日記
裏の窓の秘密
2020/05/06 04:14考察感想
こんな事絶対人には言えないんだけど、
私は窓の外から他人の家の中を覗くのが趣味です。
例えば旅行の際にホテルに泊まるときは
必ず双眼鏡を持参することにしてるんだが
これを何に使うのかというと
部屋の窓から外の景色を眺めるために使います。
「景色」というのはまあオブラート表現で、
実際に見てるのは知らない人の家の窓です。
夜になって灯りのついている部屋なんか見ると
ああ人が生活してる…なんて思って興奮します。
つまり、窓の中に見える他人の生活に
興味津々というわけです。
しかし今は自粛生活で旅行にも行けない状況。
こんな中でどうやって覗き欲を満たせばよいのか。
それを解決する最良コンテンツがありました。
映画です。
今回ご紹介するのはサスペンス映画の巨匠
アルフレッド・ヒッチコック監督の映画作品『裏窓』です。
1954年に公開されたものなのでだいぶ古いですね。
でもこれ、
まじで覗き趣味のオタクが
よだれ垂らして喜ぶような映像作品だし
今の STAY HOME の状況下で
観るべき傑作のひとつだと思うので、
ちょいと感想と解説をしたためてみたいと思います。
まず、ネタバレ無しのざっくりとしたあらすじを。
主人公の男性ジェフは片足を骨折して車椅子生活している。
元はカメラマンだったが骨折のせいでまともに仕事もできず、
毎日自宅アパートの窓から、
向かいのアパートの住人を眺めることだけが日課だった。
ある雨の夜、ジェフは向かいに住むセールスマンの男が
深夜にトランクケースを持って部屋から出ていくのを目撃する。
雨の中、出て行っては戻り、また出て行くを繰り返している。
男は何かを部屋から運び出している様子だ。
次の日から、
そのセールスマンの男と一緒に暮らしていた妻の姿が
見当たらなくなった。
男と妻は日頃から喧嘩ばかりしていた。
ジェフは、セールスマンの男が妻を殺害したのではないかと疑い、
自宅の窓からその男の部屋を観察することにした。
このあとの感想文はネタバレを含みます。
これから観るかもしれないって方は読まないで。
***********
冒頭から最高の窓!!!!!
これ!!!!!!
おれの見たかった窓がこれ!!!!
ってぐらい理想的な窓で大興奮しました。
古びたレンガの壁、開けっ放しの窓、
部屋の中に見える人々の生活感、
ベランダで寝る夫婦、下着姿のバレエダンサー
アパートの向こうの雑多な通り…
もうこれ永遠に観てられるやつ。
ここに住みたい。
住みたいけど日中の室温が90℃もあるから住みたくない。
外国のひとって部屋のカーテン閉めないよなーって
前から思ってたけど、あんなに酷暑ならまあ閉めないよね。
ベランダに布団ひいて寝るぐらいだからよほどだよ。
でもこんな古い映画の中で理想的な覗きができるなんて
思いもよらなかったから感激です。
さすがやでヒッチコック。ヒッチコックとハイタッチ。
ヒッチコック監督がちらちらとカメオしてるのカワイイです。
主人公ジェフは外出できず仕事もで出来ずでとにかく部屋で暇を
持て余していて今の我々そっくりで共感しちゃいます。
でもまあ部屋で一人というわけではなく、
骨折が治るまでは看護師のステラおばさんが身の周りの世話をしに
来てくれるんですが、このステラおばさんが「関西出身ですか?」
ってぐらいトークがキレッキレでユーモアがある。好き。
ジェフにはリザという恋人がいる。
美人でお金持ちのお嬢さんでファッション関係の仕事をしていて
ジェフのことをとても愛している。
ジェフもリザのことを愛してはいるけれど、ジェフにとっては
このリザとの関係が足の骨折の次に悩みの種になっている。
というのも、ジェフは骨折が治ったらまたカメラマンに復帰して
世界を旅してまわりたいと思っているんだけど、
リザのほうはこれ機に腰を据えて欲しいと、
つまり自分との結婚を真剣に考えて、
今後は職種を変えて欲しいと思っているわけです。
ふたりは考え方の違いで何度か言い争いになるんだけど、
最後はアレ…結局結婚することにしたのかな?
