輝かしい未来
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「クソ!あいつら!みんなして!!私のこと置いていって!!絶対許さないから!!クソ!!!痛い!!!」
3年前、私はとある軍との合戦の印を取ってこいと銘を受け、合戦場に出てきていた。
しかし、途中で足を滑らせ転倒、そこに飛んできた弓矢が運悪く足に刺さり歩くことすらままならなくなって、挙句の果てに仲間の忍者には置いていかれて途方に暮れながら森の中を歩いていた。
出るわ出るわ不満の嵐と歩き続けていることによる疲労で、私の体力はもはや限界に近付いていた。
がさがさ…
私が歩いてる最中に拾った大きな木の枝を杖代わりに歩いていると、木々の間から一人の男がひょっこりと姿を現した。
私は喉から心臓が飛び出るのではないか、と思うくらい驚いて変な声を上げた。
「あの、大丈夫ですか?それにその足…、怪我の具合をみましょう。どうぞこちらへ。」
その男は私の変な声を華麗にスルーして、私の方へと歩み寄り、すっと私に手を伸ばした。
私は思わず伸ばされた手を払いのけて、杖替わりにしていた木の枝を刀のように構えた。
「誰だ!お前!?…ん?……見覚えがあるな…お前!善法寺伊作だな!!!」
その男の顔に見覚えがあった。
それもそのはずだ、この男は善法寺伊作、我がタソガレドキ忍軍の忍組頭 雑渡昆奈門が懇意にしている忍術学園の忍たまなのだから。
「なんで僕の名前を…?」
伊作は驚いたように目をまん丸に見開いた。
私はふんっと得意げに鼻を鳴らして、自分の胸を拳で叩いた。
「それはね!私が!タソガレドキ忍軍、期待のくの一だからよ!」
「タソガレドキ…あぁ…雑渡昆奈門さんの!」
伊作は最初不思議そうに首をかしげていたが、タソガレドキと聞いて納得したようににっこりと微笑んだ。
改めてどこからか取り出した包帯をシュルっと解いた。
「とりあえず…そのままじゃ破傷風になってしまいますよ。」
笑顔でとんでもないことを言うな…と思って、矢が刺さっているはずの左足を見下ろすと、ダラダラと血が流れている。
思わず血の気が引いた、口の端からよだれがこぼれる程度には…。
でも伊作は特に気にすることなく、よいしょ、と呑気な声を上げながら私の元へと駆け寄ってきた。
「失礼します。」
と、申し訳なさそうに眉を下げながらひょいっと私を持ち上げて、軽い足取りで森の中の少し開けたところまで私を運んだ。
一応言っておくけど、割と暴れた。
けどまったく意味なかった。
ひょろいくせしてそれなりの力はあるみたい。
平らな石の上に私を下ろして、テキパキとなんかの薬草やらなんかの調合薬やら私には訳が分からなかったけれど、伊作に治療されると、すっと痛みが楽になった(気がした。)
伊作が慣れた手つきで私の足に包帯を巻いていると、どこからかもう1人同じ忍者服を着た男が現れた。
「伊作!」
「留三郎!」
留三郎と呼ばれた男は私を怪訝な顔で見下ろした。
こいつは完全に敵味方を分かってるってことか。
「こいつ…タソガレドキの忍者か…、また見ず知らずのやつを助けやがって……。」
「すまない。でも放っておけなくて。」
「私は助けてくれなんて言ってないけどな。」
「助けて貰っといてその言い方はどうかと思うぞ。」
留三郎はより一層眉間に皺を寄せた。
どうやらかなり敵意を向けられているようだ。
それは私も同じだけれど。
キュッと包帯の端を器用にくくり、伊作は私の顔を見上げて、あの人懐っこい笑顔を向けた。
「はい。これでもう大丈夫ですよ。」
「…痛くない……」
「しっかり消毒しておいたし、薬も塗っておいたから…ちゃんと毎日包帯を変えてください。」
「…努力はする。」
私はその屈託ない笑顔がとても眩しく感じ、思わずムスッと可愛げのない顔をしてしまった。
がさがさと、私の上から木の枝が擦れる音が聞こえる。
留三郎もこの気配に気付き、誰より早く私のそばに居る伊作の腕を引き、自分の後ろに引っ張り、苦無を構えた。
「帰ってこないと思ったら…こんな所にいたのか。」
木の上には組頭が立っていた。
どんな表情か私の位置からは見えない(どこからでも大体見えないけど)が、
その口振りからして、どうやら帰ってこなかった私を探しに来てくれたらしい。
組頭は、私の横にすっと降りてきた。
私の左足の包帯を見て、少し目を細めて伊作と留三郎に視線を移した。
「伊作君。また…今度はうちの者が世話になったね。」
「いえ。お気になさらずに。」
伊作は留三郎の後ろからひょっこりと顔を出して組頭にそう返した。
組頭は私をまるで俵を抱えるかのように持ち上げた(しかも後ろ向きで)
「組頭!だから!その持ち方辞めてって言ってるじゃないですか!」
「…ちゃんとお礼言ったのか?伊作君に。」
組頭は私の言い分に見向きもせず、そう質問した。
組頭は義理堅い性格だから、私が伊作にした態度を見たら殺されるかもしれない。
組頭はくるりと背中を向け、私の顔を伊作の方に向けた。
「…ありがとう…。」
ムスッと、それはそれはムスッとした顔でお礼を述べる。
別に私は助けてとか言ってないのに勝手に治療してきたのにお礼なんて…、と頭の中をグルグルと回っていたが、組頭に揺すられるとお礼を言わざるを得なかった。
組頭はようやく満足したのか、私の持ち方は変えずひょいっと元いた木の枝に飛び乗った。
「伊作君、ここはまた合戦が始まる。早めに忍術学園に戻った方がいいよ。」
組頭はそう忠告して、トンっと木の枝から飛び出す。
「この借りは!必ず返してやるからなー!善法寺伊作ー!!」
私は捨て台詞のようにそう言った。
最後まできっと聞こえてはいなかったのだろうが…。