職業体験の段
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「吉野先生〜!お客さんですよ〜!」
吉野先生からの返事の前に中に入ろうとしたら、僕の足が敷居に引っかかっちゃって…って
「うわわわぁ〜!!」
また吉野先生の怒られちゃうよ!思わず僕はギュッと目を閉じて衝撃に耐えようとした…んだけど…全然痛くない…?
パチッと目を開けると、僕の体が宙に浮いてて…なんで?
「あの…大丈夫ですか?」
僕の上から声が聞こえて来たことで、ようやく今の自分の状況がわかった。
僕は今さっきのお客さんに抱きかかえられてて、怪我をせずに、吉野先生にも怪我をさせずに済んだんだ。
僕は小さくはい〜と返事をした。
「あぁ…遅かったね。恵理。小松田くん大丈夫か?」
「すみません。少し道に迷ってしまって。」
僕の上で二人が話してるのを聞く限り、このお客さんは吉野先生の知り合いというか…身内?なのかな?
「あのぉ…下ろして貰えると嬉しいんですけど…。」
「あっ…申し訳ありません。」
久しぶりに地面に足が着いた僕を横目に、お客さんは用具室の奥で作業をしている吉野先生の元に向かって行った。
「父上から手紙を預かってきました。今日一日お世話になります。」
すっと着物の胸元の合わせの中から手紙を取り出して、吉野先生に手渡した。
今日一日…お世話になります…?
どういうことなんだろ?
「あぁ、ありがとう。しっかりやるんだぞ。」
「あのぉ…僕、全然状況が読めないんですけどぉ…。」
「昨日言ってただろ。今日はわたしの姪が事務員の仕事を手伝いに来ると。」
「えぇ…言ってましたっけ?」
僕はうーん、と頭を捻って考えてみた。
そう言えば学園長の書類整理をしていた時に後ろで吉野先生が何か言っていたような…うーん…。
「言ってましたっけ?」
「君は相変わらず人の話を聞かないな。」
吉野先生は呆れたように首を横に振って、改めてお客さんの方を見た。
そんな馬鹿にしなくても…。
「恵理、今日の君は事務員だ。しっかりやるんだぞ。」
「はい。小松田さん、よろしくお願いします。」
「じゃあ…ちょっとやってもらうことがあるから、一度私と来てくれ。…小松田くん、今日一日よろしく頼むよ。雑務が終わったら恵理を小松田くんのところに寄越すからな。」
「わかりましたー。」
2人が出ていくのを見送ってから、僕はうーんと再度頭を捻った。
「なんで吉野先生は姪っ子に事務の仕事なんかさせるんだろー?」
ま…まさか!僕がへっぽこ事務員だから…姪っ子に仕事をやらせるんじゃ…!
「大変だー!僕の仕事が無くなっちゃうよ!」
きっと吉野先生が僕に愛想をつかせて、新しい事務員を雇うつもりで…!
「どうしよう…いや待てよ…僕のほうがここで働いてる期間は長いんだ。僕がちゃんと仕事してる所を2人に見せれば!きっと吉野先生も考え直してくれるし、あの新しい事務員さんも自分には出来ないって思ってくれるかもしれない!」
僕は急いで用具室から飛び出した。
まずは自分の出来ることぜーんぶやってあの人が来ても仕事がない、ぐらいにしちゃうぞ!
僕は今までにないスピードで枯葉を掃除して、ゴミ袋にまとめて、学園長先生の部屋に壺を運んでって、こんな所に石ころが…
「うわ!わわわ!」
なんでこんなところに石ころが落ちてるんだよ!
躓いた衝撃で壺が空に飛んでいっちゃったし!これだと割れちゃう!
僕は思い切り空に手を伸ばすけど届くわけもなく……
「あれ?」
僕は一生懸命手を伸ばしてる姿のまま、誰かに支えられていた。
「ふぅ…大丈夫ですか?小松田さん。」
僕の上から聞き覚えのある声が降ってきた。
左手に僕のお腹を抱えて、右手にはさっき飛ばしたはずの壺がお行儀よく収まっていた。
「あれ…あなたは…?」
「恵理です。今日1日お世話になる者です。」
「そういえばそうでしたー!」
僕はよいしょ、と体制を戻してぺこりと頭を下げてお礼を言った。
はっ!だめだめ!この人は僕の仕事を奪おうとしてるかもしれないんだった!
「で…でも!さっきのは僕一人でも大丈夫だったんですからね!」
「そ…そうなんですか。それは失礼しました。」
恵理さんは慌てて今度は僕に頭を下げて、壺を手渡してくれた。
なんか拍子抜けだなぁ〜。
「とにかく…私は今日1日小松田さんの仕事について回れと叔父上に言われました。しっかり見学させていただきます。手伝うことがあればなんでも言ってください!」
「手伝うことなんてないよ〜!僕がぜーんぶやっちゃうからねー!とりあえず、これを学園長先生のお部屋に持っていかなきゃ。」
「はい!」
僕が学園長先生の部屋に向かうと、僕の後ろを着いてきてくれる。
なんか僕、先輩みたいだなぁ!よーし!頑張るぞ!
でも、僕の失敗を待ってるかもしれないし…うーん。
「さ…こま…さん!小松田さん!」
僕が考え事をしながら歩いていると、後ろから僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
せっかく考え事をしてたのに…そう思って顔だけで振り返ると、恵理さんがすっと横の部屋を指さした。
「学園長先生の部屋はこちらでは……?」
「へ……?」
僕が周りを見ると、考え事をしすぎてすっかり通り過ぎていたらしい。
僕は慌てて体ごとくるっと方向転換をしようとした…んだけど、急ぎすぎて足をもつれさせて…縁側の方にぐらっと体が揺れた。
「うわわわわ!」
「小松田さん!」
また僕がコケる直前に恵理さんが僕の体を支えてくれた。
さっきも思ったけど…
「動きが早いですねぇ…忍者みたいですー。」
僕は呑気に支えてくれている恵理さんを見上げながらそう言った。
「はぁ…まぁ、一応忍者なので…。」
恵理さんは、僕の体を正常な位置に戻してから控えめにそう答えた。
「へぇ〜!そうだったんですかー。凄いですねー。」
僕は壺を学園長先生の部屋にちゃんと置いて、落ちているゴミを拾いながらそう答えた。
ますますわからないなぁ…なんで忍者なのに事務員に…?
うーん…。
とにかく!まだまだ仕事は残ってるんだからしっかり頑張らないと!
「さて!では次の仕事に行きましょう!」
「はい!」
僕は張り切って次の仕事場へ向かうべく、拳を上げた。
恵理さんも控えめに、おー、と片手を上げた。