説明がなかったから推測しか出来ないんだけど、
片足だけの骨折だったジェフはラストシーンで両足骨折しちゃうから
どっちにしろ仕事復帰はまだまだ出来ないものね。
たぶん、リザの気の強さを目の当たりにしたから、
ジェフも観念してリザの要求に従うってことなんだと思う。
この映画、向かいの部屋で
殺人事件が起きたのか起きてないのかが気になってしまって
それ以外の、つまりジェフとリザの口論の部分が
鬱陶しく感じてしまうんだけど
映画の軸になってるのはこのジェフの「現実を見たくない」という
逃げの姿勢の是非なんですよね。
いつまでも自分の好きな事を仕事にしていたい。
彼女と別れるのはいやだけれど結婚したいわけではない。
リザはジェフに心酔しているようなんだけれど、正直、観客側からみると
ジェフのどこが魅力的なのかさっぱり解らん。
自分の考えが他人より正しいと信じて疑わないし
(劇中では「長く部屋に閉じ籠っているせいだ」と言われる)
女性のことは花瓶に生ける花か何かと思っていて
視覚的に自分を楽しませてくれれば満足し、
その花を育てる気はさらさら無い。
ちょっとこれ不快じゃない?
私は観てて不快だったよジェフ。
彼女が部屋に泊まりに来ても向かいの殺人犯(仮)を望遠レンズで
覗いてるような男ですよ? イラっとしますよね。
だから最後に両足折るのはその報いなんですよ。
遠くの非現実にばかり気を取られているから
そういう事になるんだぞっていう。
なんか、こんな風に書くとこの映画面白くねえのかよって感じが
しちゃうかもなんですけど、
ストーリー自体はめちゃくちゃ面白いですよ。
殺人が行われたかもしれない、ってだけで、
その犯行自体は映像として映されないのでグロは無い。
ただただ、何かを隠しているかもしれない向かいの住人を
カメラのレンズ越しにこっそり覗くワクワク感はハンパない。
だけど、ワクワクして友人の刑事に
「向かいの男が妻を殺して隠したかもしれない!」と訴えても
その刑事さんが「考えすぎだ」と言って取り合ってくれないから
そのたびにガッカリしてしまう。
リザもステラおばさんもジェフの妄想を真に受けてしまって
一緒に向かいの男・ラーズを観察するようになるんだけど、
友人のドイル刑事だけが全然相手にしてくれない。
2回観ると、このときのドイルの態度は
無関心ではなく警告だったんじゃないかって思えるけどね。
これ以上首を突っ込むなっていう。
ドイル刑事に殺人事件の可能性を否定され、
やっぱり勘違いだったのかもしれないな…と、
窓にブラインドを下ろしてしまうシーン。
部屋の外が見えなくなってしまっただけで、
一気に興奮が冷めてしまうから演出が上手い。
観客もそれまで「本当に殺したパターンか、
もしくはジェフの勘違いパターンか」って
想像ふくらませて楽しんでたのに、
刑事に論破されてその想像がしぼんでしまう展開、
悔しいけど上手い。
がっかりしちゃだめ。奥さんは無事だったんだから。
そう言ってリザが慰めてくれた直後、窓の外で悲鳴が上がる。
この、事態が急転する感じ!たまらない!
急いでブラインドをあげると、
向かいのアパートに住む老婦人がベランダから身を乗り出して
なにやら叫んでいる。
「誰か落ちたのか?」
叫び声を聞きつけて、近所の住民が次々にベランダに出てくる。
老婦人の指差すほうを見ると、地面に愛犬が転がっているのが見える。
あの老婦人はいつも、カゴに乗せた愛犬を
ベランダからロープで下して、外に散歩に出していたのだ。
散歩が終わったあと、愛犬を回収しようとベランダに出たときには
すでに愛犬は首の骨を折られて、何者かに殺されていた。
泣き叫ぶ老婦人。
ババアうざ。とでも言うように、
近所の住民は哀れみもせず部屋の中へ戻っていく。
そこでジェフは気付いた。
例の男ラーズだけが、窓から顔を出さなかったのだ。
ラーズが犬を殺したのか?
