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小話

 幼い頃から星空だけが友達だった。街灯も少ない田舎で育った僕には同年代の友達なんか近くにいなかった。学校は1学年に1人か2人、僕の代は1人。1つ上に女の子が居たけれど、家も遠かったから遊ぶ事なんてなかったし。
 ニュースでは、やれ人身事故だ、やれ都会のスイーツだとか、とにかく都会を映像で写すことが多い。キラキラと光るネオン街やライトアップされた夜景を見ても、僕は自然と綺麗だとは思えなかったのだ。何故なら星空の方が綺麗だと知っていたから。
 望遠鏡を誕生日に買ってもらってからは有名なアーティストを真似て、望遠鏡を肩に担いで覗き込んだ。宇宙に手が届くんじゃないか、そんな錯覚すら覚えたのは幼い頃の話。

「落ちてきたらいいのに…」

 手を伸ばしたって星は掴めない。だから星から落ちてきてくれれば僕は幸せなのに。キラキラの宝石みたいな、そんな。けれど都会より田舎の方が光は少ない、星が綺麗に見えるよと言われた事はあるが昔からこれしか見ていないのだ。
 今日の空は泣いていた。年に数回の大泣きの日で、僕は芝生に寝転がって泣いている空をじっと眺めている。夏の大三角の隣から星の涙を流す漆黒の空はどこか寂しく思えて、だから思わず両の腕を広げてしまった。
 泣かないで、あぁでも泣いて欲しい。その涙すら綺麗だよ。世界一綺麗だ、けれどそんな在り来りな言葉に当てはめてしまうのが申し訳ない。

「…結婚しよう」

 ああ、これだ。最上級の綺麗はこれになるのではないか。僕は星空にプロポーズをしてしまった。
 空は一晩中涙を流し続け、僕の想いに応えることはなかった。
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