05

「……はぁ」


扉の前でトレーを手にしたまま、何度めになるか分からないため息をこぼす。ここに来て一体どれくらいの時間が経過しただろう。


「……」


扉をノックして「朝食を持ってきた」と、いつものように言えばいいのだと頭では分かっている。分かってはいても緊張してしまうのだ。


(相手はシンなのに……)


決して初対面の相手じゃない。それこそ保育の園にいた頃から知っている友人だ。
少年天使の頃は誰よりも大切な相手で、良いことも悪いことも共有して……互いに隠し事だって、したことすらなかった。

だから余計に、何もできない自分が腹立たしく……悔しい。


『そこまで気負うことはないさ。今までと同じように接すれば大丈夫だよ』


今朝、思わず不安を吐露してしまったのに、苦笑いをこぼして背中を押してくれたユダを思い出す。あのヒトは、自分のことを忘れてしまったシンと毎日一緒にいて、辛くはないんだろうか……?


(あ~~、もうっ!! 今は僕が不安に思ったり、ユダの心配をしている場合じゃないのにっ!!)


誰よりも不安を抱えて辛い思いをしているのは他でもないシンなのだと、胸の内で叫んで己の奮い立たせる。

とにかく、眼前のドアを開けないことには何も始まらないーーそう思ってドアをノックしようとしたまさにその瞬間、ドアノブが回った。
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