032:かさぶた

聖なる頂――天使であれば一度は目指し、その山頂に立ちたいと望む山。
六聖獣候補に残らなければ、生涯登ることなどないと思っていたその山を、最愛のヒトと挑み頂上まで登ることができた。


「よく頑張ったな、レイ」


滅多にないルカからの労いの言葉に、レイは嬉しく思いながらも、小さく首を左右に振った。


「僕一人じゃどうなっていたか分かりません。あなたがいたから……あなたと一緒だったから、来れたんだと思います」


最後の方は恥ずかしさから語尾が小さくなってしまったが、ちゃんとルカの耳には届いたようで、
レイよりも些か濃い紅の瞳が微かに見開かれる。


「レイ……」
「……ルカ」


互いの名を呼びあい、どちらかともなく微笑みあう。
そして唇が合わさるか合わさらないかの絶妙な距離に近づいたそのとき、場の雰囲気を壊す嬉々とした声が耳朶を打った。
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