2章 相反色の家

ヴィスコンティ。そう聞いてまず人が頭に浮かべるのは優秀な養子を試験し、その頭脳を活かす商家だということ。この国にしては珍しく、出処の不明な紫目の集団であるにもかかわらず商業に関してはかなり幅を利かせているということだった。
サファにとってはそれ以外に卸し先でもある。が、あくまでそれ以上でもそれ以下でもないはずだった。けれど中に、知り合ってしまって面倒だという本音を吐いても切り捨てるような馬鹿貴族ではない物好きがいることに安堵していた。そして今はその物好き、リカルドが目の前にいるわけで
「まぁ、いつ他のに本音を聞かれるかもしれないけど」
「サファがほかの貴族と付き合わなければそんな本音聞かれたりしないさ。」
目の前のそいつは楽しそうに笑う。通された部屋で出たお茶はポットを空にして、カップにもあと一口を残してすっかり無くなってしまった。それほど今回は長居をしたのかとサファは驚いていた。話し込んだ気がしない。何気ないはずの世間話をして、ここまで長く過ごしたのは久しぶりだった。しまったと言うような顔でもしたのだろうか、目の前の笑みを深めた彼の耳に下がった赤と青の七宝のピアスが音を立てる。
その彼の風貌は実に目立つ物で、黒い髪が光ですこし緑みを帯び、胸元までまっすぐ伸びるている。それを左右横に垂らし止めていた。ピアスも髪留めも見るからに有名技師の作品。さらに赤い服と黒い上着で底知れぬ笑みを称えた口元と濃い紫の瞳。
ターゲットの特徴だと言われたら間違える者は愚か、すれ違ったって忘れることが出来ぬだろうその人物がヴィスコンティの次期当主候補1位のリカルドだった。
リカルドにとってサファは面白い黄目なのだろう。会う度に何かしらつついてこようとする。
「どんな本音かわかって言ってる?」
「そりゃもちろん。俺みたいな貴族様と接点なんて「あーわかったわかった。早く金を寄越しなさいよ」
サファの、普通の貴族なら腹を立てそうな言葉と態度に言いたいことはなんでもわかるみたいな目をして笑を浮かべているリカルド。さらに何でも当ててくるからタチが悪い。このままペースに乗せられるつもりなんてさらさらなかった。
「なんだ、もうちょっとゆっくり話し相手してくれてもいいのに。でも今回は少し話が長引くほど作品の量があってよかったよ」
「そう。こっちも金が必要だからね」
「何かあった?」
ニヤニヤ笑うリカルドにサファから一言もなくその場はお開きとなる。けれど、リカルドからしてみればこの後が楽しくてたまらないというように下手くそな口笛を吹いて暫くその場で今回の商品をみつめていた。その彼に細身の影が重なる
「いいのですか?本当に」
「いいんだよリリー。面白そうだからアイツら放っといて」
「わかりました」
そう言って影を作っていた金色の長い髪が流れるように離れる。それはリカルドに従順でありながらどこか姉のような雰囲気をかもしだす護衛の女性だった。名をリリー・フォードという。その女性を見送ったリカルドの再開した口笛は
「俺の駒が面白いこと拾って来るといいなぁ」
そんな一言で締められた
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