086:古びた教会にて

その建物を見つけたのは本当に偶然で、最初は中へ入ろうとは思っていなかった。

ただ、壊れて開け放たれたままになっている扉の向こうに、赤ん坊を抱く母親を描いたステンドクラスの窓から差し込む光を目にして……気がついたときには、建物の中に足を踏み入れていた。


「シン」


どれくらいそこにいただろう。名を呼ぶ声にようやく我に返った。
声の主を振り返れば、空色の瞳が微笑み返してくる。


「なかなか帰ってこないと思ったら、こんな場所にいたのか」
「ユダ」
「もう皆集まっている。レイが心配していたぞ」
「申し訳ありません。すぐに行きます」


告げられた言葉に答えれば、ユダは慌てて戻ることもないだろうと苦笑した。


「遠くにいたんだといえば、納得してくれるだろう」
「そうでしょうか?」


待っている四人に申し訳ないと思うのですがと続けるが、それに構うことなくユダは周囲を見回した。
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