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5章 紫の外套

離れに住まわされた10にも満たない子供だったフィルマーはその日、全く違う役割を得ることになった。
「今日からお前はマクラフリン家の長男としての教育を受けることになる」
異論は認めないとその男は言う。後ろに控える暗い赤のコートを着た2人も恐ろしかったが、この男ほどではなかった。噂に聞いていた父だとわかっていたが、必要無くなれば我が子でさえ捨てる者であるという認識は拭えなかった。
僕の生まれは噂話の大好きなメイド達が口にするのを聞いていたが、噂の範疇を超えない。その話によれば僕は上位貴族の娘とマクラフリン家両方の長男だと。押し込められているこの離れはその上位貴族の持ち物だとか.......。若気の至りの副産物。とにかく生きていくのには困らない程度の衣食住は与えられているし、身の回りを世話するメイドだっている。外に出れず、何も知れないこと以外に不満はなかった。


フィルマーはこの時、リカルドをただ邪魔者としか思えなかったと後悔した。自分は覚えも早く、家が出来てから随一の才能だと周りに褒められる。なにより商人の家柄の子供たちの中で目立つ容姿と家の出だったことで注目度は誰よりも優れているという自負に置き換わっていた。
「ヴィスコンティ家の?」
「ええ、なんでもシュバリィの名を名乗って大きなレッドスピネルを身につけている子供だったとか」
「嫌な噂ね。あの石って当主が継ぐって話でしょ?」
シッ!という音と共に話は終わり。後にそれは養子であったリカルドが頭角を現したという内容だったことを知ったが、フィルマーが表舞台の準備を整えた頃には既に難攻不落の社会的壁を築いていた。

引き取ってからというもの、教育に手を抜かなかった現当主の実父には感謝した。義母と義姉は不憫に思っていたようだが、所詮共に過ごすのは家という空間の中だけであり、滅多に部屋を共有することの無い相手に同情された所で何も感じなかったのが本心。少しばかり派手に狙われるからという理由も納得出来る血筋を隠そうともされていないのだから賢い対応と言えるだろう。僕自身それ以外に対してすることもなかったし、何より放っておかれるより随分とよかった。時折外には顔合わせだと言われて出して貰えたし、護衛を付ければ外に出るのも割とすんなり受け入れられた。これに関しては他にも隠し子が他に居るのかもしれなかったが、それはソレだ。田舎の田畑があるような所の運営も任されて人を雇う許可も得た。当主は僕の能力をどう評価していたのかは定かではないが、ある日唐突に一族を護るもの達の話を始めるほどには認めざる得なかったのだろう。
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