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4章 青い為事

久しぶりに花街に足を踏み入れたサファは道の端に転がる異臭に顔を顰めて進んだ。なんの才もなければそのまま見捨てられて転がり、再起をかけようにもできる仕事は限られている。そこで生きようにも生きながらえるだけで精一杯だった。その中で彼女は.......
目を逸らし、目的地であるセルマの店へと滑り込んだ。ここのもの達だけでなく、国のあらゆる人のように臭いものには蓋をする。それが変わらぬ現実。未来など考えられるはずが無かった

「セルマ!待ってってばー」
澄んだ瞳が前を走る金色の髪を追いかける。サファがまるで全てを失ってしまったかのように悲しみに暮れている時間はそう長くなかった。それにはセルマの存在が大きく関わっていたのは言うまでもない
「早く帰らないとバレちゃうって!」
息を切らして走る少女2人は花街の裏通りを縫うように、時には蔦を使って壁を乗り越えて行く。辺りの通りに火が灯り、人寄せの少女達が立ち始める時間ギリギリに窓から建物に入り.......左右色の違う特徴的なやかましい少年のユーゴに捕まってしまった
「セルマ!サファ!どこに行ってたんだい!?俺は問い詰められて嘘八百を唱える事になったっていうのに。これで何回目だと」
ハエでも払うかのような仕草の後にとってきた砂糖でコーティングされた菓子の包みを無造作に渡す
「まぁまぁ、ほらこれあげるからそのまま伸びた鼻を削ってきなさいよね」
馬鹿にするような言葉も気に停められないほど砂糖を使った菓子というものは高級品。なにをしにどこに行っていたかなど明らかだった。
「これは受け取って置く。また何処かの家から盗みを?セルマ、君の手癖の悪さにサファを巻き込むのは関心できない」
「人聞きの悪いこと言わないでちょうだい。生きるために貴族様の使ってない物を借りただけよ」
「質屋に入れるのは借り物かい。取り返せたとして金が.......」
「いいじゃない。」
生きているのはスラムと隣り合わせの花街なのだから法なんてもとより存在しないとセルマは言う。何より生きて、生き抜いて存在を証明しなければ不当に扱われても声すら上げることも叶わないのだと
「いいと思う。だって使ってないもん。装飾品は.......使ってもらう物だから」
サファも納得はいっていないが、それに頷くしかない。結局両親と兄の死は何も盗られていないにも関わらず、貴族の紋の入った盾の一部があるにも関わらず、目撃者がいるにも関わらず.......強盗の仕業であるとされている。それも貴族の力の下でそうせざるを得なかったのだ。
「って、パパもママも言ってた」
法は力のあるものを守るため。
「サファ、俺は反対だからな!そんなことで何も変わらない。変えたいならもっと中から変えなくちゃ。貴族は専属の技術者は大歓迎だよ。それに君は賢いし.......」
ユーゴの言葉がしまったという表情と共に途中で途切れて、サファが何かを確信したように手を叩いた
「それだね!」
それだ。セルマと確信したように頷き、ユーゴを置いて自分たちの住居階に駆け上がっていく。残されたユーゴは母親にこんな時間に出歩いてなどと小言を言われながら連れられいたが、その表情は小言よりも失言を自ら責めているものだった。

あの時サファはユーゴが革新的な提案をしてくれたことが、セルマが協力的だったのがどれほど嬉しかったか。今となってはそれが根本的な解決にならないことを理解してしまっている。根底を覆すにはもっと大きな国をひっくり返す程の力が必要で、細々と1つの家にこだわっているようでは何も変えられないと。サファに店の主人が戻ったことを告げる声がかかった
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