このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

日記

ベラドンナの哀

2020/05/15 19:04
感想
大童先生が未来少年コナンの次に好きだというので
観ましたよ、『哀しみのベラドンナ』。

コナンの次に挙げるぐらいだから
ベラドンナもすごく激しく動くのかなって
予想してたんですが思ってたのと違った。

なんか…全然斜め上だった。

や、ホントに好きな作品として挙げたのかどうかは
分かんないんですが(もしかしたらギャグかも)
コナンとは真逆の作品というか、
まず動きがスゴイってことではなかった。
だって序盤はほとんど動いてないですからね。
ほぼ紙芝居。ビックリした。

『千夜一夜物語』『クレオパトラ』に続く
虫プロのアニメラマ作品なんだけど、
ベラドンナだけ毛色が違くて笑ってしまった。
笑うところは一切無いですけどね。全編シリアスだから。
でもなんか…もう【 表 現 】の方向に
針が振り切れちゃってて、え?マジ?wwwってなる。

これはもはや芸術。
クリムトにアニメ作らせたらこうなるなっていう。


簡単にストーリーをおさらいします。

あるところに若い新婚夫婦がおりました。
結婚したら高額の税金を
領主に納めなきゃいけない制度になっていたので
夫婦は牝牛を一頭売ってそのお金を納付しました。
そしたら領主が「足りない」とおっしゃる。
一頭じゃなく十頭分の値を納めよ、とか言い出す。
2人の家は貧しい。
とてもそんな額は払えないと言って慈悲を請う。
そしたら領主の奥方様は「だったら女が体で払え」と提案。
旦那は捕らえられ、
妻は領主とその部下たちにおいしく頂かれる。
地獄の日々の始まりであった。

ここまでが序章ね。
本当にひどいですね。
このとおり、ひとりの女性が性的に搾取され続けるアニメなんで
苦手な人はほんとに観ないほうが賢明です。
描写は美しいけどやってることはグロ。蝕。
だいたいベルセルクと同じぐらいのグロ。

でも女性がひどい目に遭って悲しむだけの話ではないです。
最後まで観たら「あっ!」ってなるので。
救いとは言えないけれど、一応女性の尊厳は保たれているのかな。

以下から本編観つつ、
思ったことを順に書いていきます。
ネタバレ踏みたくない方はここでさようなら!







*************


冒頭、主題歌が流れるなかスタッフのお名前がポンポンと
出てくるんですが、
この曲の歌詞阿久悠以外の何物でもないなってすぐわかる、
それぐらいザ・昭和で最高。

あとこの始まり方、雰囲気、
めちゃくちゃ『峰不二子という女』なんですよね。
絶対影響受けてるでしょ、小池監督。
小池監督の峰不二子とこのベラドンナの主人公ジャンヌが
そっくりなんですよね。
L峰スピンオフの舞台も確かフランスだったでしょう?
似てるわー、好きだわー。

哀しみのベラドンナだから、
てっきりベラドンナという女性が主人公だと
思うじゃないですか。違いました。
主人公はジャンヌという名の若くて美しい女性です。
そしてその夫はジャン。
ジャンとジャンヌ。

ベラドンナ…ベラドンナ…っていう主題歌が終わると
また曲が始まるんですが
これよく聴くと歌詞が状況説明なんですね。
キャラクターはひとことも喋らない。
絵は動かない。
大きい絵を横にスライドさせてるだけ。
まじかよ、上級者向けすぎる。
ずっと宗教画のターンなんですけど。
ジャンとジャンヌが恋をして結ばれて、
これからはいつまでも2人幸せ❤
っていう能天気な歌が流れるんだ。鬼畜だな。
だってその幸せは秒で吹き飛ぶんだから。

「いにしえよりの掟で、花婿は殿に婚礼の
ご馳走を持参いたしました。」

このご馳走ってのは税金のことなんだけど、
払えないって言ったら代わりに
「花嫁を馳走として殿が賞味する。」
って発想、ゲロすぎる。
なにが「たっぷりと味わうが良い」だよ、ゲスかよ。
殿本人が言うんじゃなくて奥方様が楽しそうに言うのが
性格悪すぎ。まじで終わってるこの国。

城から追い出されるジャン。
背後から聞こえるジャンヌの悲鳴。

ジャンヌが殿に襲われるシーンは痛々しいけど
絵がめちゃくちゃにうめええので美しさがあって
ついジッと見てしまう。

待ってこれテレビでやってたの?深夜?
アウトじゃん。
こんなん中学生のときに観たら色々と歪むのでは??
性癖に刺さるやつやで…。

お食事会()が終わり、ジャンの待つ家に帰宅するジャンヌ。
家っつーかこれ小屋?納屋?
ジャン、にわとりと一緒に待ってるよ?

