004:白い吐息

息を吐く。たったそれだけの行為で、視界が微かに白くなった。


「地上は寒いな」


唐突な声に振り返ると、ローブを纏ったユダの姿があった。


「ユダ……」
「お前は寒くないのか? ローブも纏わないで……風邪をひくぞ」
「ご心配なさらずとも、大丈夫ですよ。私はそれほど柔ではありませんから」


答えると、そんな風には見えないんだがなと苦笑して、傍らまでやって来たユダは空を仰いだ。


「何か降り出しそうな空模様だな」
「そうですね」


ユダの言葉に同意して空を見上げれば、
確かに彼の言う通り、今にも雨でもちらつきそうな灰色の雲が目に留まる。

もっとも、この気温では恐らくちらつくのは雪だろうが……。


「雪が降ったら、きっと空の向こうには春が来ているのでしょうね」


思わず口にすると、それが耳に届いたのだろう。
それまで空を見上げていたユダが、青空にも似た色の瞳で見下ろしてきた。


「なんだそれは?」


怪訝に問いかけてきたユダを見返し、シンは小さく微笑む。


「地上で記された書物の中に、そんな歌があるのです。雪のことを花に例えたものだったと思うのですが……」
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