剣遣いの花(前編)

「お花見に行きませんか?」


ことの始まりは、茶会の席でレイが発した一言だった。


「お花見、ですか?」


反芻するシンに、発案者のレイは頷く。


「ええ。ここ最近天気がいいですし、楽しいと思うんです」
「花見るだけのどこが面白いんだよ?」


オレは嫌だというガイに、楽しいですよとシンは微笑む。


「地上では花を見ながら持ってきたお弁当を食べるそうですから。歌ったり、芸を披露したりするという話もありますし」
「弁当出るの!? じゃあ行く!!」
「ガイ、あなたというヒトは……」


食事付きと聞いて俄然乗り気になったガイの、その反応にレイは呆れ返り、同席していたユダとルカは「ガイらしい」と苦笑をこぼした。


「だが、どの花を見てもいいということではないだろう?何の花を愛でに行くんだ??」


疑問に思ったらしいルカの言葉に、問題はそこなんですとレイは己の顎に手を添える。


「天界は地上と違って四季がありませんから、色んな花が所狭しと咲いているので、どの花を見ればいいのか分からないんですよ」
「あ~~、確かにそうだよな。飯食いながら花を見るってだけなら、ここでもいいわけだし」


そう言ってガイは庭に咲き誇る花々を見ながらクッキーを頬張る。


「ここじゃ意味がないでしょう!!」
「シン、地上ではどんな花を愛でるんだ?」


とりあえず行事として存在する地上に倣おうと思ったのだろう。ユダからの問いかけに、シンは思い出すかのように天を見上げた。


「確か樹木のはずですが、種類までは……」


以前読んだのですけれど……と、申し訳なくシンが告げたのと、尋ねる声があったのはほぼ同時だった。
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