例えばそれが愛ならば
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運命というものは、実に不思議なもので。
何がどう転じてこのような成り行きになるのか。
さっぱり分からなく、そして難しい。
それは自分の心を読み解いていくことと似ているかもしれない。
リュウはぼんやりとそう考えながら、後ろから追ってくる足音に深くため息をついた。
「なぁ、どこまで行くんだよ」
「……」
「俺、そろそろ疲れたんだけど」
「……」
「ちょっとくらい休もうぜ」
「……」
「なぁ、無視すんな…」
「あー!!うるせぇな!!」
だんまりを貫いていたリュウは、ウンザリしたように後ろを振り返った。
リュウの背後を歩いていたアルは、口を尖らせて視線を背ける。
「お前って奴は……黙って歩けねぇのか?」
「だってよ…疲れたんだもん…」
アルは不貞腐れたようにそう言って、そばにあった切り株に腰を下ろした。
二人が出会ってから数日。
二人はまだ、深い森の中を歩き続けていた。
街を目指すリュウと、それに勝手についてきたアル。
別に一緒に行動してるつもりはないのだから。
放っておけばいいのに。
リュウがそう思っても、何故だかこの若い盗賊が気になってしまっていて。
―――全く、変な奴に懐かれてしまったな…
リュウは再びため息をつくと、アルに背を向けスタスタと歩き始めた。
「ちょっ…置いてくのかよ!?」
「いちいちお前に付き合ってられるか」
背後から"冷たい"だとか、"ひどい"だとか言う声が聞こえてきたが、聞こえなかったふりをした。
生憎、今日は天気も悪い。
どんよりと曇った空に、どこからか立ち込める白い霧。
視界は不良で、方角すら見失いそうな程だ。
リュウは無視して歩き続ける。
互いの姿は霧に紛れ、あっという間に見えなくなってしまった。
「本当に…嫌な天気だな…」
やっとアルから離れられた――正しくは無理矢理離れた――リュウは、濃くなっていく霧を感じながらそう呟いた。
だが、もう大分歩いた。
もうすぐ街に抜けられるだろう。
ふと、張りつめていた緊張が解ける。
―――その時だった。
地面を踏み締めていたはずの足元の感覚がガクッと無くなる。
それは一瞬の出来事で。
気付いた時には自分の躯は宙に投げ出され。
否、重力に従っていて。
一気に、滑り落ちるように。
遠くの地面に落ちていった。
直後、躯を襲った衝撃。
痛みを感じる間もなく、リュウは意識を失ってしまっていた―――。
目を開けたらそこは暗闇で。
無意識の内に、自分は死んだのだ、と理解した。
「バーカ」
突然頭上から発せられた声に、ふと意識を向ける。
死してなお、馬鹿にされるとは心外だ。
そう思い、声のする方へ頭を動かすと全身に痛みが走った。
「つぅ…」
―――生きてる…?
「あんたのそんな弱った顔、初めて見たぜ」
続けて発せられる、聞き覚えのある声。
リュウは、ぼやける視界に何度か瞬きを繰り返す。
「お前……」
そこには紛れもない、アルの姿があって。
辺りを見渡すと、霧は晴れ、日も落ちていた。
そして自分は、丁寧に地面に寝かされている状態で。
「大変だったんだぜ?あんたをここまで運んでくるの…」
アルはそう言って、煙草に火をつける。
「急に姿が見えなくなったから…探してやったんだよ。
そしたらあんたが崖下に倒れててさ。仕方なく介抱してやったんだ」
アルは、やけに"仕方なく"を強調しながらそう言い放った。
「そう、か……」
リュウはポツリとそう呟いて、静かに目を閉じた。
「悪かったな……お前がいて良かった…」
リュウの口から出てきた感謝の言葉に、アルは咥えていた煙草を地面に落としてしまった。
「な、何だよ……落っこちて、頭おかしくなったんじゃねぇのか…!?」
「ふっ、そうかもな…」
リュウは気の無い返事をすると、アルの頭を撫でる。
アルは安心したように、黙って俯いて。
うっすらと涙を浮かべた。
「……よしよし、泣くな…」
「っ…ガキ扱いすんなよ…」
「まだガキだろ?」
「うるさぃ…」
「怪我が治ったら…幾らでも可愛がってやるよ」
「っ……」
いくら彼が怪我人でも、自分では敵わないのか。
それは男として、ちょっと悔しいけれど。
それでも。
いつの間にかリュウの存在が、アルの中で大きくなってきていて。
「…た、楽しみにしといてやるよ…」
アルはそう言うと、リュウの隣に横になった。
その顔が泣き顔から、少し微笑んだ表情になっていたことは、闇に紛れて気付かれなかったけれど。
「もう…大丈夫なのか?」
「あぁ。そこらの柔な奴らと一緒にするな」
翌朝、リュウは痛む躯を引きずりつつも、目的地に向かって歩き始めた。
もう当たり前になってしまったのか。
その横をアルが歩いていくのが。
「行くぞ、アル」
「えっ…」
今……名前で……?
アルが呆けてるうちに、リュウはどんどん先に進んで行って。
慌ててそれを追いかけるアルの表情は、嬉しさに綻んでいた。
もう少し、一緒にいたいから―――
END
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