前から言ってんだろ…。』
『…けど!こないだの昼休憩の時のことはどう説明すんのよ!!』
『あれは、宮下先輩の目に砂が入ったから、目の中見てただけだって!その…き…キスとか…してねぇよ…!』
『でも…榛名、涼音ちんに好きって言ってたでしょ!!』
『っ?!あれは!!』
榛名は、そのことを思い出し顔を真っ赤に染めた。
『ほら、やっぱり。所詮あたしは涼音ちんの代わりだったんでしょ?』
『違うって!!あれは……っ!』
『なに?』
『っ!!宮下先輩に…聞かれたんだよ……。』
ーーー恵理ってばもうすっかり榛名の彼女に落ち着いたみたいね。よかったね!榛名!…榛名は、恵理のこと…好き?ーーー
ーーーもちろん、世界で一番好きっすよ!…恵理は俺より隆也を選ぶかと思ってたんすけど、宮下先輩がそう言うなら…自信がつきました…!ーーー
ーーーそっか!よかった…いたっ!!ーーー
ーーー先輩?大丈夫すか?ーーー
ーーーいたた…目に砂が入ったみたい……。どう?とれた?ーーー
ーーー大丈夫っすよ、もう砂はないっす。ーーー
『な…にそれ……。』
榛名の胸の中でこわばらしていた身体から一気に気が抜けた。
全部…自分の勘違いだと言うのか……。
藍野は思わずぎゅっと目を閉じた。
榛名にひどいことをしてしまった。
彼はただ、自分を好きでいてくれただけなのに…!
くだらない嫉妬で傷付けてしまった。
『…ごめんな、恵理。』
『…え…?』
『俺がちゃんと言えばよかったんだよな。宮下先輩のこと。けど、昔のこと話すの…なんか恥ずかしくてさ。』
『榛名……。』
『けど、俺はお前が…す…好きだからさ……せめて誤解だけでも解かねぇとって思って…!それと…!』
榛名はぎゅっと強く藍野を抱きしめながらそう言っていたが、ふいにすっと離れて制服のポケットからあるものを取り出した。
『…これ……あの時…あたしが…。』
『ここの接続部分が壊れてたから…直してもらったんだよ。ほら。』
あの時藍野が投げつけたペンダントが、榛名の手の中にあった。
榛名はそれをそっと藍野に差し出した。
藍野は、ゆっくりと手をのばしてそれを受け取る。
そして、受け取った瞬間涙がこぼれた。
『…うっ…うわぁぁぁぁん!!ごめん!ごめんねっ!榛名ぁ!あたしも榛名が大好きなの!だから!涼音ちんのとこになんか行かないでぇ!!あたしだけの側にいてよぉ!榛名はあたしの彼氏なんだからぁ!!』
藍野はそう言いながら、ぐしぐしと手首のリストバンドで涙を拭う。
そんな姿に不覚にもキュンとした榛名はぎゅっとまた藍野を抱きしめた。
『っ!当たり前だろっ!!』
『うわぁぁぁん!榛名ぁ!』
部室で散々泣いたあと、二人は寄り添ったままふと時計を見上げた。
『げっ!?』
『やばっ!』
もうすぐ閉門時間だ、二人は手を繋いで部室から走り出した。
『ねぇ!榛名!』
『なんだよ?』
『あとでチューしよっか!』
『っ!?ばっ!何だよ!いきなり!』
『だって、もう一週間以上してないし?榛名が足りないのー!!』
『また今度な!とにかく今は走れって!!』
そんなやり取りをしながらも、無事に閉門までには間に合い。校門の外で膝に手をついて息を落ち着かせた。
もう遅いし、帰りは送ってやらなきゃ…などと考えながら榛名が顔を上げた時、唇に柔らかい感触を感じた。
『いっただきー!』
驚いて後ずさると、ピースサインを見せながら自分の唇をぺろっと舐めながら笑う藍野がいた。
『バイバイ!榛名!また明日ねー!』
『……今の…反則だろっ!!』
顔が真っ赤になりながらそう言い放った榛名の顔は、すっかりにやけていた。
帰ったら…電話しよう、などと考えながら榛名は夜空を見上げてゆっくりと歩きだした。
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