074:日常坐臥

「ユダ」


聖なる泉へやって来た待ち人に名を呼ばれて振り返ると、何者よりも愛しい存在の姿があった。
その手には彼自身の手作りだというハープがある。


「シン」
「遅れてしまって申し訳ありませんでした」


ここまで走って来たのか、息を切らせながらも謝罪してくるシンに苦笑して返す。


「謝らなくていい。俺もついさっきここへ来たばかりだから」
「ですが……」
「それより……聴かせてくれないか?」


謝罪よりも、今日聴かせてくれると約束していた新曲を聴かせてほしいと告げれば、シンは頷いて隣に腰を下ろす。
呼吸を整えて指を弦に這わせれば、出会った頃と変わらない優しい音色が紡ぎ出されて、傍らでその音に瞳を閉じて聴き入った。
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