なぜ?
それは犬がラーズの花壇を掘り返していたから。
花壇には最近花を植え替えたような痕跡があった。
何かを花壇の土の中に埋めたので、
その上の花を植え替える必要があったのではないか。
犬はその花壇に埋められているモノの匂いを気にしていた。
気にされては困るモノが埋められているので、ラーズは犬を始末した?
やはりあの男は怪しい。
ここ、解説ブログで触れてる人見なかったけど
『花』というのは「女性」の暗喩であります。
ラーズの妻は病気を患っていてベッドの上で生活をしていた。
甲斐甲斐しく妻の世話をしていたが口論は絶えない。
ラーズが妻以外の誰かに電話をしているところを見られ、
妻が激怒するシーンがある。
妻を殺害したと思われる日、
ラーズが女性を連れて部屋を出ていく様子が見られた。
第三者を妻に見立てて、
妻がまだ生きているように偽装したと思われる。
つまり、花壇から引っこ抜いた花は元妻。
植え替えた花は新しい女。
という、ズバリ事件の真相みたいなものを
読み取ることができるわけです。
ジェフがリザのことを観賞用の花として扱っている様子との
対比になってるわけですね。
愛でるだけならカワイイけど、
育てるようになったらしんどいぞっていう
メッセージでもあるのかもしれないですね。
どうしんどいかっていうのが
次からの展開で明らかになります。
まずリザとステラおばさんが、
花壇に埋められていたものが何なのか知りた過ぎて
夜中にラーズの花壇に凸してしまう。
下手をすれば2人もあの犬のように
首の骨を折られてしまうかもしれないのに。
もちろんジェフは足がアレなので
部屋の窓から2人の様子を見守ることしかできない。
不安でたまらないジェフ。
ところが、
花壇の土を掘っても掘っても何も出てこない。
好奇心に駆られたリザは当初の予定を変更。
ジェフの制止も聞かずに、
ベランダをよじ登って、窓からラーズの部屋に侵入する。
ここでラーズが部屋に戻ってきたらもうおしまい。
ジェフはもう気が気じゃない。
ここね、リザが部屋の中を物色してる間に
ラーズが玄関の前までやって来ちゃうんだけど、
ドキドキ感がすんごいの。
見てることしか出来ないの、こっちは。
声を出して「リザー!うしろー!」って言いたいけど
もうラーズは玄関のドア開けてるし部屋の異変に気付いてるし
リザが寝室に隠れてることもすぐ見抜かれてしまって
あっという間に取り押さえられてしまう。
運よくそこでジェフが電話で呼んだ警察が駆けつけるんだけど、
リザは不法侵入の罪で身柄を拘束されることになる。
でもお手柄。
ラーズの部屋で殺された奥さんの指輪を見つけたのだ。
ラーズは「妻は旅行に出掛けている」と話していたが、
結婚指輪や宝石類を
部屋に置いていくのはおかしいとリザは推理していた。
「お気に入りのバッグと指輪と宝石は枕元に置いておきたいはず。
それを自宅に置いて出掛けるなんて…」と。
今度こそ妻殺害の証拠を掴んだのでは!?
リザを釈放してもらうため、
ジェフはステラおばさんに現金を握らせて警察署に向かわせる。
その後すぐにドイル刑事に電話。
しかしドイル刑事は不在だったので
ベビーシッターの女に伝言。
証拠をつかんだのですぐにアパートまで来て欲しい、と。
ジェフは部屋の中でひとり待つ。
折り返し電話がくる。
相手はドイルだろうと思い、
「今部屋にいる!早く来てくれ」とまくしたてる。が、
電話の相手は無言。
そこでジェフの背中に悪寒が走る。
相手はジェフが部屋にいることを確認した。
部屋の外で足音がする。
足音はゆっくりと部屋のドアまで近付いてくる。
ここマジで怖かったーーーーー!!!!
今までは!全部!
向こうのアパートで!
カメラのレンズの向こう側で起きていた事件が!!
気付いたら自分の背後にまで迫っていた恐怖!
