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5章 紫の外套

表通りの人の往来にそって歩く中、目の前に突然現れた者を避けられずにぶつかった女性は思いのほか派手に倒れた。その女性が身重だったからだろう。バランスなど取れるはずもなく、ただ呆然としていた。しばらくしてロングスカートの裾が赤く染みてゆく。激しい痛みに思わず身を丸めた彼女は、周りの女性達に脇を抱えあげられ何とかその場を去っていった。これが彼女とその夫になるはずだった者と、お腹の子を引き裂くきっかけになっていく。人だかりを振り返った赤い目に、ニヤつく口元の青年は足早にその場を去っていった。

我々が何故シュバリィ家の魔の子を庇い隠しているか知っているか?当主である父に聞かれたものの、フィルマーは答えられなかった。赤い葡萄酒を勧められたが手を出せない。間違えを父の前で答えることを恐れたのではない。いくらか悩む振りをしていると分厚い帳簿を取り出してきた。あぁ、やはり。「それは.......オークションの物ですね。」
頷く父にこの家はなんて業の深いと感嘆の声を上げそうになった
「以前資金難の時に黒目の者を捕らえて売った話をしたな」
確かにきいていた。何れは黒目や魔の子に対して、自分も人の形を無した何かではなく1人の人として扱いに悩むと思ったものだ。しかし未だそれは訪れず、むしろオークションで時折見かけるその者達を蔑むようになっている。彼らは所詮国に認められずただ国を混乱に陥れる癌でしかないと
「また、物珍しい見世物が無ければこの家も保たない。最近は大人しい緑も白も水色でさえ調達が困難だ。ましてやこれを知る彼ら、シュバリィにも反乱因子まで生まれている」
「反乱因子を排除するんですか?」
「いや、使うんですね。」
これまでは村から出ていったモノの情報や、黒目が出入りする場所、足がつかぬモノを選ぶようにようにしていた。だが、今回は目立つモノを使っていいというのだ。
「なら、1つ試したいことがあるんです」
フィルマーにはずっと試してきて、なかなか成果が出せずにいた事があった。それはある時突然現れて、ヴィスコンティの当主候補になったリカルドを引きずり下ろすというもの。そうすればあの家は解体され、マクラフリンが繁栄することになる。
「必ずや繁栄をもたらします。僕はこの家の次期当主ですから」
彼はそう宣言すると笑みを浮かべたまま葡萄酒を手にとり、飲み干した
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