笑顔のその目は笑っておらず

読み終えた書物を図書館へ返してからでも、余裕で間に合う……それぐらいの時間に家を出たはずだった。


***


「……本当に、無我夢中を絵に描いたかのような集中ぶりだな」
「!?」


半ば呆れたその声に驚いて本から顔を上げると、待ち合わせの場所にいるはずの声の主と目が合った。


「ユ、ユダ!? 一体いつからこちらに……っ」
「結構前からかな。お前がいつまで経っても来ないから、きっとここだろうと思ったんだ」


何度か声をかけたんだが、気づかなかったのか?と問われて、正直に頷いてしまう。事実、自分の体感では、まだ図書館に着いて数分しか経っていなかった。

にもかかわらず、ユダが言うにはかなりの時間を館内で過ごしていたことになる。


(……それに)


何より館内のこの薄暗さ。蝋燭が灯されているからなのだが、もしかしなくても……。


「もう閉館間際、ですか?」
「少し前に、当直の天使から『戸締まりと火だけお願いします』と頼まれたよ」
「……っ」


閉館間際どころではなく、閉館して数分が経過していると暗に告げられて頭を抱えてしまう。
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