ヤバくないかこの怖さ、
ラーズだよラーズ。
妻殺したラーズが今部屋のドアの向こうにいるの。
対岸の火事が飛び火してきちゃったの。
しかもドアに鍵かかってないの。
ドア簡単に開いちゃうの。
これってさー、
こっち側の人間も指差されてるのと同じですよね。
そこでそうやって安全なところで映画観てるお前、
お前の後ろにももうすぐ行くからなって。
ジェフだって事件のことを自分とは無関係だからこそ
どこか楽しんで観察してたんだよ。
それこそフィクションを観るような気持ちで。
まさか自分に危害が及ぶなんて考えもせず、無責任に。
いててて、これ痛いですね。
そういう離れた所から野次入れるような連中を
たしなめるための映画って感じしますよね。
フィクションに仕返しされるっていうか。
フィクションが実感を伴って
殴りかかってくるぞっていう恐怖。
ジェフはレンズ越しに非現実を追い求め続けていたけど、
すぐ背後を振り返れば現実が迫ってきていて、
レンズの中の世界に夢中になり過ぎるあまり
すぐそばまで来ている現実の恐ろしさ・厳しさに
気付かなったわけですね。
うーん、怖い。
部屋に入ってきたラーズに掴みかかられ、
窓の外から突き落とされるジェフ。
もうこれ自業自得としかいいようがない。
お前が深淵を覗くとき、
深淵もまたお前のことを覗いているのだ。
このときもう片方の足も骨折しちゃうわけですね。
命に別状なくてよかったけども。
あと、落ちるときにはじめて
ジェフが住むアパートの壁面がカメラに映り込むんですけど、
それまでずっとこっち側のアパートは
映さないようにしてたから
これも何か意図した演出なんでしょうね。
ラーズが本当に妻を殺害したかどうかは
映画の中では明確に語られない。
察してくれの精神みたい。
つまり、殺人があったかどうかは
大して問題ではないということなんですよね。
主題は別のところにあると。
これ以上怖いのは観れないから、
ヒッチコック作品はこれでおわりにしよう。
まじで心臓がキュッてなる。
でも総括すると、
覗きは楽しい(#^.^#)
私は窓の外から他人の家の中を覗くのが趣味です。
例えば旅行の際にホテルに泊まるときは
必ず双眼鏡を持参することにしてるんだが
これを何に使うのかというと
部屋の窓から外の景色を眺めるために使います。
「景色」というのはまあオブラート表現で、
実際に見てるのは知らない人の家の窓です。
夜になって灯りのついている部屋なんか見ると
ああ人が生活してる…なんて思って興奮します。
つまり、窓の中に見える他人の生活に
興味津々というわけです。
しかし今は自粛生活で旅行にも行けない状況。
こんな中でどうやって覗き欲を満たせばよいのか。
それを解決する最良コンテンツがありました。
映画です。
今回ご紹介するのはサスペンス映画の巨匠
アルフレッド・ヒッチコック監督の映画作品『裏窓』です。
1954年に公開されたものなのでだいぶ古いですね。
でもこれ、
まじで覗き趣味のオタクが
よだれ垂らして喜ぶような映像作品だし
今の STAY HOME の状況下で
観るべき傑作のひとつだと思うので、
ちょいと感想と解説をしたためてみたいと思います。
まず、ネタバレ無しのざっくりとしたあらすじを。
主人公の男性ジェフは片足を骨折して車椅子生活している。
元はカメラマンだったが骨折のせいでまともに仕事もできず、
毎日自宅アパートの窓から、
向かいのアパートの住人を眺めることだけが日課だった。
ある雨の夜、ジェフは向かいに住むセールスマンの男が
深夜にトランクケースを持って部屋から出ていくのを目撃する。
雨の中、出て行っては戻り、また出て行くを繰り返している。
男は何かを部屋から運び出している様子だ。
次の日から、
そのセールスマンの男と一緒に暮らしていた妻の姿が
見当たらなくなった。
男と妻は日頃から喧嘩ばかりしていた。
ジェフは、セールスマンの男が妻を殺害したのではないかと疑い、
自宅の窓からその男の部屋を観察することにした。
このあとの感想文はネタバレを含みます。
これから観るかもしれないって方は読まないで。
***********
冒頭から最高の窓!!!!!
