剣遣いの花(後編)

薄桃色の花弁が、はらりはらりと舞い落ちる。
その様を、限りある命を持つ者の生き様のようだと言ったヒトがいた――。




「暇だぁ~~」


感慨に耽りながら桜を見ていたゴウは、自分の横で大欠伸をしながら告げたガイの言葉に現実に引き戻された。


「暇だ、ヒマ、ヒマ~~」
「ガイ、うるさいぞ」
「だって本当のことじゃん。あ――、家に帰りたい」
「明日、四人が来るまでの辛抱だ、我慢しろ」


不満をぼやくガイを宥めるように告げるが、その気持ちは分からないでもない。

なにしろ翌日行うお花見の場所取り役に、運悪く回されたのだ。
いくら天界の気候が温暖だからとはいえ、夜間から翌朝まで外にいろというのは拷問に近いものがある。


「シンが言ったことユダが真に受けるから……、
シンもシンでそういうことは忘れてればよかったのにさ」


宥められても不満は尽きないのだろう。唇を尖らせるガイに、ゴウは溜め息を吐く。


「ならば明日、直接シンに言うんだな」
「要らない知識持ち出すなって? 嫌だよ」


シンに悪いと、恐らく言ったのがレイならば絶対に言わないだろう言葉を口にするガイに苦笑する。


「だったら少しは大人しくしていてくれないか? 上を見てみろ、夜桜もいいものだぞ」


夜空を背景に満開の花を咲かせている桜を指で示せば、ガイはちらりとそれを見る。が、すぐに地面へと視線を落とした。


「ガイ?」


どうかしたのかと目を瞬かせたゴウの耳に届いたのは、なんとも盛大なガイの腹の虫。


「……腹減った」
「お前な。夕食は食べてきたんだろ?」


レイの家からそれぞれの家へ帰る途中、裏山へは夕食を済ませてから行こうと言って別れている。
だから腹が減るはずがないのだが、ガイはそうではないらしい。


「なあ、ゴウ。何か食べ物ない?」


問いかけてくるガイの瞳は、空腹で死にそうだと訴えていた。


「悪いが、俺は食糧など持ってきていないぞ」
「だよなぁ~~」


念押しするように伝えれば、ガイは悲しげな顔で頭を垂れる。そして、どうすればこの空腹を凌げるかを考えるように腕を組んだ。
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