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5章 紫の外套

暗く淀んだ地下の舞台の上で2つの布をかけられた檻の前、立派な腹をした男が声を張り上げていた。ご覧下さい、世にも珍しく忌まわしい黒目。布が外され檻の中身が晒される。そしてこちらは魔の目でございますと残り1つの檻の布も降ろされた。なぜわかるのか?それはコレの出自を独自に入手したからでございます。ええ、ご購入者様にはお教えいたしましょう。コレらの秘密を。この場では真偽などはどうでもよかった。ただ金を見せびらかし、都合の良いモノを手に入れる。モノが壊れたら新しく調達すればよい。特に激しい拷問で従順になったソレはよく売れ、都合が良かった。元より人目につかぬよようにひっそりと暮らしていたモノたち。例えすれ違う近所の人が1人減ろうがさして気にすることも無いだろう。それが他人というものだ

慌ただしくマクラフリンの館の中を人が行き来する
「失礼ながら.......フィルマー坊ちゃんその」
「僕も困惑しているんだ。けど事実だよ」
皆が青ざめた顔でまた仕事にもどる。先程から身の回りの世話をしに来る者が同じ反応をする。これだけでここまでの大きな反応が出るのだからこれから教会が執り行う刑の執行、つまり祭りにはもっといい反響があるはず。
「さて、繋がりも全て僕には見えているのに」
自分には見えていても他人の目がそれを捉えていない。もっともっとわかりやすく誘い出さねばならない。ヴィスコンティのアレらは国を崩そうとしている魔女とその使い魔であると。アイツらは紛いモノだと認めさせなければならない。これは教会への信仰心からの行動ではないが、材料が全て揃うまでそう装ってきた。絶対的な力が認めた事実にすることでどれだけ効果がでるか。春になり活気が出た経済への更なる効果、家の名前が大々的にあがる。裏の仕事で稼いだのと同じくらい表に売り出せればマクラフリン、フィルマーの将来はあんたいだろう。これを機にヴィスコンティに一石を投じなければ一生、それどころか子孫たちも日陰で人身を漁る様な真似をして、他の貴族たちに煙たがられながら法を犯すオークションを主催し媚びを売り続けなければならない。それを家業だとというような言葉にして甘んじるつもりなど、フィルマーには毛頭なかった。

日がない世界というのはなかなかに堪える。地下牢へと続く階段を降りて腐臭、すえた臭いにフィルマーは整った眉をひそめて思わず目を拭う。
「酷い臭い」
商品を格納している場所のさらに下。本当に魔のモノか調べるために沈める貯水槽も設置されていて、水も豊富にあるというのに掃除には使われないらしい。目的の場所からしてくるのは激しく咳き込む音と、鎖、肉の裂けそうな鋭い鞭の音。その音の元で両腕を天井から滑車に繋がる鎖と革で吊るされ、足枷に重りのついた長身のソレから溢れる体液に生理的な吐気を感じる。早く決着をつけてここを出なければ人としての尊厳を奪われる気がしてきていた。監視を命じた男を急かすように一番手にしなければならないことを問う
「どうだい?サファの居場所は話した?」
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