これ!!!!!!
おれの見たかった窓がこれ!!!!
ってぐらい理想的な窓で大興奮しました。
古びたレンガの壁、開けっ放しの窓、
部屋の中に見える人々の生活感、
ベランダで寝る夫婦、下着姿のバレエダンサー
アパートの向こうの雑多な通り…
もうこれ永遠に観てられるやつ。
ここに住みたい。
住みたいけど日中の室温が90℃もあるから住みたくない。
外国のひとって部屋のカーテン閉めないよなーって
前から思ってたけど、あんなに酷暑ならまあ閉めないよね。
ベランダに布団ひいて寝るぐらいだからよほどだよ。
でもこんな古い映画の中で理想的な覗きができるなんて
思いもよらなかったから感激です。
さすがやでヒッチコック。ヒッチコックとハイタッチ。
ヒッチコック監督がちらちらとカメオしてるのカワイイです。
主人公ジェフは外出できず仕事もで出来ずでとにかく部屋で暇を
持て余していて今の我々そっくりで共感しちゃいます。
でもまあ部屋で一人というわけではなく、
骨折が治るまでは看護師のステラおばさんが身の周りの世話をしに
来てくれるんですが、このステラおばさんが「関西出身ですか?」
ってぐらいトークがキレッキレでユーモアがある。好き。
ジェフにはリザという恋人がいる。
美人でお金持ちのお嬢さんでファッション関係の仕事をしていて
ジェフのことをとても愛している。
ジェフもリザのことを愛してはいるけれど、ジェフにとっては
このリザとの関係が足の骨折の次に悩みの種になっている。
というのも、ジェフは骨折が治ったらまたカメラマンに復帰して
世界を旅してまわりたいと思っているんだけど、
リザのほうはこれ機に腰を据えて欲しいと、
つまり自分との結婚を真剣に考えて、
今後は職種を変えて欲しいと思っているわけです。
ふたりは考え方の違いで何度か言い争いになるんだけど、
最後はアレ…結局結婚することにしたのかな?
説明がなかったから推測しか出来ないんだけど、
片足だけの骨折だったジェフはラストシーンで両足骨折しちゃうから
どっちにしろ仕事復帰はまだまだ出来ないものね。
たぶん、リザの気の強さを目の当たりにしたから、
ジェフも観念してリザの要求に従うってことなんだと思う。
この映画、向かいの部屋で
殺人事件が起きたのか起きてないのかが気になってしまって
それ以外の、つまりジェフとリザの口論の部分が
鬱陶しく感じてしまうんだけど
映画の軸になってるのはこのジェフの「現実を見たくない」という
逃げの姿勢の是非なんですよね。
いつまでも自分の好きな事を仕事にしていたい。
彼女と別れるのはいやだけれど結婚したいわけではない。
リザはジェフに心酔しているようなんだけれど、正直、観客側からみると
ジェフのどこが魅力的なのかさっぱり解らん。
自分の考えが他人より正しいと信じて疑わないし
(劇中では「長く部屋に閉じ籠っているせいだ」と言われる)
女性のことは花瓶に生ける花か何かと思っていて
視覚的に自分を楽しませてくれれば満足し、
その花を育てる気はさらさら無い。
ちょっとこれ不快じゃない?