ほぼ裸でジャンに泣きつくジャンヌ。
ジャンとジャンヌとその横に鶏いるのがシュールだな。

「忘れよう。これからが俺達の出発なんだ…」

少年ジャンプだったらそれ打ち切りのときのセリフだぞ。
もうこの頃からジャン無力で頼りにならないの。
ジャンヌが泣いてすがってるのに、うまく慰めてやれない。

さっきまで止め絵の連続だったのに、
ジャンがジャンヌの肌を撫でるところから急に
作画ぬるぬる動くのやめてくれ。どうした?

これからが俺達の出発だって言ったそばから
ジャンヌの首を絞めて殺してしまいそうになるジャン。

これ、ジャンヌがすぐ起き上がるから
「ああ未遂なんだ」って分かるけど
最初観たときは「え!殺した!?」って驚いたな。


ベラドンナっていうのは植物の名前で属名がAtropa。
食べると死に至るほどの強い毒性を持っているので、
運命の糸を断ち切る死の女神・アトロポスにちなんで
つけられた名前だそう。

夜、ジャンヌが糸車をカラカラして糸を紡いでいるとき
突然妖精さんみたいなのが現れて糸の上に乗るんだけど
だぶんあいつ糸を切りに来た悪魔なんだよな。

悪魔妖精ちゃんはジャンヌの声が聞こえたと言う。

「力が欲しい。誰か私を助けて欲しい。
 そう叫んでたんだ、あなたの心は」
 
「それからこうも言っていた。
  今私を助けてくれたら、私は何だってあげる。
              
  私の魂だって」

「力をあげたいんです、ジャンヌ」

はじめは小さかった妖精ちゃん、
ジャンヌの手の中に潜り込んで上下運動を始めると
サイズが大きくなっていく。
おいこれ男根の妖精だろうが。
身体に布みたいなの巻き付けて顔だけひょっこり出てる
男性器のメタファーだろうが。

男根ちゃん、南くんの恋人みたいに
ジャンヌの服の中にするーっと滑り込んで
ジャンヌの肌を好き放題撫でまわす。
そしてジャンヌをそそのかす。
夫のジャンは憔悴しきっている。
このままでは死んでしまうかも…とかなんとか
詐欺師のようにささやきかける。
力が欲しくないかい?ジャンヌ。

 「私は何も欲しくない。
  
  ただ、あの人を助けたいの…
 
  お願い…ふたりであの人を救いましょう」


悪魔ちゃんとの契約成立です。
糸車がカラカラと音を立てて勢いよく回りだす。

この糸、今気づいたけど
冒頭でも見たな?
一番はじめの地平線と同じ高さの線ですね。
これが第二幕のはじまりってわけですね。


ジャンヌは紡いだ糸を町で売った。
他の人々は飢饉と税の取り立てで苦しい生活を送っているが
ジャンヌの糸は高く売れた。誰もが高くて払えない税金を
ジャンヌの夫ジャンだけは納めることができた。
人々は「ジャンヌに悪魔が憑いた」と噂した。

出世しても領主はジャンを不当に扱った。
そんなジャンを助けたいと願うたびに、
あの男根妖精悪魔ちゃんが夜這いに来て
「力が欲しいんだろう?」とジャンヌを抱いた。
悪魔ちゃんは見るたびにサイズが増していく。
最初は親指ぐらいの大きさだったのに
今は大男のような姿に。
悪魔はジャンヌに力を授ける代わりに
ジャンヌの身体と魂と心を欲した。

ジャンが救えるなら
身体は悪魔に差し出してもいいと応えるジャンヌ。
しかしまだ心は渡さない。


途中からジャンヌが緑の衣装に着替えるんだけど、
緑は世界の王者の色。だから悪魔の色、なんだって。
いよいよオーラ全開のジャンヌ。
領主を含めた町の男たちがみな戦争に出て行っている間、
町の経済を思うがままに動かしていたのはジャンヌ。
町に残された女たちは
城の奥方様よりもジャンヌのほうを恐れ、尊敬していた。
覇権ですね。

そのうち戦争が終わり、領主が城に帰ってきた。

「殿様、お留守の間にこの国では上と下が
      さかさまになってしまったのですわ」

もうこれ革命ですね?
上と下がひっくり返ることを革命というんだ。
つまりあの悪魔がジャンヌに与えていた力こそが
『世界を革命する力』というわけです。

これが気に喰わない領主と奥方は
ジャンヌを火あぶりにしようと提案するも
ジャンヌは世界の果てみたいな場所まで逃亡。
そして巨大な巨大なあの悪魔と再会する。

「さあ!俺の女房!お前は何が欲しい? 
   何でも叶えてやるぞ! 何がしでかしたい!?」

「……悪いことがしたいわ…」

ねえあの清純だったジャンヌが…
ジャンを救うことだけを願っていたジャンヌが…

このあとジャンヌと悪魔氏の
激しい行為が始まるんだけど
かなり長い時間ヴィレッジヴァンガードみたいな
とりとめもないサブカル映像が繰り返されるんだけど
一体何を見せられているんだ感が強くて笑う。


