さて、ほんの少し薄暗い部屋に灯りが入ると直ぐに煮炊き洗濯がはじまる。その殆どを文句の1つもなくこなすルフスをただ目で追うだけ。やろうとして手を出すと座ってての一点張りなのだから仕方なくサファは椅子に座ってホットミルクを飲んでいた。彼のやりたいようにやらせないと時折パニックに似た症状をだしてちょっと忘れっぽいところが出てくる。
まぁ、それは置いといたとしてもサファ自身が元々家事を得意としていないのだが、唯一完璧にできるのは湯を沸かして湯浴みの準備をするくらい。
手洗いで洗濯物をしてあとは樽に入れてヤギ引かせ回させ、それが終わるのを待つ間に火起こししてキッチンの火の調整をしたり、なんとも流れ作業に入る隙など存在しないのだ。
木造平屋の少し天井の低い家の中で慌ただしく働くルフスをサファが見守り、過ぎていくだけ。これだけでも既に他界した両親が遺したサファの実家がサファの新しい家族で賑やかになる。本来なら養子に迎えた栗毛色の髪に茶色い目の少女、ルルもいるのだが今日はあいにく学校の寮に。これだけ賑やかでも寂しいと思うのは親になった性かなとサファは1人ため息をついた。
そうこうしてるうちに準備が出来たと声がかかった。腹の空き具合は最高潮、いい頃合いだと直ぐに席についたサファには肉料理が中心。ソーセージに鶏肉。野菜も少しは食べろとでも言うのか、温野菜が心ばかりか添えてある
｢野菜｣
｢肉ばっかりだとよくないのはわかってるだろ｣
｢ならルフスももっと肉食べなよ。野菜ばっかりは良くないよ｣
何となくお互いにそうしてバランスをとっている。生活に文句はない。食事から少し経てば湯浴みも終わりルフスがあくびを1つしてゆらゆらと揺れ始める
｢寝る？｣
サファの声に誘導されるようにベッドになだれ込む。そう言えばルフスは疲れ切ると突然倒れたりするけど、風呂場で倒れたら溺死しそうだなぁと考えて頭をふった。無し無し。生命力を疑ってる人に対しては安心と言うものはない
｢やっぱり疲れてるんじゃん......｣
サファは彼の髪を撫でてそっと抱き寄せ、眠りに落ちた。これが彼らの普段の日常生活
きっと朝には、起きるのが苦手なルフスをサファが叩き起す。山から降りてくる穏やかな空気を吸って、誰にも邪魔されない空間で、何も怯えることなく、国の1部であることを忘れて、その時間を満喫する。それからルフスが庭の小さな畑から野菜と、放し飼いの鶏から卵をもらって調理して......そんなふうにまた同じサイクルの日を巡っていくことをこの2人は祈りながらすごしていた。