私は観てて不快だったよジェフ。
彼女が部屋に泊まりに来ても向かいの殺人犯(仮)を望遠レンズで
覗いてるような男ですよ? イラっとしますよね。
だから最後に両足折るのはその報いなんですよ。
遠くの非現実にばかり気を取られているから
そういう事になるんだぞっていう。
なんか、こんな風に書くとこの映画面白くねえのかよって感じが
しちゃうかもなんですけど、
ストーリー自体はめちゃくちゃ面白いですよ。
殺人が行われたかもしれない、ってだけで、
その犯行自体は映像として映されないのでグロは無い。
ただただ、何かを隠しているかもしれない向かいの住人を
カメラのレンズ越しにこっそり覗くワクワク感はハンパない。
だけど、ワクワクして友人の刑事に
「向かいの男が妻を殺して隠したかもしれない!」と訴えても
その刑事さんが「考えすぎだ」と言って取り合ってくれないから
そのたびにガッカリしてしまう。
リザもステラおばさんもジェフの妄想を真に受けてしまって
一緒に向かいの男・ラーズを観察するようになるんだけど、
友人のドイル刑事だけが全然相手にしてくれない。
2回観ると、このときのドイルの態度は
無関心ではなく警告だったんじゃないかって思えるけどね。
これ以上首を突っ込むなっていう。
ドイル刑事に殺人事件の可能性を否定され、
やっぱり勘違いだったのかもしれないな…と、
窓にブラインドを下ろしてしまうシーン。
部屋の外が見えなくなってしまっただけで、
一気に興奮が冷めてしまうから演出が上手い。
観客もそれまで「本当に殺したパターンか、
もしくはジェフの勘違いパターンか」って
想像ふくらませて楽しんでたのに、
刑事に論破されてその想像がしぼんでしまう展開、
悔しいけど上手い。
がっかりしちゃだめ。奥さんは無事だったんだから。
そう言ってリザが慰めてくれた直後、窓の外で悲鳴が上がる。
この、事態が急転する感じ!たまらない!
急いでブラインドをあげると、
向かいのアパートに住む老婦人がベランダから身を乗り出して
なにやら叫んでいる。
「誰か落ちたのか?」
叫び声を聞きつけて、近所の住民が次々にベランダに出てくる。
老婦人の指差すほうを見ると、地面に愛犬が転がっているのが見える。
あの老婦人はいつも、カゴに乗せた愛犬を
ベランダからロープで下して、外に散歩に出していたのだ。
散歩が終わったあと、愛犬を回収しようとベランダに出たときには
すでに愛犬は首の骨を折られて、何者かに殺されていた。
泣き叫ぶ老婦人。
ババアうざ。とでも言うように、
近所の住民は哀れみもせず部屋の中へ戻っていく。
そこでジェフは気付いた。
例の男ラーズだけが、窓から顔を出さなかったのだ。
ラーズが犬を殺したのか?
なぜ?
それは犬がラーズの花壇を掘り返していたから。
花壇には最近花を植え替えたような痕跡があった。
何かを花壇の土の中に埋めたので、
その上の花を植え替える必要があったのではないか。
犬はその花壇に埋められているモノの匂いを気にしていた。
気にされては困るモノが埋められているので、ラーズは犬を始末した?
やはりあの男は怪しい。
ここ、解説ブログで触れてる人見なかったけど
『花』というのは「女性」の暗喩であります。
ラーズの妻は病気を患っていてベッドの上で生活をしていた。
甲斐甲斐しく妻の世話をしていたが口論は絶えない。
ラーズが妻以外の誰かに電話をしているところを見られ、
妻が激怒するシーンがある。
妻を殺害したと思われる日、
ラーズが女性を連れて部屋を出ていく様子が見られた。
第三者を妻に見立てて、
妻がまだ生きているように偽装したと思われる。
つまり、花壇から引っこ抜いた花は元妻。
植え替えた花は新しい女。
という、ズバリ事件の真相みたいなものを
読み取ることができるわけです。
ジェフがリザのことを観賞用の花として扱っている様子との
対比になってるわけですね。
愛でるだけならカワイイけど、
育てるようになったらしんどいぞっていう
メッセージでもあるのかもしれないですね。
どうしんどいかっていうのが
次からの展開で明らかになります。
まずリザとステラおばさんが、
花壇に埋められていたものが何なのか知りた過ぎて
夜中にラーズの花壇に凸してしまう。
下手をすれば2人もあの犬のように
首の骨を折られてしまうかもしれないのに。
もちろんジェフは足がアレなので
部屋の窓から2人の様子を見守ることしかできない。
不安でたまらないジェフ。
ところが、
花壇の土を掘っても掘っても何も出てこない。
好奇心に駆られたリザは当初の予定を変更。
ジェフの制止も聞かずに、
ベランダをよじ登って、窓からラーズの部屋に侵入する。
ここでラーズが部屋に戻ってきたらもうおしまい。
ジェフはもう気が気じゃない。
ここね、リザが部屋の中を物色してる間に
ラーズが玄関の前までやって来ちゃうんだけど、
ドキドキ感がすんごいの。
見てることしか出来ないの、こっちは。
声を出して「リザー!うしろー!」って言いたいけど
もうラーズは玄関のドア開けてるし部屋の異変に気付いてるし
リザが寝室に隠れてることもすぐ見抜かれてしまって
あっという間に取り押さえられてしまう。
運よくそこでジェフが電話で呼んだ警察が駆けつけるんだけど、
リザは不法侵入の罪で身柄を拘束されることになる。
でもお手柄。
ラーズの部屋で殺された奥さんの指輪を見つけたのだ。
ラーズは「妻は旅行に出掛けている」と話していたが、
結婚指輪や宝石類を
部屋に置いていくのはおかしいとリザは推理していた。
「お気に入りのバッグと指輪と宝石は枕元に置いておきたいはず。
それを自宅に置いて出掛けるなんて…」と。
今度こそ妻殺害の証拠を掴んだのでは!?
