寝ても覚めても……

一見平和に見える天界にも、心根の良くない者達がいる。

天使でありながら凶行や淫靡な享楽に目覚め、他者を貶めるような行為を行う彼らは、年に一度行われる粛清によって天界から追放されるのだが……。

心根の良くない者だけでなく、被害者になる可能性のある者にも注意を促した方がいいのではないかと、ユダは目の前で眠っている天使を見て心底思った。


***


「……シン」


声をかけてみるが、熟睡しているらしいシンは全く反応を返さない。

天空城にいないシンを捜して、ユダが聖なる泉の辺にやって来たのはほんの少し前。そのときからシンは読みかけなのだろう本を手にして大樹にもたれるように眠っている。


(困ったな)


熟睡しているシンの顔はどこかあどけなくて、ユダでなくても心がぐらつきそうになる。だからこそ、目覚めた彼には今の天界にも危険があることや、仮に襲われたらどうするつもりだったんだと説教する必要があると思った。


(もっとも、言った後の反応は大体想像できるが……)


自分の容姿に関心のないシンのことだ、『私のような地味な者を襲うヒトなどいません』と、根拠のない発言をするに違いない。それでもこちらが食い下がれば、何か物言いたげな顔をしながらもすまなそうに頭を下げるだろう。目の前の天使の行動と言葉がリアルに想像できた。
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