 「悪魔に身を任せた私は
  皺だらけの魔女になったはずだわ。
  私の髪の毛は憎しみの蛇。
  肌は卑しいカエルそっくり。
  流れる血は恨みで真っ黒な炎。
  嘘よ、この姿は嘘。
  私は騙されているのよ。

  私は…恐ろしい女になりたい。

  誰もが顔を背けて逃げ出すような、
  そうでなけりゃいけないの。
  怒りや憎しみを忘れたくないの。」


 「怒りや憎しみや恨みが
  醜いものだと誰が決めた?
  お前は美しくなったのだ、ジャンヌ。
  そうだ…まるで恋をしているように。
  可愛い女よ…お前は神よりも美しい…」

ここのジャンヌと悪魔の会話、
シェークスピアの詩のように美しいな。好き。


そのころ町では黒死病が大流行。
黒い影が国を飲み込んで人々がバタバタ倒れていくさまは
つい最近までニュースで見ていたものと同じですね。

ところが、感染して死にかかっている男を
死の淵から助け出す者がいた。それがジャンヌだ。

ジャンヌがくれるお酒と葉っぱのおかげで
人々はアゲアゲ、ペストなどもう知らん。
人里離れた荒野の向こうで飲めや歌えの乱痴気騒ぎ。

この、病を治すってところがいかにも魔女っぽいですよね。
しかも毒草といわれてるものから薬を作るんだから。
この毒草がベラドンナです。
ベラドンナ、美しい女という意味です。
ベラドンナは魔女が栽培し、人を殺す毒や空を飛ぶための
秘薬などに使われていたそうです。

人々はジャンヌの力に救われた。
ちょっとヤバい人智を超えた力によって。

だけど町の領主と奥方はこれを許さなかった。
民衆が見ている前で、
ジャンヌの火あぶりの刑が執行される。

十字の梁に括り付けられるときの
鎖のじゃらじゃらした音が印象的。

足元に火を付けられ、煙が立ちのぼる。
沈黙を守っていたジャンが
領主の前に飛び出して刑をやめさせようとするが、
城の兵士たちによって串刺しにされ死んでしまう。
見ていた町の男たちは領主への反感と怒りで震えた。
今にも飛び掛かりそうな雰囲気。
が、
領主と兵士たちに睨まれただけで縮こまってしまった。

ジャンヌは炎に包まれながらジャンの最期を見ていた。

焼けていくジャンヌを見つめる町の女たち。
ジャンヌに救われ、ジャンヌを崇拝していた女たち。

ここで思わず噴いてしまったんだけど、
広場に集まってジャンヌの焼けるのを見ていると、
突然女の顔がジャンヌの顔になるの。
何を言ってるのか分からねえと思うが
とにかく、そこに集まっている何十人という女たちの顔が
一斉にジャンヌの顔になるんだよ。
シュールでしょ?笑っちまうぞ。
でも最後まで見るとこのシーンの意味も分かるんだ。

ジャンヌの張り付けられていた十字架が焼け崩れて
場面が転換する。



   『時はすぎた』


  1789年7月14日

  バスチイユ監獄襲撃に始まったフランス革命の

  先頭に立ったのは


   女たちであった



ここでね!
ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』の絵が
どーんとアップで映るの!勇ましい音楽とともに!
伝わるかな、女性が旗を掲げてるあの有名な絵画ですよ。

もうこのラストシーンはグッッと来ますね。
このあとに主題歌がまた流れるのがもうさ…歌詞…
泣けちゃう……

あの火刑のとき、
女たちの顔がジャンヌの顔になったのは
ジャンヌの魂が
その女たちに受け継がれたからでしょうね。
つまりこれは意識の革命。

魔女と呼ばれ、民衆から恐れられていた女性が
民衆に革命を起こして自分は死んでしまうお話。哀しいね。
哀しいけどめちゃくちゃ女性賛歌。

大童先生はラストシーンがバチィッと決まってる映画が
好きだって言ってたけど、確かにこれは決まってるな。

哀しみのベラドンナ、副題は la sorcière。
フランス語で魔女って意味ですね。
ジャンヌばかり魔女魔女って言われてたけど、
領主の奥方様のほうがよほど残虐な魔女だったよなあ。

コメント

コメントを受け付けていません。