04

意識が飛ぶ直前に感じたのは、頭部を襲った激しい痛み。
どうしてそんな痛みを感じたのか、自分の身に何が起こったのか分からなかった。


『シンっ!!』


ヒトの気配を感じて瞼を開ければ、見覚えのない天井と、見知らぬ二人の天使の姿が目に飛び込んできた。


『本当によかった……っ、僕、皆に知らせてきます』


自分が覚醒したのがよほど嬉しかったのか、そう言って紫色の髪をした天使が部屋を飛び出して行く。そんな相手を首だけを動かして見送った。


『……ここ、は?』


心配をかけさせたことを申し訳なく思いながらも、先程出て行った天使のことがどうしても思い出せない。
その事実に困惑しながらも自分のいる場所や状況を把握したくて言葉を押し出すと、その声が聞こえたのだろう。室内に残ったもう一人の天使が答えた。


『聖なる頂の落石に巻き込まれたんだ。お前は二日間眠っていたんだぞ』


聖なる、頂……聖なる……。
天使ならば一度は目指したいと望む、あの山頂のことだろうか?


(なんて馬鹿な真似を……)


自分のような天使に、攻略できるはずがないのにと内心思うが、同時に疑問がよぎる。


(私は何故、聖なる頂に挑んだ?)


行ったからには何か理由がある。そう思うのに、
考えれば考えるほど、記憶がおぼろで何も思い出せなかった。


『もう、目が覚めないと思っていたんだ……』


信じがたい現実に愕然とする自分の傍らで、目が覚めて本当によかったと安堵した声で告げる天使に顔を向ける。

憔悴した顔は、明らかに自分のことを案じていた証拠。それを見て心の奥に痛みを覚えるが、それだけだった。
顔を合わせて、その空色の瞳を見つめても……脳裏に目の前の天使に関する事柄が浮かばない。


『シン……?』


目覚めた自分に違和感を覚えたのか、訝しげな声で名を呼ばれる。嘘でも、ご迷惑をおかけしましたと口にしようかと思ったが、それ以上取り繕えそうにない自分に気がついて諦め、唇に言葉をのせた。


『あなたは――』
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