ちっぽけなプライド
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「ねぇねぇ。提督ってどんな人なんだろーね?」
「言われてみれば…顔みたことないっぽい?」
「表には出ないもんねー?」
鎮守府内の食堂の一部でそんな話が上がっていた。
話しているのは数ヶ月前に建造された駆逐艦娘達だ。
彼女たちはここで建造されてから一度もここの提督の顔を見たことは無い。
「どんな人なんだろー?男の人なのかな?」
「別のところの提督さんは男の人って言ってたっぽい!」
「1回くらい会ってみたいねー!」
補給の為、食卓を囲んでいた彼女たちの会話を少し離れたところで聞いていた艦娘はクスッと笑みを浮かべた。
彼女は戦艦 陸奥、ここの鎮守府で提督の秘書艦を務めている。
この鎮守府内で唯一彼女だけが提督とコンタクトを取っている存在だ。
まだ見ぬ提督像へどんどんイメージを膨らませている艦娘達を見て、陸奥は心底可笑しく思った。
もちろん、自分だけが提督の顔を知っていることの優越感などと言ったつまらない理由ではない。
提督が他の艦娘に顔を出さない理由を知っているからだ。
「失礼します。」
陸奥は重厚な扉をノックし、中に聞こえるようにそう声をかける。
ここは提督の執務室、陸奥しか入ることの出来ない特別な部屋だ。
先程のノックの返事はないが、しれっと中に入る。
「もう…提督、返事くらいしてよね?」
中の大きな机の向こう側には白い提督服に身を包んだ人物が、扉に背を向けて座っていた。
「だって……、」
ポツリとそう呟いた提督がくるりと陸奥の方へと椅子を回し、向き合う。
その姿は駆逐艦達が想像していた男性ではなく可憐な女性だった。
「もし誰かに声を聞かれたり…姿を見られたら……カッコイイ提督!ってイメージでみんないるのに僕みたいな女だったらきっとショックだよ……。」
「そんなことないわ。大事なのは見かけじゃなくて中身だもの。はい、これ。本部からの書類よ。」
陸奥は執務室の大きな机に書類を置き、書類と一緒に持ってきたお茶を提督の前に置いた。
「僕の周りはThe提督!って感じの人ばっかりなんだ…そりゃ卑屈にもなるさ……。」
「ふふっ…考えすぎよ。そんなだからいつまで経っても人前に出れないのよ?」
陸奥はクスクスと口元に手を当てて笑った。
提督はむっとして、書類に手を伸ばす。
難しいことばかり書いてある。これは理解するのに時間がかかりそうだ。
はぁぁ…と大きなため息をついて、背を椅子に預けた。
「…陸奥……?」
「はい?」
「…ありがとう。いつも書類届けてくれて。」
「あらあら?急にどうしたの?いいわよ。仕事だもの。」
突然のお礼に一瞬拍子抜けしたものの、陸奥はクスクスと笑ってそう答え部屋を出ていった。
「………、」
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