02

沈んだ太陽の代わりに、月が空を支配している。

冷たさよりも暖かさを宿すその色と同じ色の瞳を、もう何百年も見ていないように感じ、窓から寝台に横たわる相手へと視線を移した。


「……シン」


小さく名前を呼んでみるが、寝台に横たわる彼が起きる気配はない。事故現場で発見して以来変わらない状況に、拳を強く握り締めた。


(それでも、怪我が完治しただけましなのだろうな)


事故が起きた二日前、現場である聖なる頂でシンを発見したときは、正直、もう助からないのではないかと思った。

天使は心臓を抉らないかぎり死ぬことはなく、何度でも蘇生する――そう分かっていても、他の生き物ならば即死であっただろう重傷を、その身に負っていたのだ。

それがたった二日で完治してしまうのだから、
改めて自分達の自己治癒能力は他の生き物と異なるのだと思い知らされた。


「……」


あとは意識が戻るのを待つばかりだと分かっているのに、不安と疑問が心を埋めつくす。
シンが目覚めたら、聞きたいことが山ほどあった。


何の目的があって、聖なる頂へ行ったのか。
何故、誰にも告げずに行ったのか。

(あと、何よりも……)


思い出すのは事故の前日……林の方を見て微動だにしなかったシンの姿。
誰かいるのかと問いかけた自分に何でもないと答えたシンは、明らかに無理をしているように見えた。
覚えているかぎり、シンの様子がおかしかったのは、後にも先にもあのときだけだ。


(もしかしなくても、あの場で何かを見たことが原因で――?)
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