瞳に映った君の色 前編
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「起きろー!」
スパァンと襖が勢いよく開かれ、そのあとから無駄に大きな声が部屋に響き渡った。
ここは私の一人部屋、だからといって遠慮なくデカい声を出すのは違う気がする。
私は人より低血圧だからとても朝が弱い。
それになにより…
「っ!うるさい!朝っぱらから!何ですか!って!まだこんな時間じゃないですか!!」
私は布団の中から顔だけを出し、遠慮なくふすまを開いたこの男に異議を申し立てた。
開かない目を精一杯薄らながら開き、時計を確認するとまだ起床時間には時間がある。
それなのに何故この人は私の部屋に突撃して、あろう事か大きな声を上げているのか。
「忘れたのか!今日は早朝ランニングの日だろ!」
「それは会計委員だけですよね!!?わたしは用具委員会なんですけど!!」
「それがどうした!忍者たるもの常に鍛錬を怠ってはならん!さぁ立て!」
「やですよ!!会計委員会だけで行ってください!!」
「行くぞ!ギンギン!」
私から布団を取り上げ、棚からわたしの忍者服を取り出しぽいっと私に投げるこの男…いや勝手に開けるなよ……。
忍術学園最上級生の潮江文次郎。ちなみに会計委員会委員長。
顔は老けているが、一応はわたしのひとつ上の先輩だ。
布団を取り上げられてもまだ抵抗し、布団から出ようとしない私を、潮江先輩はひょいと抱えあげた。
「はやく着替えろ!」
「あーーーーー!!もうっ!!!!」
私は怒りに身を任せて、寝巻きの腰紐をしゅるりと解く。
これは行かないと一生離してもらえないと、諦め半分怒り半分での行動だったけれど、潮江先輩は顔を真っ赤にして私を布団の上におっことした。
「ば…っ!ばかたれ!男の前で着替える奴があるか!!」
「はぁ?!先輩がさっさと着替えろって言ったんでしょ!!女の着替えくらいでガタガタ言わないでくださいよ!!」
「デリカシーがないのかお前は!くそっ!外で待ってる!」
私の方には目もくれず私の部屋を出ていっては、ふすまが壊れるんじゃないかと思うくらい来た時と同じくらい勢いよく襖を閉めた。
しかし外に明らかに潮江先輩の影が見える。
私は大きなため息をついた。
ぽいっと寝間着を棚の近くに放り投げ、忍者服に袖を通す。
コロコロと布団を畳み端に寄せる。
ちらっと襖の向こうを見ると、潮江先輩と思われる影がゆらゆらと揺れている。
待ちくたびれてイライラしているのだろう。
すぱんと襖を開き、じとっと恨みがましい目で精一杯潮江先輩を睨みつけた。
「お待たせしました。潮江先輩。」
「よし、行くぞ!」
この日の朝、授業が始まるまで私は会計委員に付き合わされて走らされた。
同学年のくのいち達は私を見て面白そうに笑っていた、手裏剣投げてやろうか。
私がこの潮江文次郎に目をつけられてから、地味に地味にと生きてきた人生がめちゃくちゃに変わった。
くのいち教室では常に端っこで静かに暮らしていたのに、潮江文次郎はズカズカとわたしのパーソナルスペースに入り込んできたし、くのいち達には先輩に当たる潮江文次郎に追いかけ回される私を見て随分面白いものだと思ったのだろう。
羨ましい、など身勝手な理由で私の静かな平穏を奪い取った。
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