リザを釈放してもらうため、
ジェフはステラおばさんに現金を握らせて警察署に向かわせる。
その後すぐにドイル刑事に電話。
しかしドイル刑事は不在だったので
ベビーシッターの女に伝言。
証拠をつかんだのですぐにアパートまで来て欲しい、と。
ジェフは部屋の中でひとり待つ。
折り返し電話がくる。
相手はドイルだろうと思い、
「今部屋にいる!早く来てくれ」とまくしたてる。が、
電話の相手は無言。
そこでジェフの背中に悪寒が走る。
相手はジェフが部屋にいることを確認した。
部屋の外で足音がする。
足音はゆっくりと部屋のドアまで近付いてくる。
ここマジで怖かったーーーーー!!!!
今までは!全部!
向こうのアパートで!
カメラのレンズの向こう側で起きていた事件が!!
気付いたら自分の背後にまで迫っていた恐怖!
ヤバくないかこの怖さ、
ラーズだよラーズ。
妻殺したラーズが今部屋のドアの向こうにいるの。
対岸の火事が飛び火してきちゃったの。
しかもドアに鍵かかってないの。
ドア簡単に開いちゃうの。
これってさー、
こっち側の人間も指差されてるのと同じですよね。
そこでそうやって安全なところで映画観てるお前、
お前の後ろにももうすぐ行くからなって。
ジェフだって事件のことを自分とは無関係だからこそ
どこか楽しんで観察してたんだよ。
それこそフィクションを観るような気持ちで。
まさか自分に危害が及ぶなんて考えもせず、無責任に。
いててて、これ痛いですね。
そういう離れた所から野次入れるような連中を
たしなめるための映画って感じしますよね。
フィクションに仕返しされるっていうか。
フィクションが実感を伴って
殴りかかってくるぞっていう恐怖。
ジェフはレンズ越しに非現実を追い求め続けていたけど、
すぐ背後を振り返れば現実が迫ってきていて、
レンズの中の世界に夢中になり過ぎるあまり
すぐそばまで来ている現実の恐ろしさ・厳しさに
気付かなったわけですね。
うーん、怖い。
部屋に入ってきたラーズに掴みかかられ、
窓の外から突き落とされるジェフ。
もうこれ自業自得としかいいようがない。
お前が深淵を覗くとき、
深淵もまたお前のことを覗いているのだ。
このときもう片方の足も骨折しちゃうわけですね。
命に別状なくてよかったけども。
あと、落ちるときにはじめて
ジェフが住むアパートの壁面がカメラに映り込むんですけど、
それまでずっとこっち側のアパートは
映さないようにしてたから
これも何か意図した演出なんでしょうね。
ラーズが本当に妻を殺害したかどうかは
映画の中では明確に語られない。
察してくれの精神みたい。
つまり、殺人があったかどうかは
大して問題ではないということなんですよね。
主題は別のところにあると。
これ以上怖いのは観れないから、
ヒッチコック作品はこれでおわりにしよう。
まじで心臓がキュッてなる。
でも総括すると、
覗きは楽しい(#^.^#)